〔要旨〕

中央銀行:利上げは終了した可能性があるものの、タカ派的な発言は続く
(画像=Wealth Road編集部)
  • 政策金利に関する決定:FRB、ECB、イングランド銀行による更なる利上げは行われないだろう
  • ディスインフレ:データからは、特に米国において、経済成長が減速しているものの依然として底堅い中、ディスインフレが進行していることが示される
  • タカ派的発言:中央銀行当局が、ディスインフレの更なる進展が見られなければ、再び利上げを行う用意がある、とのタカ派的な警告を行うことも予想される

データが示す米国のディスインフレの継続的進展

ユーロ圏と英国でも大幅なディスインフレが進行

バンピーランディングが予想される

注目の日程

今週は、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)と、三つの中央銀行の会合が開催される予定です。舞台裏では、これらの中央銀行の担当者たちは、互いにハイタッチし、パンチを飲み、ケーキを食べていることでしょう。というのも彼らは、各国経済を深刻な不況に陥れることなく、インフレを抑えることができる(まさに「ケーキを残しておき、なおかつ食べる」ことができる)との結論に達したからです(彼らは正し「かった」のです。多くの人が望んだほど短くはなかったにせよ、インフレは一時的なものでした)。 しかしマイクの前では、中央銀行当局は、利上げについてよりタカ派的な表情を保つだろうと私は予想しています。

ここ数年に渡り、欧米先進国の中央銀行の先陣を切ってきたカナダ銀行(BOC)に先週、まさにそのような動きが見られました。BOCは先週の会合で、金利の据え置きを決定しました(利上げは7月以来行われていません)。BOCは最近のインフレの進展に鑑み、声明文から「…物価安定に向けた進展は鈍く、インフレリスクは高まっている」との文言を削除しましたが、公の場ではタカ派的なトーンを維持し、「理事会は依然としてインフレ見通しに対するリスクを懸念しており、必要であれば政策金利を更に引き上げる用意がある」と警告しました。また「コアインフレの更なる持続的な下落」を望むとも付け加えました1

私は、今週FRB、ECB、そしてBOEもこのようなやり方をすると予想しています。政策に変更はあないものの、ディスインフレのさらなる進展が見られなければ再び利上げを行う用意がある、とタカ派的な警告をふんだんに発するのです。彼らは金融環境の緩和を抑制するために、懸命に言葉を操ろうと努めています。

結論: 私は、利上げはこれ以上行われず、中央銀行はむしろ、利下げをいつ開始するかについて検討していくだろうと考えています。

データが示す米国のディスインフレの継続的進展

なぜ私がそんなに自信を持って言えるのか、その鍵はデータにあります。特に米国では、経済成長は減速しているものの依然として底堅く、ディスインフレの継続的な進展を示しています。先週のデータでさえ、FRBが2024年春に利下げを開始するのを止めるような内容ではありませんでした:

  • 11月の米雇用統計では、雇用者数が19万9000人増加し、コンセンサス予想を上回りました2。一見したところ、これは少し強すぎる数字のように思われるかもしれません。しかし、雇用創出の大部分は政府によるものです。またこれらの非農業部門雇用者数は、ストライキから職場に復帰した自動車産業労働者や俳優など、4万人以上によって押し上げられたものです。加えて、前月の非農業部門雇用者数は大幅に下方修正されました。また、平均時給は前月比0.4%増となりましたが、懸念材料とはならないと考えています。前年同月比では4.0%増と横ばいで、生産性は上昇しました。私は、この雇用統計は無難な内容で、FRBに利上げを決断させるようなものではないと考えています。
  • また、12月のミシガン大学消費者調査(速報値)も発表されました3。この結果からは、消費者の1年先のインフレ期待の急激な低下が示されました(5年先のインフレ期待も大幅に低下)。これは私の予想通りでした。最近、消費者のインフレ期待が急上昇していたため、FRBがこの指標を重視していることから、FRBウォッチャーの中には懸念する向きがあったことをご記憶かもしれません。しかし私は、これは昨年春に見られたのと同様の、原油価格の上昇を受けた短期的な急上昇にすぎなかったと考えています。歴史的に原油価格は、短期の消費者インフレ期待に過大な影響を及ぼす傾向があります。原油価格が下がった今、インフレ期待も下がって当然だと考えています。同調査からの更なる朗報は、消費者センチメントの改善がついに見られたことです。

