不動産の相続にはどんな税金がかかる?税額の計算方法も解説!
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目次

  1. 相続税とは?
  2. 相続税と贈与税の3つの違い
  3. 不動産を相続すると3つのフェーズで税金がかかる
  4. 相続税を計算する際に必要な2つの前提
  5. 相続税を計算する7つのステップ
  6. 相続税において不動産を評価する方法(土地編)
  7. 相続税において不動産を評価する方法(建物編)
  8. 不動産の相続時にできる7つの相続税対策
  9. 不動産相続における5つの注意点
  10. 不動産は金額が大きいため、相続の事前準備が重要

不動産は、財産額が大きくなりやすく現金や株式と異なり「画一的な価格が分かりにくい」という理由から、相続の際に不安材料になってしまうこともあります。

場合によっては「不動産のまま相続するのがいいのか」「売却して現金化するほうがいいのか」など合理的な判断が難しいケースもあるかもしれません。

本記事では、不動産を相続した場合にかかる各種税金および相続税の課税方法について紹介します。あわせて、相続時における不動産の評価方法や不動産の相続時にできる8つの相続税対策について解説します。

相続税とは?

相続税とは、亡くなった人の財産を相続や遺贈などで取得した場合、受け取った人に課税される税金です。不動産や有価証券、現金といった金銭に換算できる経済的価値のある財産は、原則すべて相続税の課税対象となります。

贈与と相続はどう違う?

親子や夫婦など、個人から個人の間で不動産や有価証券、現金といった財産が引き継がれる行為として、贈与という制度もあります。相続と贈与の大きな違いは、財産が引き継がれるタイミングです。

相続では、財産の所有者が死亡したときに財産の所有者の意思(遺言)または法律に則って相続人財産が引き継がれます。

一方、贈与は財産の所有者の生前に自らの意思によって財産が引き継がれる点が大きな違いです。

相続税と贈与税の3つの違い

財産の引き継ぎについて、所有者の生前に行われた際に発生するのが贈与税、所有者の死後に行われた際に発生するのが相続税です。

相続税と贈与税の具体的な違いは、以下の3つです。

1.課税対象の時期

課税対象の時期については上述の通り、贈与税は財産所有者の生前贈与時、相続税は財産の所有者の死亡時が、それぞれ課税の対象です。

2.課税対象となる人

課税対象となる人、すなわち納税義務を負う人については、相続税と贈与税で呼び方が異なりますが、「財産を受け取った人」という点では同じです。

相続では「相続人」、贈与税では「受贈者」が、それぞれに課税対象となって納税義務を負います。

3.納税の時期

実際に税金を支払わなければいけない時期については、以下の通り異なります。

相続税相続開始を知った日※の翌日から起算して10ヵ月以内
※通常の場合「相続の開始があったことを知った日」は死亡日
贈与税贈与があった年の翌年の2月1日~3月15日まで

不動産を相続すると3つのフェーズで税金がかかる

不動産を相続した場合、以下3つのフェーズでそれぞれに異なった税金がかかります。

取得や売却のフェーズで一時的に発生するものと、所有している限り発生し続けるものがあるため、課税タイミングもあわせて押さえておきましょう。

1.不動産を取得したときにかかる税金

不動産を取得したときにかかる税金は、以下の3つです。

3つとも取得のフェーズで一時的に発生する税金です。

・相続税
・登録免許税
・不動産取得税

登録免許税とは、不動産の所有権移転登記をするための手数料のような性質の税金です。税率は、固定資産税評価額の0.4%(受遺者が相続人の場合)または2%(受遺者が相続人以外の場合)とそこまで高くはありません。

