資産運用では、目的、期間、年齢などによって、リスクの許容度が大きく変わります。基本的には、運用の目標額に近づいた場合、定年などが近づき運用期間のゴールが近い場合などは、大きなリスクをとる必要はなくなります。
リスクを下げ、低リスクのポートフォリオ運用にシフトしていくのが正しい戦略でしょう。
市場のボラティリティが高くリスクが大きいときも、低リスクのポートフォリオを組むべきタイミングです。低リスクポートフォリオの組み方や効果的な運用方法を紹介します。
低リスクのポートフォリオとは
低リスクのポートフォリオとは、リスクが低いポートフォリオのことです。金融の世界では、「リスク」とは、金融商品の変動率(ボラティリティ)が高いことを指します。
単に低リスクなら、全資産を国債か現預金にしてしまえばいいのですが、それでは運用とは言えないでしょう。低リスクでもリターンが期待される最適ポートフォリオを目指すのが運用です。
低リスクのポートフォリオを組む上で基本的な考え方となる4つの視点を紹介します。
1.低リスクとは運用しないことではない
極端な話、保有資産を全部日本国債か現預金にすれば、低リスクのポートフォリオです。むしろリスクはないに等しいです。
しかし、日本国債10年債を市場で買う場合の平均利回りは約0.7%しかありません。(2024年2月7日時点)。日銀がゼロ金利政策を長くとっていたため、2016年から21年まではゼロ前後の利回りでした。
インフレ傾向が強まり、日銀のゼロ金利政策の解除の可能性が高まりつつあるため、国債の利回りはゆっくりと上がってきてはいます。しかし、この水準では投資に魅力的な範囲とは言えません。
日本株プライム市場上場株の平均利回りは2.01%(2024年3月7日時点)です。いくら日本国債が安全資産といえども、いくら株式投資のリスクは高くても、分散投資で日本株の比率を上げたくなります。
2.安全資産代表の日本国債でも売買損がでることも
国債は究極の安全資産です。債券でも発行した会社が倒産するリスクがありますが、国債の場合は国が保障しています。滅多なことでは日本や米国が破綻することはないでしょう。
しかも、通常は債券には償還までの期間があります。長期国債の10年債であれば、発行してから10年後に出資した金額が戻ります。償還までの10年持ち続ければ元本割れすることもありません。
今の日本の長期国債の利回りは0.l7%。1,000万円の運用資産で年間の利息はわずか7万円程度です。
気をつけたいのは、利回りが上がっているということは、10年国債の価格は下がっていることになります。
もちろん国債ですので、日本が破綻することが無い限り、満期まで保有すれば額面である元本償還されます。リスクは非常に限定的です。
しかし、償還前に何らかの資金ニーズが生じて、お金をつくるために売らなければならないケースもあるでしょう。
そのときには、売買損が発生する可能性があるのです。現在の10年債の市場価格は98.7円です。(2024年2月7日時点)直近安値では97円割れまで下げました。(図1)
償還までの残存年数によってもちろん価格は違いますが、償還前に市場で売ったら、数%にすぎませんが損が出る状態だったのです。
安全資産のローリスクの債券でリターンはほとんどない、損失の可能性もあるくらいなら、分散投資で低リスクのポートフォリオを組んだ方が魅力的なのではないでしょうか?
