この記事は2024年2月9日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「得点圏打率=勝負強さは間違い?」を一部編集し、転載したものです。


得点圏打率=勝負強さは間違い?
(画像=103tnn/stock.adobe.com)

(米野球データサイト「FanGraphs」ほか)

スポーツやビジネスの世界において、チャンスに成果を残す人材は「勝負強い人」として評価されることが多い。プロ野球でその“勝負強さ”を計る指標として真っ先に思いつくのは「得点圏打率」だろう。2021年シーズンにおいて、阪神の梅野隆太郎選手はシーズン打率2割2分5厘に対し、得点圏打率3割2分1厘を記録し、その年のテレビ中継でアナウンサーが毎度「勝負強い梅野」と称していたことを記憶している。

しかし、梅野選手の20年シーズン打率は2割6分2厘に対し、得点圏打率は1割9分7厘と大きく下回るなど、シーズンによって得点圏打率にばらつきが見られる。このことは、梅野選手に限らない。

それを証明するために、得点圏打率を「年度間相関」から見ていきたい。年度間相関とは、得点圏打率といった指標がシーズンや期間をまたいでも一貫性があるかを表す尺度だ。22年と23年シーズンどちらも規定打席数を上回った打者の得点圏打率の相関係数を求めると0.01で無相関で、得点圏打率が継続性のない指標だと分かる。

しかも、得点圏打率は単に得点圏に走者がいる場面での打率であるため、試合を決めるような重要な得点圏で打ったのか、そうでないのかは定かでない。そのため、真の勝負強さを示す指標としてはそぐわない。

次に、メジャーリーグで考案された「勝利確率」をもとに勝負強さを探っていきたい。勝利確率とは、イニング、アウトカウント、塁状況からなる各シチュエーションにおいて、チームがどのくらいの確率で勝利できるかを示す数値である。この勝率確率をどれだけ増減させたかにより、選手の貢献度を計ろうとする指標が「WPA」(Win Probability Added)だ。WPAを用いると、同じ2ランホームランであっても、打った場面ごとにホームランの価値の差を数値化できる。

ただし、WPAは、クリーンナップなどの重要な場面に立ちやすい打順の打者が上昇しやすい傾向にある。そこで、選手個々の働きに焦点を当てるため、場面の重要度を示す指数「レバレッジインデックス」(Leverage Index=LI)でWPAを割り、場面の重要度を平準化した数値が「WPA/LI」である。この数値の平均は0で、5を超える選手はチームの勝利に多大な貢献をしたという評価になる。

大谷翔平選手の23年シーズンにおけるWPA/LIは6.16でアメリカンリーグの打者の中でトップであり、メジャーリーグ全体でも3位である(図表)。こういう指標からも大谷選手のすごみが裏付けられ、24年シーズンから10年間で総額7億ドルという北米プロスポーツ史上最高額で契約を締結したことへの納得感も生まれやすい。

筆者が複数のプロ野球関係者から聞いた話によれば、メジャーリーグほど厳密な指標ではないが、こうした考え方に沿って選手の査定ポイントを決め、年俸にも反映しているとのことだった。メジャーリーグで用いられる指標がプロ野球にも浸透すれば、プロ野球選手の真の勝負強さがより明確になるかもしれない。

得点圏打率=勝負強さは間違い?
(画像=きんざいOnline)

江戸川大学 客員教授/鳥越 規央
週刊金融財政事情 2024年2月13日号