2023年6月に創業家出身者からプロパーに社長交代したエステー<4951>。初のプロパー社長となった上月洋氏は10月の「新体制方針説明会」で、成長戦略として「M&Aによる新領域への参入」を打ち出した。これまで同社が公表したM&Aは4件と、決して多くない。今後、M&Aでエステーの「空気がかわる」可能性が高い。

M&Aでカイロ事業を拡充したが…

これまでの同社によるM&Aを振り返ってみよう。最初にM&Aのターゲットになったのは防寒用品のカイロ事業。2017年8月に使い捨てカイロ「オンパックス」など温熱製品の製造・販売を手がけるマイコール(栃木県栃木市)のカイロ事業を買収すると発表。

マイコールは1904年創業で、エステーとカイロの販売業務提携を結んでいた。エステーはグループの商品開発・マーケティング力を活かし、国内・海外市場でのカイロ事業の拡大を図った。

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(画像=M&Aでカイロ事業を強化したエステー(同社ホームページより)、「M&A Online」より引用)

カイロ事業関連のM&Aは続く。エステーは2019年9月に、欧州でカイロ商品を製造・販売するイタリアZETA S.R.L(ナポリ)の持分75%を取得して子会社化(2020年4月に25%を追加取得して完全子会社化)。ZETAは「ONLY HOT」と名づけた寒さ対策商品を主力とする。エステーは同社の欧州販路を活用し、カイロ事業の海外展開に本格的に乗り出した。

しかし、カイロ事業の海外展開は頓挫する。1年半後の2021年3月に、子会社化したZETA S.R.L.の全株式をイタリア投資会社のREGA HOLDING S.R.L.(ナポリ)に譲渡したのだ。原因は新型コロナウイルスの感染拡大で事業活動が制限され、収益確保が困難な状況にあったからだ。ZETAに対する売掛債権と貸付金のすべてを債権放棄した上に、譲渡価額はわずか100ユーロ(約1万2900円=当時)だった。


新体制でのM&Aでは、消臭とかおりがターゲット

そして上月体制で初となるM&Aが、2023年12月1日に発表した花王<4452>の猫用システムトイレ「ニャンとも清潔トイレ」事業の取得。中長期戦略のテーマとするペットケア事業を育成するのが狙い。「ニャンとも清潔トイレ」のブランド力と、エステーが持つ消臭技術との組み合わせによる相乗効果を期待している。

取得予定日は2024年6月1日。取得するのは「ニャンとも清潔トイレ」で展開する猫用のトイレ、チップ、シート、マット、尿検査キットの製造・販売に関する事業だ。これまでのカイロ事業から、自社の中核事業である消臭や脱臭といった「空気ビジネス」が、今後同社が取り組むM&Aのテーマとなりそうだ。

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(画像=エステーが取得する猫用システムトイレ「ニャンとも清潔トイレ」事業(花王ホームページより)、「M&A Online」より引用)

直近の2023年3月期では、売上高が前期比0.2%増の455億7600万円、経常利益は同21.6%減の27億3000万円、当期純利益は同64.9%増の18億2800万円となった。売上高はわずかに増加したが、原材料の値上げや円安による仕入コストの上昇により売上原価が増加したのに加えて、コロナ禍が落ち着いたため除菌コート剤などの棚卸資産評価損を計上したのが響いた。当期純利益の急増は前期の減損損失がなくなった反動。

「新体制方針説明会」の発表によると、同社は今後「かおり×ウエルネス×グローバル」を旗印に、「香りとウェルネス(健康づくり)はグローバルに通用する」として、睡眠やストレス軽減に役立つ香りの開発にオープンイノベーションやM&Aを活用していく方針だ。