2023年のTOB(株式公開買い付け)件数は74件と前年を15件上回り、2009年(79件)以来の高水準となった。規模的にも東芝の非公開化案件は約2兆円に達し、大正製薬ホールディングスのMBO(経営陣による買収)は総額7000億円を超える。活況に沸いたTOB戦線のもう一つの見どころ、「公開買付代理人」の座をめぐる争いではSMBC日興証券が21件と、2位の野村証券(10件)に大差をつけて3年連続トップだった。

SMBC日興、「東芝」を筆頭に件数積み上げる

公開買付代理人はTOBへの応募を受け付ける窓口証券会社のこと。買収者(公開買付者)に代わって、買収対象会社の株券の保管・返還や買付代金の支払いになどの事務を担う。TOBに応募する株主は代理人の証券会社に口座を開設し、株式を移管する手続きが必要になる。

2023年の代理人レースを制したSMBC日興証券は年間を通じてコンスタントに件数を積み上げ、前年を7件上回る21件まで伸ばした(一覧表)。

このうちの一つが昨年9月にTOBが成立した東芝の非公開化案件。国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が実施したTOBへの応募額は1兆5729億円(TOBに応じなかった株主からの買い取り分を含めて総額は約2兆円)に上ったが、SMBC日興証券が代理人として仕切った。東芝はJIPの完全子会社として経営の立て直しを進めることになり、12月末に上場廃止となった。

TOBとして東芝の案件は歴代2位の規模で、2020年にNTTが総額約4兆2500億円で傘下のNTTドコモを完全子会社化したのに次ぐ。

もう一つ、SMBC日興は注目案件に関与している。福利厚生代行のベネフィット・ワンに対して医療情報サービス大手のエムスリーが11月中旬から実施中のTOBで代理人を務めるが、第一生命ホールディングスが突如参戦の意向を表明し、ベネフィット・ワンをめぐる争奪戦の様相を呈しているからだ。第一生命はエムスリーを上回る買付価格を提示し、1月中旬をめどに対抗TOBを始める予定だ。

2位は野村、上位を脅かすSBI証券

2位は野村証券の11件。前年の7件から2ケタに乗せたものの、SMBC日興に2倍近いリードを許し、2020年(21件)を最後にトップの座から遠ざかっている。同社が代理人を務める主な案件としては昨年11月末に始まった大正製薬ホールディングスのMBO。買付総額は最大7077億円で、MBOの一環として行われるTOBとして国内最大だ。

既成の大手証券を相手に躍進したのがネット証券最大手のSBI証券。代理人の件数は8件と、3位のみずほ証券9件にあと一歩まで迫った。大和証券の6件、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の6件を抑える。

SBI証券は2020年1件、2021年4件、2022年3件で、それ以前の2010年代はトータル6件に過ぎなかった。既成の大手証券の後塵を拝してきたが、2023年は着実に件数を積み上げ、トップ3をうかがう位置につけた。

SBI証券がかかわった8件のTOBのうち、最も規模が大きかったのが店頭マーケティング支援のインパクトホールディングスがMBOで株式を非公開化する案件で、応募額は約217億円。また、2021年にSBIホールディングスが子会社化した新生銀行(現SBI新生銀行)をめぐっては昨年5月に、非公開化に向けて2度目のTOBが行われたが、系列証券として再び代理人を務めた。

ネット証券ではauカブコム証券が5件、マネックス証券が3件のTOBに関与しているが、いずれもサブの「復代理人」にとどまる。