不動産取得税は、遺贈による取得の場合にかかる税金のため、相続による取得の場合にはかかりません。

2.不動産所有期間中にかかる税金

不動産所有期間中にかかる税金は、以下の2つです。

2つとも不動産を所有している限り毎年発生し続ける税金です。

・固定資産税
・都市計画税

なお所有している不動産を賃貸して賃料収入を得ている場合は、その不動産所得に対して所得税・住民税・復興特別所得税も毎年かかります。

3.不動産を売却したときにかかる税金

不動産を売却したときにかかる税金は、以下の3つです。

3つとも売却のフェーズで一時的に発生する税金です。

・所得税
・住民税
・復興特別所得税

所有している不動産を売却して不動産所得を得た場合に、その所得に対して上記の各税金がかかります。

相続税を計算する際に必要な2つの前提

相続税を計算する際に認識しておきたい前提は、以下の2つです。

相続対象となっている不動産を「そのまま相続するか」「売却するか」について考える際、以下の前提の認識がないと合理的な判断ができなくなる可能性もあるため、注意しましょう。

1.不動産のみの相続税は計算できない

相続財産に不動産以外の財産も含まれている場合、不動産のみにかかる相続税を計算することはできません。

なぜなら相続税は、亡くなった人に帰属するすべての財産および借金などの負債をまとめて課税対象として計算される仕組みになっているからです。

同様に不動産のみならず、現預金や有価証券にかかる相続税についても独立して計算することはできません。

上述したように相続対象の不動産を相続するか、売却するかについて考える際は、それぞれの場合の相続税額を全体でシミュレーションして判断する必要があります。

2.相続税の速算表の正しい見方

相続税の税率および控除額は、相続税の速算表という以下の一覧表で参照ができます。

【相続税の速算表】

法定相続分に応じた取得金額税率控除額
1,000万円以下10%-
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

一見すると「相続対象となる不動産の相続税評価額が5,000万円なので不動産にかかる相続税率は20%で控除は200万円となり相続税額は800万円」と考える人もいるかもしれませんが、そうではありません。

上掲の表は、あくまでも相続税計算の中盤にある一つのプロセスです。

各相続人の「法定相続分に応じた取得金額」を計算するために用いられるもののため、相続税額の最終的な金額を計算できるわけではない点は認識しておきましょう。

相続税の計算方法については、以下のトピックで詳しく解説します。

相続税を計算する7つのステップ

相続税を計算するステップは、以下の7つです。

1.相続人を確定する

相続する権利を持つ法定相続人が誰なのかを以下の優先順位に沿って確定します。

・必ず法定相続人になる人:亡くなった人の配偶者
・第1順位:亡くなった人の子ども(子どもが亡くなっている場合は代襲相続人)
・第2順位:亡くなった人の直系尊属(父母、祖父母)
・第3順位:亡くなった人の兄弟姉妹

第2順位以下の人は、自分よりも優先度が高い人がいない場合に法定相続人となります。

例えば亡くなった人に配偶者と子どもがいる場合、亡くなった人の直系尊属および兄弟姉妹は法定相続人にはなれないということです。

2.相続対象となる正味の遺産総額を算出する

正味の遺産総額とは、相続税計算の元となる遺産総額のことです。

正味の遺産総額は、亡くなった人時点で所有している財産などに、みなし相続財産(相続人が受取人となっている生命保険金、死亡退職金など)や債務、葬儀費用などを差し引きして計算されます。

3.正味の遺産総額から相続税の基礎控除を差し引く

正味の遺産総額から相続税の基礎控除を差し引くことで、相続税の課税対象額を算出します。

相続税における基礎控除額は、以下の通りです。

相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人数)

正味の遺産総額から基礎控除額を差し引いた残りが0以下の場合、相続税は課税されません。

例えば正味の遺産総額が1億円、法定相続人が3人の場合の課税対象額は、以下のように計算します。

1億円-{3,000万円+(600万円×3人)}=5,200万円

つまりこのケースでは、5,200万円に対して相続税がかかることになります。

4.「法定相続分に応ずる取得金額」を算出する

法定相続人が法定相続分(民法に規定されている割合)で相続した場合の「法定相続分に応ずる取得金額」を求めます。

実際は、相続人の誰かが相続放棄したり相続人間での協議の結果として法定相続分とは異なる割合での相続になったりすることも少なくありません。しかし手続きの便宜上、まずは法律に則った各相続人の取得金額を計算します。

