運用資産が1,000万円を超えてからの投資 リスクのうまい取り方
(画像=takasu/stock.adobe.com)

目次

  1. ポートフォリオって何? 卵は一つのカゴに盛るな
  2. リスク管理はポートフォリオ運用、分散投資が基本
  3. ポートフォリオ運用の基礎知識
  4. GPIFに見る長期運用でのリスクの取り方
  5. オルタナティブ投資の魅力
  6. まとめ

資産運用では、資産が1,000万円を超えたころからリスク管理が非常に大切になります。リスク管理とは、単に現金や債券などの安全資産を増やせばいいわけではなく、分散投資をすることです。

分散投資では、高リターンを狙いながらも株や債券、不動産など違った動きをする金融商品を組み合わせることが重要です。

つまり運用資産の全部が下がることがないようにすることです。その組み合わせのことを「ポートフォリオ」といいます。ポートフォリオの考え方を解説しましょう。

ポートフォリオって何? 卵は一つのカゴに盛るな

ポートフォリオ(Portfolio)とは、運用している金融商品の具体的な組み合わせのことです。語源は、紙ばさみや書類入れという意味ですが、欧米で紙ばさみに資産の明細書をまとめて保管していたことが由来といわれています。

「私のポートフォリオは、半分がオルカン、半分が日経平均投信です」など具体的に話すことが多い傾向です。

ポートフォリオを組むということは「自分の運用資産全体で、どのような投資信託、どのような株、どのような債券など商品の期待リターンやリスクを考えながら、どのような金融資産をどれくらい持つかを検討する」という意味です。

投資の格言で「卵は一つのカゴに盛るな」というものがあります。卵を一つのカゴに盛った場合、そのカゴを落とすと全部の卵が割れてしまいます。

しかし複数のカゴに分けて盛っておけば、そのうちの一つのカゴを落としカゴの卵が割れても、他のカゴの卵は影響を受けずにすみます。(図1)

(図1)ポートフォリオの概念

リスク管理はポートフォリオ運用、分散投資が基本

資産が増えてきた場合、リターンを求めながらも分散投資でリスクをコントロールすることが大切となります。さまざまな金融商品に資産を分散すること……これが分散投資であり、ポートフォリオ運用です。

例えば日本の自動車会社Aに投資していて、資金的に余裕がでたので日本の自動車会社Bも買ったとします。

銘柄の分散ではありますが、基本的に自動車株は同じような動きをするため、これは卵を一つのカゴに盛った投資となり、リスク分散効果は低いでしょう。

ポートフォリオ運用は、国やセクターや銘柄を分散することです。例えば日本株でも資産の20%ずつを自動車関連、半導体関連、消費関連、小型成長株、高配当銘柄の5セクターに投資するといった具合です。

私たちの国民年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)では、分散投資に関してアイスクリーム会社とおでん会社を例に挙げて以下のように説明しています。

  • アイスクリームは夏に売れるので夏に株が上がりやすい
  • おでんは冬に売れるので冬に株が上がりやすい

この2銘柄でポートフォリオを組めば、安定した株の動きが期待できます。これがリスク管理の基本です。(図2)

(図2)リスク管理の基本

ポートフォリオ運用の基礎知識

ここでは、ポートフォリオ運用の基礎知識を見ていきましょう。

1.投資のリスクとはボラティリティ

リスクとは、一般的には「危険」を意味する言葉です。しかし金融の世界では「リターン(収益)のボラティリティ(変動)」のことを指します。言い換えると「リターンが不確実」ということです。(図3)

値動きが激しい商品に投資することは、大きいリターンをとれる可能性もありますが、大きく損することもあるため、リターンは不確実といえます。

金融商品は「ハイリスク・ハイリターン」、「リターンとリスクはトレードオフ(相反する)」といわれるのは、このためです。

株式や債券のリターンは、配当や利息によるインカムゲインと、価格変動に伴うキャピタルゲインという2種類があります。

将来のリターンは、確定していません。基本的にインカムゲインは安定しており、キャピタルゲインは変動します。リスクコントロールは、この変動を減らすことです。

(図3)リスクの概念

2.ポートフォリオの基本はインカムゲイン

基本的にポートフォリオ運用で考えたいのは、インカムゲインです。

一般的に株は、ハイリスク・ハイリターンのリスク資産です。株価は、大きく上がることもあれば、大きく下がることもあります。

一方、債券の値動きは比較的小さく、値下がりしたとしても償還まで保有すれば額面で返済されるためリスクは限定的です。

大金持ちであれば特に大きなリスクを取らなくてもインカムゲインだけで資産は守れて増やすことが期待できます。

資産が大きい人における運用の基本は、配当や利息のようなインカムゲインを高めて、低リスクで守りながら運用することです。

世界的に金利の高い国の債券が注目され、大きな運用資金が高金利通貨へシフトしていくように、お金は、高いインカムゲインに吸い寄せられます。金利の高い国の通貨が買われるのは、そのためです。

