この記事は2024年2月9日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「デフレ懸念が高まる中国経済、人口減少や雇用悪化が逆風に」を一部編集し、転載したものです。


デフレ懸念が高まる中国経済、人口減少や雇用悪化が逆風に
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2023年の中国の経済成長率は前年比5.2%となり、政府目標の5%前後をクリアした(図表)。数字だけを見れば、中国経済は比較的堅調な推移を見せている。

足下の中国景気は供給サイドを中心に底入れが続く動きが確認される。その一方で、需要サイドについては、家計消費をはじめとする内需が力強さを欠く推移となっている。さらに、外需も米中摩擦や世界的なデリスキング(リスク回避)を目的とするサプライチェーン見直しの動きが足かせとなる状況が続いている。このため、足下の中国経済は需給ギャップの拡大につながる動きが見られる。

こうした状況を反映し、23年の名目成長率が前年比4.6%と実質成長率を下回る8年ぶりの「名実逆転」となるなど、デフレが意識されやすくなっている。この背景には、不動産市況の低迷が続く中で幅広い分野がバランスシート調整圧力にさらされていることに加え、当局が長期にわたって「ゼロコロナ」に拘泥した影響で、若年層を中心に雇用回復が遅れていることがある。

デフレが意識される状況を勘案すれば、中国人民銀行が利下げなど金融緩和にかじを切ることが予想されるが、現時点では預金準備率の引き下げなど、小出しの対応が続く。株式市場でも、さまざまな株価維持政策(PKO)が打ち出されているものの「小手先」の対応に終始している。中銀が利下げ実施に及び腰となる背景には、コロナ禍で悪化した銀行部門の収益のさらなる落ち込みを警戒していることが挙げられる。

他方、昨年の人民元安を理由に米ドル建てで換算したGDPは29年ぶりに減少するなど、世界経済における存在感の低下を招いたことも影響している可能性がある。中銀による利下げ実施は人民元安を招くことが懸念されるなか、事実上政策運営の手足が縛られる状況に陥っている可能性が考えられる。

中国ではコロナ禍を受けて22年に61年ぶりとなる人口減少に陥ったが、23年も2年連続で人口が減少し、そのペースが加速するなど潜在成長率の低下につながる動きも見られる。地方部を中心に不動産の過剰供給が意識されており、若年層の雇用悪化も重なり不動産市場を取り巻く環境は一段と厳しくなることも予想される。

減少局面入りするも人口は14億人を超える上、富裕層や中間層の厚みを勘案すれば、市場として見た中国の魅力が依然として高いのは事実だろう。しかし、マクロ的観点で見た中国経済を取り巻く状況は極めて厳しく、ビジネス視点での中国の捉え方はこれまで以上に難しいものとならざるを得ないだろう。

デフレ懸念が高まる中国経済、人口減少や雇用悪化が逆風に
(画像=きんざいOnline)

第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト/西濵 徹
週刊金融財政事情 2024年2月13日号