上述した課税対象額5,200万円のケースで確認してみましょう。亡くなった人の配偶者と子ども2人(長男・次男)で法定相続する場合の各取得金額は、以下の通りです。

・配偶者:5,200万円×2分の1(法定相続分)=2,600万円
・長男:5,200万円×4分の1(法定相続分)=1,300万円
・次男:5,200万円×4分の1(法定相続分)=1,300万円

5.税率と控除額を加味して相続税の総額を算出する

以下の速算表をもとに各相続人の仮の相続税額を計算し、それらを合計して相続税の合計額を計算します。

【相続税の速算表】

法定相続分に応じた取得金額税率控除額
1,000万円以下10%-
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

配偶者が2,600万円、長男・次男がそれぞれ1,300万円ずつの法定相続分となる場合、各相続人の仮の相続税額およびそれらの合計は、以下の通りです。

・配偶者:2,600万円×15%-50万円=340万円
・長男:1,300万円×15%-50万円=145万円
・次男:1,300万円×15%-50万円=145万円
・相続税額の合計:340万円+145万円+145万円=630万円

6.相続割合に応じて相続税の総額を分配する

法定相続分ではなく、実際の相続分に応じて相続税額の合計を各相続人に分配します。

相続人間での協議の結果、法定通りの相続割合になった場合、それぞれの相続税額は以下の通りです。

・配偶者:630万円×2分の1=315万円
・長男:630万円×4分の1=157万5,000円
・次男:630万円×4分の1=157万5,000円

7.各相続人の控除等を適用して最終の納税額を確定する

最後に、各相続人に適用される控除や加算分があれば、それらを加味して最終的な相続税額が確定します。

・税額控除には6種類ある
相続税における税額控除には、以下の6種類があります。

1.配偶者控除
2.未成年者控除
3.障害者控除
4.贈与税額控除
5.相次相続控除
6.外国税額控除

・相続税が2割加算される場合がある
遺産を取得した人が以下のいずれか以外である場合には、相続税額が加算されます。

1.亡くなった人の一親等の血族
2.代襲相続人となった直系卑属(孫やひ孫など)
3.亡くなった人の配偶者以外の人

例えば兄弟姉妹が相続人となった場合や、代襲相続以外の形で孫やひ孫に財産が遺贈された場合などは、通常の相続税額に2割を加算した金額を納税する必要があるということです。

相続税において不動産を評価する方法(土地編)

不動産は、現金や株式と異なり画一的な価格が分かりにくい傾向です。そのため、ここでは相続財産として価値を評価する際の方法について解説します。

不動産は、大きく土地と建物に分かれ、さらに土地は宅地や田、畑、山林など10種類に分けられます。

それぞれの土地の種類について課税方法の規定があるため、ここでは相続財産として最も多くの人に関係する可能性が高い「宅地」の評価方法について解説します。

宅地には3種類あり、相続時の評価方法が異なる

宅地とは、現在建物が建てられている土地、もしくは建物の敷地のために利用される土地のことです。

宅地には、大きく以下の3種類があります。

・自用地
・貸宅地
・貸家建付地

・1.自用地
自用地とは、自宅を建てて住んでいる場合など、所有者自らが使用している土地のことです。

・2.貸宅地
貸宅地とは、借地権などその土地を使用する権利が設定されており、第三者が自己所有の建物を建てている土地のことです。

第三者に賃貸していても、借主がその土地に建物を建てていない場合は借地権が発生しないため、貸宅地とはなりません。

・3.貸家建付地
貸家建付地とは、土地の所有者が自己所有する貸家の敷地として使用している土地のことです。

土地の所有者が自ら賃貸用のアパートを建てて第三者に賃貸している場合、その土地は貸家建付地に該当します。

土地のうえに建物が建てられている点は、貸宅地と同じです。しかし建物をその土地の所有者が自ら所有している(貸家建付地)か、第三者が所有している(貸宅地)かという点で異なります。

