この記事は2024年1月19日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「打撃指標「wRAA」に見るMLB日本人野手のチーム貢献度」を一部編集し、転載したものです。
(米野球データサイト「FanGraphs」)
野球における主要な打撃指標といえば「打率」「本塁打」「打点」のことだが、はたして打点という指標は、選手個々の得点創出能力を如実に反映しているといえるだろうか──。例えば、2023年のMLBにおいて、大谷翔平選手は打率3割4厘、本塁打44本、打点95だった。一方、大谷選手と同じアメリカンリーグのヒューストン・アストロズに所属するカイル・タッカーは打率2割8分4厘、本塁打29本と打率と本塁打は大谷選手より劣る成績であるにもかかわらず、打点は112と大谷選手より多い。
この理由は、大谷選手の前を打つ打者の出塁率が3割前後であるのに対し、タッカーの前を打つ打者の出塁率が4割近いことにある。つまり、大谷選手は塁上にいる走者が少ない状況で打つことが多いのに対し、タッカーの打席時には塁上に走者がいる状況が多いということだ。このように「打点」は個人の成績のみならず、チームの出塁力に依存する指標であることが分かる。
近年の野球において、出塁率と長打率の合計で表される「OPS」(On base Plus Slugging)という打撃指標は得点との相関が強く、算出も容易なため、日本でも知名度は上がってきた。OPSは1を超えると超一流の打者という評価になるが、23年の大谷選手のOPSは1.066でMLBトップの成績である。
ただし、MLBではOPSよりも科学的な打撃評価指標である「wRAA」(weighted Runs Above Average)という指標が重用されている。これは、過去のデータから、注書きのように算出される「得点価値」(注)をもとに「リーグの平均的な打者に比べ、1シーズンでどれだけの得点を増やすことができたか」を計るものだ。
そこで、大谷選手のwRAAを計ってみると57.3となる(図表)。これは「大谷選手がシーズンを通じて、平均的な同リーグの打者に比べてチームに57.3点をより多くもたらす貢献をした」と評価される。他の日本人野手に目を向けると、シカゴ・カブスに所属する鈴木誠也選手のwRAAは19.4、ボストン・レッドソックスの吉田正尚選手のwRAAは9.7である。
日本人3選手の年俸をwRAAで割った値で比較すると、吉田選手は1点当たり約154万6,000ドル、鈴木選手は1点当たり約87万6,000ドルと、鈴木選手は吉田選手と比べてコストパフォーマンスが良かったといえる。大谷選手の場合、投手と野手の評価があるので単純比較はできないが、23年シーズンの年俸3,000万ドルをwRAA57.3で割ると、1点当たり約52万4,000ドルとなり、吉田選手や鈴木選手と比較して高コストパフォーマンスな選手であったことが分かる。
江戸川大学 客員教授/鳥越 規央
週刊金融財政事情 2024年1月23日号