ユーロ圏と英国でも大幅なディスインフレが進行

ユーロ圏及び英国でも、大幅なディスインフレの進行という似たようなストーリーが展開しています。先週、タカ派の金融政策で知られるシュナーベルECB専務理事でさえ、「事実が変われば、私の考え方も変わる......直近のインフレ指標は、更なる利上げの可能性をむしろ低くしている......最近のインフレデータは、遅くとも2025年までに(インフレ率を)2%まで戻せるだろうとの確信を私に与えている」と述べたほどです4

英国とユーロ圏の経済は、積極的な引き締めサイクルを経てきたにもかかわらず、持ちこたえています。先週発表されたS&Pグローバル/ハンブルグ商業銀行による11月のユーロ圏総合PMIは、4カ月ぶりの高水準となりましたが、依然として十分縮小領域にあります5 。特に、大きなプレッシャーにさらされているドイツの数値には勇気づけられました。ドイツの11月サービス業PMIは、10月の数値を大幅に上回り、49.6と拡大領域に近づく前向きなサプライズとなりました。英国のデータにも前向きなサプライズがあり、英国のサービス業PMIは50.9と、10月の49.5.を上回りました5

バンピーランディングが予想される

とはいえ、2024年上半期には、最近の積極的な利上げのダメージが出てくることから、これらの国々の経済は大幅に減速すると予想しています。例えば、米国では破産件数が大幅に増加しています。2023年11月の米連邦破産法第11章に基づく申請件数は、2022年11月から141%の増加となりましたが、これは与信条件の厳格化が大きく関わっていると考えられます6 。しかし私は、ハードランディングではなく、「バンピー(でこぼこした)」ランディングを予想しており、2024年下半期に経済は再び加速していくと期待しています。(詳しくは私たちの「2024年のグローバル市場見通し」をご参照ください)。

しかしポイントは、欧米先進国の中央銀行が利上げを終了し、現在は利下げのタイミングを気にしていると考えられることです。とは言え私は、タカ派的な公の警告的発言に対しても心の準備ができています―たとえ内輪では(ケーキを残しておき、なおかつ食べながら)喜び祝っているとしても。

注目の日程

データレポートの勢いは止まりません。私が注目しているデータは、以下の通りです。12月13日にX(Twitter)で、米連邦公開市場委員会(FOMC)による政策金利の決定に関する私の見解と、パウエルFRB議長の記者会見からの重要なポイントをリアルタイムでお伝えしますので、ぜひご参加ください。

公表日

指標等

内容

12月12日

米国CPI

インフレの動向を示す

12月13日

英国国内総生産

地域の経済活動を測定

12月12、13日

ユーロ圏鉱工業生産

鉱工業セクターの健全性を示す

12月12、13日

米連邦公開市場委員会

金利の道筋に関する
最新の決定を発表

12月14日

欧州中央銀行決定会合

金利の道筋に関する
最新の決定を発表

12月14日

米国小売売上高

消費需要を測定

12月14日

スイス国立銀行決定会合

金利の道筋に関する
最新の決定を発表

12月14日

イングランド銀行決定会合

金利の道筋に関する
最新の決定を発表

12月15日

中国小売売上高

消費需要を測定

12月15日

米国鉱工業生産

鉱工業セクターの健全性を示す

12月15日

米国S&Pグローバル購買担当者
景気指数(速報値)

製造業とサービス業の
経済の健全性を示す

  • 1.出所:カナダ銀行プレスリリース、2023年12月6日
  • 2.出所:米雇用統計、2023年12月8日
  • 3.出所:ミシガン大学消費者調査、2023年12月8日
  • 4.出所: 特報:ECBタカ派のシュナーベル専務理事、利上げを見送る、ロイター、2023年12月8日
  • 5.出所:S&Pグローバル/HCOB、2023年12月8日
  • 6.出所:破産統計、米国破産協会、2023年11月

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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