(図1)日本国債10年債の市場価格推移
3.理想は高インカムゲイン
お金持ちは、「お金に働かせている」といいます。保有資産がさらに資産を生み出します。たとえば、大地主がそうです。保有している不動産を貸し出すことでインカムゲインを積みあげていきます。
高めのインカムの資産を増やすと利子だけで生活出来るようになり、元本が減らない状態にもなりえます。インカムゲインが高い資産を増やせばお金が働いてくれて、自分は働かなくてもいいのです。
これと同様に、低リスクのポートフォリオのベストな組み方は、インカムゲインが高くてリスクの低い資産を積み重ねることです。
今は低金利の時代。なかなか低リスクでインカムゲインの高い商品はありません。ポートフォリオのリスクコントロールするのが一番の対応方法でしょう。
4.低リスクのポートフォリオとは最適ポートフォリオ
低リスクのポートフォリオですが、同じリスクをとるならリターンは高い方がいいと誰もが思うことでしょう。
運用資産、ゴール、期間、リスク許容度などを考えながら、その人なりのベストの資産配分、最適なファンドの組み合わせ(ポートフォリオ)を考えることがベストのポートフォリオでしょう。
自分の考えたポートフォリオの中で、リスクとリターンがもっとも効率的なファンドを「最適ポートフォリオ」といいます。
「最適ポートフォリオ」の「最適」は、とるリスクに対し、期待できるリターンが最も高く効率的だという意味での「最適」です。
自分のとれる範囲のリスク許容度で選んだ「最適ポートフォリオ」が自分にもっとも適した低リスクのポートフォリオなのです。
最適ポートフォリオとは
低リスクのポートフォリオである最適ポートフォリオの特徴、組むタイミング、実際にポートフォリオの組み方を具体的に見ていきましょう。
1.債券など安定資産の比率が高く、株などリスク資産の比率は低い
主要資産(アセットクラス)の期待リターンと推計リスクをプロットしたものが(図3)です。
リスクを減らすためには、低リスクの債券の組入比率を上げ、リスクの高い株を減らせばいいのは明らかです。比較的リスクの低い資産に分散投資することが低リスクの最適ポートフォリオです。
でもチョット待ってください。4資産分散ポートフォリオというのが低リスクのわりに高リターンが期待できる位置にあります。
このファンドは、日本国債、外国債券、日本株、外国株という伝統的資産である4資産を組みいれたポートフォリオです。
分散投資でリスクを下げながら、リターンもとれるようなファンドになっています。こういうのが低リスクの「最適ポートフォリオ」なのではないでしょうか。
(図2)主力金融商品の期待リターンと推計リスク
2.低ボラティリティ(金融市場でボラティリティはリスクそのものです)
金融市場では価格変動(ボラティリティ)はリスクだと考えます。株は1年でテンバガー(10倍)になることもあれば、10分の1になることもあります。この変動率の高さはリスクそのものです。
したがって、低リスクファンドは、基本的にはボラティリティの低い商品の組入が多くなります。しかし、株を組み込んではいけないのでしょうか?株を組み込まないと高いリターンも望めません。
前項で説明した4資産分散ポートフォリオは、伝統的4資産だけで組んだポートフォリオです。
これに、不動産、ヘッジファンド、商品、プライベートエクイティ(未上場株)、インフラファンドなど、オルタナティブ資産への分散投資を加えれば、さらに魅力的なポートフォリオができそうです。
3.最小分散について解説
株式投資のリスクを減らす考え方で最小分散という考え方を紹介しましょう。できるだけ低リスクで株のリターンをとりたいために考え出された運用スタイルの1つです。
例えば、日本株の日経平均に投資したい場合、日経平均の中からボラティリティの高い銘柄をはずし、かつ、できるだけ日経平均と連動するようなポートフォリオを作ります。これが日経平均の最小分散のファンドです。
日経平均に含まれる全銘柄の過去のデータを分析し、日経平均と連動性は高いけれど、リスクは低めのポートフォリオになります。
「日経平均連動型 最小分散ファンド」のように言います。NYダウ最小分散、日経平均最小分散などさまざまな最小分散ファンドがあり、ETFで買える銘柄も多いので検索してみてください。
4.分散投資で低リスクにする
リスクを下げるには、株や債券などの商品による分散投資だけでなく、日本と海外など国と地域による分散、長期投資による時間の分散など、分散することでリスクは下がることはすでに理解していただけたと思います。
(図2)4資産ファンドのリスクが比較的低かったのは分散投資ができているからでした。
株だけでも時間的分散で大きくリスクを減らせます。株式の時間的分散のリスクヘッジが解りやすいのが(図3)です。
株式に1年投資した場合、リターンは最高72%ですが最低は40%のマイナスでした。強烈なボラティリティです。
10年投資すれば、最高22%ですが最低は4%マイナスでした。運用が長くなれば長くなるほどリターンも小さくなりますが、リスクも小さくなります。長いほど株式の期待リターンに近づきます。
つまり、長期投資できるなら、株式投資は高リスクとは言えません。リスクを考えるのに年齢が重要というのは、長期運用できるかできないかでリスクが変わるからです。
(図3)
5.シャープレシオが高い
シャープレシオもファンドのリスクとリターンをみるのに、運用プロがよく使う指標です。
リスク1単位当たりの超過リターンを測ったデータでこの数値が高いほど、リスクに対する運用効率が高いことを示します。
ハイリスクハイリターンですので、基本的にはファンドはリスクをとったほどいい運用成績がでる可能性があります。だからリターンだけで比較したら、不公平です。
リスク1単位あたりのリターンをみれば、リスクとリターンが適正化どうか判断することができます。
リスク調整後のリターンを測るものとして、投資信託の運用実績の評価で非常に注目される指標です。
6.損失が限定的
リスクを考えるときに、ポートフォリオやファンドの損失が限定的なことも大切です。特に、守りのファンドでは重要です。
運用の世界では、ファンドの損失をドローダウンと言います。投資しようとしているファンドが自分に適したものであるかを見るときに過去の最大ドローダウンをみるのもリスク参照するのに役立ちます。
ポートフォリオのリスクが高い低いと言ってもイメージしにくいです。しかし、リーマンショックのように最悪な環境のときにどれくらいの損失がでたのかをみればイメージがつかみやすいのではないでしょうか?
