2023年11月のM&A件数(適時開示ベース)は前年比25件増の114件と今年の月間最多を記録した。国内、海外案件がそろって活況を呈した。1~11月累計は946件と前年を81件上回るハイペースで推移し、ひと月を残して前年の年間件数949件にほぼ並んだ。年間件数はリーマンショック前年の2007年(1169件)以来16年ぶりに1000件の大台に乗せる見通しだ。
一方、11月の取引金額(公表分を集計)は1兆6701億円と3月(2兆1684億円)に次ぐ今年2番目となった。大正製薬ホールディングスのMBO(経営陣による買収)が7000億円規模に達した。
MBOが牽引、トップ10に5件
上場企業に義務付けられた適時開示情報のうち経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。
月間のM&A件数が100件を超えるのは3月(105件)に続いて今年2度目。11月の総件数114件の内訳は買収99件、売却15件(買収側と売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は25件と今年最も多く、日本企業が買い手のアウトバウンド取引15件、外国企業が買い手のインバウンド取引10件だった。
海外案件は1~11月累計で184件(アウトバウンド123件、インバウント61件)。前年137件(アウトバウンド77件、インバウント60件)を46件上回り、コロナ禍前の2019年182件(アウトバウンド144件、インバウント38件)をわずかに超えるペースで推移中だ。昨春来の記録的な円安下にもかかわらず、内容的にも日本企業が買い手のアウトバウンド取引の復調ぶりが著しい。
金額面は夏場以降の低空飛行から抜け出した。6月から途絶えていた1000億円超の大型案件が5カ月ぶりに復活し、しかも4件を数えた。100億円以上で括った場合の案件数も17件と今年最多に上った。月間では1兆6701億円まで積み上がり、こちらも5カ月ぶりに1兆円を突破した。なかでも牽引役は金額トップ10のうち6件を占めたTOB(株式公開買い付け)で、うち5件はMBOを目的とするものだった。
また、1~11月累計は8兆466億円で、すでに前年の年間金額(6兆8355億円)を大きく上回る。
大正製薬7000億円、ベネッセ2000億円で非公開化
11月の金額首位は大正製薬ホールディングスのMBO。オーナー家が設立した買収目的会社がTOBを行い、株式を非公開化する。買付代金は最大7077億円で、MBOを目的としたTOBで過去最大だ。買付期間は11月27日~2024年1月15日。
大正製薬は一般医薬品(大衆薬)の最大手で、風邪薬「パンシロン」、ドリンク剤「リポビタンD」で知られる。主力の一般医薬品をめぐっては国内人口の減少などで伸び悩みが見込まれ、アジア市場の開拓を重点課題とするほか、健康食品、化粧品など健康関連商品への領域拡大が急務になっている。こうした中、上場を維持したままでは短期的な成果が求められ、事業構造改革などの実施が難しいと判断した。
金額2位もMBOで非公開化するベネッセホールディングス。創業家がスウェーデン投資ファンドのEQTと組んでTOBを行い、最大2079億円を投じて全株式の取得を目指す。少子化による学生人口の減少や、入試改革に伴う旧来型の通信教育「進研ゼミ」や模擬試験「進研模試」の需要低下など国内教育市場を取り巻く環境変化を受け、中長期的な視点で経営改革に取り組む。TOBは2024年2月上旬をめどに始まる見通し。
ベネッセはここ数年、過去に買収した国内外の主要子会社を相次いで売却した。2022年に語学教育で世界的に知られる米国ベルリッツ・コーポレーション、2020年には通訳・翻訳大手のサイマル・インターナショナル(東京都中央区)の経営から手を引いた。