富裕層にとってポートフォリオの基本は「いかにインカムゲインの利回りを上げるか」なのです。

逆に資産をこれから築いていく場合、リターンを最大化するには株などリスクの高い商品を取り入れる必要があります。

運用では、大きなキャピタルゲインが狙える商品をポートフォリオに組み入れたリスクコントロールが大切です。

リスクの許容量は、年齢やライフスタイルによって異なるため、最初に運用方針を立てましょう。

3.アセットアロケーション|違う動きの金融商品を組み入れること

資産を分けて投資することが分散投資です。複数の資産を保有することで全体のリスクを低減することができます。これが、資産分散効果です。

ポートフォリオを組むのに一番意識したいことは、動きの違う資産を組み入れることです。

日本の自動車会社AとBへの株投資例で説明したように、単に分散すればいいわけではありません。アイスクリーム株とおでん株を買うように、違う値動きをする銘柄を組み入れることが大切です。

しかしアイスクリームもおでんも日本株の場合、日本株が下げる局面では同じように下げる可能性が高くなります。

資産運用では、個別銘柄よりもさらに大きな資産(アセットクラス)で考えることが大事かもしれません。

資産別のリスクとリターンの特徴から(図4)、債券や株という昔からある伝統的なアセットクラスを分散することが求められます。

具体的には、以下のようなものが代表的な分散投資です。

  • 投資する国の分散
  • 株式や債券といった資産(アセットクラス)の分散
  • 銘柄の分散
  • 時間の分散 など

長期投資が優れているといわれる理由は、時間分散効果が優れているからといえます。

(図4)資産別のリスクとリターンの関係

GPIFに見る長期運用でのリスクの取り方

日本の公的年金となる国民年金を運用しているのは、GPIFで年金運用としては世界一の規模です。

世界一の長期運用ファンドがどのようにアセットアロケーションをしてどのようにリスク分散しているかが、資産運用の参考になります。

GPIFの基本ポートフォリオの考え方

長期運用においては、短期的な市場動向で資産構成割合を変更するより、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していくほうが効率的で良い結果をもたらす傾向です。

そのためGPIFでは、各資産の期待収益率やリスクなどを考慮したうえで、積立金の基本となる資産構成割合(基本ポートフォリオ)を以下のように定めています。(図5)

GPIFの基本ポート:国内株式25%:国内債券25%:外国株式25%:外国債券25%

アセットクラスは、国別で日本と海外に分散、さらに資産別で株式と債券に分け、それぞれを基本25%としています。

ただ資産ごとの騰落があり、株が大きく上がったときには資産に占める株の割合は自動的に上昇するため、基本の25%に対し資産ごとにバッファ(許容範囲)があります。日本株の場合、25%からプラスマイナス8%です。

加えて、基本ポートフォリオ、バッファは、投資実績、経済の状況などによって経営委員会で見直しています。これが日本の年金の運用方針になるのです。

(図5)GPIFの基本ポートフォリオ

ポートフォリオのリバランス

基本ポートフォリオでは、価値が上がる資産、下がる資産があれば資産バランスは常に変動します。

バッファのなかに収まっていれば問題ないですが、なるべく基本ポートフォリオに戻すために上がった資産を売り、下がった資産を買うことが必要です。

これが、リバランスです。常にプラスに働くとは限りません。特定の投資対象が値上がり続ける場合、もしくは値下がり続ける場合には、リバランスを行ったことがマイナスに働くこともあります。

しかし最初に想定した目的に向かってブレない投資 をすることが長期では大切です。

オルタナティブ投資の魅力

世界的な金利低下局面が続きインカムゲインが低下したため、長期の年金運用も運用難の時代です。

株、債券といった伝統的なアセットクラス以外に高インカムゲイン、高リターンを上げる金融資産への投資を増やしつつあります。世界的な年金運用のトレンドです。

こうした伝統的資産以外の金融商品で不動産やヘッジファンド、商品、暗号資産(仮想通貨)、プライベートエクイティ(未上場企業)などへの投資を「オルタナティブ投資」といいます。(図6)

オルタナティブ資産は、伝統的な投資対象の上場株式、債券とは異なるリスク・リターン特性を有しています。つまりリスク分散に適しているのです。

(図6)GPIFが投資しているオルタナティブ資産

GPIFは5%を上限にオルタナティブ投資

一般的にオルタナティブ資産は、伝統的資産に比べて流動性が低い半面、利回りが高いとされています。GPIFは、長期の投資家で豊富な運用資金があるため、流動性にはそれほどこだわる必要がありません。

2020年度から始まったGPIFの第4期中期計画では、資産全体の5%を上限にオルタナティブ資産(インフラストラクチャー、プライベートエクイティ、不動産)の運用を行うことにしています。

まとめ

1,000万円からの資産運用では、リターンを狙いながらリスクをコントロールすることが重要です。1,000万円を守りながらも最大のリターンを狙うためには、ポートフォリオ運用の考え方が不可欠といえます。

アセットアロケーションやオルタナティブ投資など、自分の目標の金額や期間をもとに検討して、投資家としてのレベルアップをしてみませんか。

(提供:ACNコラム