たとえば、1,000万円運用していたらリーマンショック時にいくらの損失を生んだのか?ファンドのリスク度を見るのに参考にしてみてください。
過去のドローダウンが、将来を予測できるかどうかはわかりませんが、投信の場合は過去の損失や最大ドローダウンがわかりますので、そのファンドの運用方針ならどれくらい損する可能性があるかが判断できます。
ドローダウンが小さいファンド、損失が限定的なファンドが低リスクのファンドだとも言えるでしょう。
低リスクのポートフォリオにするべきタイミング
ポートフォリオをより低リスクにするべきタイミングには以下のようなものがあります。
- 資産運用の、目標、金額、期間などのゴールが近づいた場合
資産運用の目的が「じぶん年金」で、老後の資産形成であれば、たとえば定年前の60歳過ぎにはリスクを減らし、65歳からはさらにリスクを減らすことを考えるべきでしょう。
資産運用の王道はインカムゲインで、資産に働かせてお金を増やすことです。ある程度の資産ができた場合、市場金利が過去と比べて高い場合などは、不動産やインカムゲインの高い資産にシフトしてリスクを下げるタイミングではないでしょうか?
- リーマンショック、ITバブル崩壊のように市場のボラティリティがあまりに高くリスクが大きいとき
リーマンショックでは、株はもちろん、債券も含めてあらゆる資産が売られました。損失が膨らむのを防ぐために、多くの投資家が運用資産を絞り込んで、何でも売ってしまったからです。
米国株では、S&P500のボラティリティ指数がVIXです。日本株では日経平均ボラティリティインデックスがあります。
ボラティリティ指数ですので、市場のリスクを表した指数です。こうしたボラティリティが極端に上がりはじめたときはポートフォリオを守りに入るタイミングだと言えます。(図4)
VIX指数(図4)をみると、2008年頃のリーマンショック時、2020年のコロナショック時は指数が50を越えています。20以下なら青信号、20を上回ると黄色信号、30以上赤信号のようにリスクをみるのに使う投資家が多いです。
(図4)VIXと日経ボラティリティ指数
低リスクポートフォリオの簡単な組み方
一番簡単なのは、キャッシュ、債券の比率を上げること。もしくは、株の比率をさげることです。
債券の比率を増やす以外のリスクの減らし方、戦略も紹介しておきましょう。
1.キャッシュ比率を上げる
とくに、リーマンショックやITバブル崩壊のように市場のボラティリティが一気に上がった場合は、どんな商品でも下がる状況になることがあります。そうしたときは、一番強いのはキャッシュです。
キャッシュなら、市場のショックが一巡し、ボラティリティが落ち着いたときに、すぐに投資を再開できます。
2.市場が下がったときに利益がでる投資商品を組み入れる
リスクはボラティリティだという話をしてきました。アメリカ株においてはVIXというS&P500のボラティリティ指数で下げ局面で上がる指数があります。
日本株においても日経ダブルインバースなど、市場が下げた時に上昇する商品もあります。短期的なリスクの減らし方は、そういう商品を組み入れて、下がったときでも利益がでる資産を持つことです。
3.つみたて投資なら買い続けるのも有効
長期投資なら時間分散ができます。つみたて投資で投資期間が長いなら、下げているときこそ多く買えるので、買い続ければ買いコストが下がります。
低リスクのポートフォリオにシフトせずに、買い続けるのも有効な戦略です。
4.余裕資金があるならナンピンも有効
短期的に低リスクにするのであれば、ポートフォリオを見直すべきです。しかし、資産に余裕があるなら、一番下がっている資産をスポットで買い増すという戦略もあります。
株式投資などで言う「ナンピン」で、特定の銘柄や商品の買いコストを下げることができます。タイミングがうまくはまれば、効率的な資金運用ができることもあります。
まとめ
低リスクのポートフォリオとは、自分の年齢、運用ゴール、運用方針などに合わせて、リスクをコントロールすることです。
とれるリスクの中で最適なポートフォリオを組み、資産を守りながら増やしていきましょう。
(提供:ACNコラム)