この記事は2023年12月1日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「景気はソフトランディングへ、来年は音なしの構えのFRB」を一部編集し、転載したものです。


景気はソフトランディングへ、来年は音なしの構えのFRB
(画像=Dilok/stock.adobe.com)

米国のマクロ経済について、当社は利上げの累積効果が顕在化することで、成長ペースは徐々に鈍化していくとみている。ただ、マイナス成長は見込んでおらず、米国経済は軟着陸(ソフトランディング)を想定している(図表)。

成長ペースの鈍化に伴って失業率は上昇するものの、マイナス成長が回避される中では、労働市場が急速に悪化する公算は小さいとみている。一方、物価の伸びはこの先も低下傾向が続き、米連邦準備制度理事会(FRB)が注視している個人消費支出(PCE)物価指数は「総合指数」も「コア指数」(食品とエネルギーを除く指数)も、2024年1~3月期の伸び率が前年同期比で3%を割り込む見通しである。

次に、米国経済や金融市場の動向のカギを握る金融政策について考察したい。米経済の減速で失業率が上昇し、物価の伸びが鈍化する限り、追加的な利上げの必要性は低下することになる。ただし、図表のとおり、24年の失業率について、7~9月期は4.0%、10~12月期は4.1%と、極端な悪化は見込んでいない。PCEの前期比伸び率も、各四半期で2%台後半を予想する。

つまり、米国のインフレ率が来年2%近辺まで低下するには至らず、FRBは利下げの判断を24年いっぱいは見送る可能性が高いとみている。なお、フェデラルファンド(FF)金利先物市場に目を向けると、11月27日時点で、24年は4回近い25bpの利下げが織り込まれている。当社の見方は、市場の予想よりもタカ派的なスタンスを取っている。

最後に、米金融市場の方向性について述べておきたい。利上げ終了に伴い、一本調子だった米長期金利上昇と米ドル高の局面も終了すると思われる。しかし、来年の利下げは想定していないため、米10年国債利回りは4%台前半程度に低下し、米ドルの減価度合いも緩やかなものにとどまる可能性が高い。ドル円は、日本銀行が極端な引き締めに踏み切らなければ、1ドル=140円台で推移する時間帯が多くなりそうだ。

こうした環境は一般に株価には好ましい。ダウ工業株30種平均やS&P500種株価指数、ナスダック総合株価指数には、足元から来年末にかけて10%程度の上昇余地があると考える。仮に米国経済が当社予想よりも減速すれば、来年利下げの可能性は高まり、米長期金利低下とドル安の度合いは大きくなるだろう。経済の減速は米国株にとってはマイナス材料だが、金融ショックによらなければ、一定程度、利下げが株価を支えるとみる。

景気はソフトランディングへ、来年は音なしの構えのFRB
(画像=きんざいOnline)

三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト/市川 雅浩
週刊金融財政事情 2023年12月5日号