2023年の運輸業界におけるM&Aは件数が前年比29.4%減の24件、取引総額は同75.6%減の約1737億円と、いずれも2年ぶりに減少した。それでも2014年以降の10年間でみると、件数は前年の34件、取引総額も前年の約8137億円に次ぐ、2番目となり好調を持続した。コロナ禍の活動制限が撤廃され、経済の正常化に伴う物流需要の回復や「2024年問題」として懸念されている人手不足などからM&Aが引き続き堅調だったとみられる。

TOBがなく、取引総額が伸び悩む

クロスボーダー案件は前年比1件増の6件だったが、全体に占める割合は前年比9.9ポイント減の25.0%と減少した。6件とも国内企業が海外の企業や事業を買収する「IN-OUT」取引だった。円安にもかかわらず、国内運輸企業が海外企業に買収される案件はなかった。

国内運送業が燃料高騰や人手不足でオペレーションが難しくなっている上に、運賃の値上がりがコスト増を補う水準に達していないこともあり、外部環境の厳しさが海外企業に二の足を踏ませている可能性が高そうだ。

前年は3件あったTOB(株式公開買い付け)は2年ぶりに0件。前年はTOBが1位、2位、5位と上位にランクインし、TOB案件だけで取引総額全体の79.4%を占めていた。2023年の取引総額が大幅減となったのも、金額が大きいTOBがなかった影響が大きい。


業界トップはNIPPON EXPRESSの豪物流大手買収

運輸業界の取引総額のトップは、NIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)<9147>が欧州持ち株子会社を通じて、オーストリアの物流大手カーゴ・パートナーを子会社化した案件。取得価額は約1267億5000万円(8億4500万ユーロ)。

欧州域内の生産拠点として今後成長が見込まれる中東欧地域の物流基盤を強化し、グローバル市場での競争力向上を目指す。カーゴ・パートナーはウィーンを本拠地とし、中東欧地域に強固な物流基盤を持ち、自動車、電機・電子、医薬品産業における海運・航空フォワーディング事業を中心に欧州、アジア、北米で国際物流を展開している。

取引総額2位はミライト・ワン<1417>が米投資ファンドのカーライル・グループ傘下で航空測量大手の国際航業(東京都新宿区)の全株式を取得し、子会社化した案件。取得価額は約455億円。国際航業の空間情報技術を基盤とした企画提案・設計能力と、ミライト・ワンの施工・運用に関するエンジニアリング能力を組み合わせ、幅広い領域での事業展開につなげる。

国際航業はパスコ、アジア航測と並ぶ航空測量大手3社の一角だ。日本アジアグループが2015年に同社を子会社化したが、2021年にカーライル・グループに売却。かつて仕手集団「光進」による乗っ取り事件に巻き込まれたことでも知られる。

取引総額3位はレオパレス21<8848>がベトナムで物流倉庫を運営するシンガポール子会社ASPENN INVESTMENTS PTE. LTD.の全保有株式95%を、両備ホールディングス(岡山市)傘下の投資会社CASCO INVESTMENTS LIMITED(英領バージン諸島)に譲渡した案件。譲渡価額は13億9500万円。レオパレス21の非中核事業、不採算事業の譲渡・撤退方針に基づく構造改革の一環。

2024年は物流需要の回復は期待できるものの、ドライバーや倉庫スタッフなどの人手不足に加えて燃料コスト高騰といったマイナス材料も懸念され、規模拡大や事業効率化のためのM&Aが活発化する可能性が高そうだ。