土地の相続税評価額は「自用地」が基本

土地の相続税評価額は、自用地が基本です。

貸宅地・貸家建付地も、まずは自用地として評価をして、その評価額に調整を加える形で評価が行われます。

自用地の相続税評価をする際の評価方式には以下の2つがあります。

自用地の相続税評価をする際の2つの評価方式

・1.路線価方式

路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地における1平方メートルあたりの価額のことです。地域によって定められている場所とそうでない場所があります。

路線価が定められている地域で用いられる土地の評価方法が、路線価方式です。

路線価方式では、以下の計算式で土地の価格が評価されます。

路線価方式での土地の評価額=その土地の正面路線価(円/平方メートル)×面積(平方メートル)×補正率

「補正率」とは、その土地の形状等に応じて、評価額の補正が必要な場合に用いられる数値です。

・2.倍率方式

倍率方式とは、路線価が定められていない地域において用いられる土地の評価方法です。

倍率方式では、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じることで土地の価格を評価します。

路線価図・評価倍率表の見方は国税庁ホームページで、固定資産税評価額は都道府県の税事務所や市役所、区役所、町村役場でそれぞれ確認が可能です。

相続税において不動産を評価する方法(建物編)

不動産(建物)の相続税評価について、その建物の使用状況に応じて以下2つのパターンに分けて解説します。

相続税において不動産を評価する方法(建物編)

1.亡くなった人名義の自宅の場合

相続した建物が亡くなった人名義の自宅の場合、相続税評価額は以下のように計算されます。

相続税評価額=固定資産税評価額×1.0

固定資産税評価額が、そのまま相続税評価額になるということです。

2.賃貸用不動産の場合

相続した建物が賃貸用不動産の場合、相続税評価額は以下のように計算されます。

相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合30%×賃貸割合)

「借家権割合」とは、賃貸物件の相続税評価に利用される割合の一つで、全国一律で30%と設定されています。

相続した建物が賃貸物件の場合、その後の不動産活用の方法が制限されることがあるため、借家権割合という乗数を設定することで、相続財産としての評価が割り引かれます。

賃貸割合とは、その建物の床面積のうち、どの程度が賃貸されているかを示す割合のことです。

相続税が課税されるタイミングで全貸室の床面積のうち、実際に賃貸されている床面積の割合を計算します。

不動産の相続時にできる7つの相続税対策

不動産の相続時にできる相続税対策は、以下の7つです。

1.小規模住宅地等の特例を適用して節税

小規模住宅地等の特例とは、一定の条件を満たす宅地の相続税評価が最大80%減額できる制度です。

本特例を受けるには、宅地の用途や面積など満たさなければならない条件があります。しかし最大80%の評価減は、非常に大きなメリットとなるため、相続される土地がその適用対象か否か確認してみましょう。

2.自用地から 貸宅地・貸家建付地に変更して節税

貸宅地・貸家建付地は、自用地よりも相続税評価が低くなります。そのため賃貸経営を考えている場合は、貸宅地・貸家建付地として相続するのも選択肢の一つです。

第三者のために借地権を設定して建物を建ててもらったり、所有者自ら土地にうえに賃貸物件を建てたりして自用地を貸宅地・貸家建付地に変更することで節税が見込めます。

3.相続税評価の減額補正で節税

路線価方式で土地を評価する場合、土地の形状や面積、周辺環境等の要因を加味して相続税評価額を減額補正できる可能性があります。

例えば「形が悪い土地」「間口や奥行きが狭い土地」などは、活用方法が限定される可能性があるため、土地としての評価を下げられる場合があるということです。

減額補正の可否については、専門知識が必要なため、税理士や土地家屋調査士といった専門家の意見を参考にするのがいいでしょう。

4.不動産の生前贈与における相続時精算課税を活用して節税

不動産を生前贈与する際に相続時精算課税という課税方式を選択することで、相続税の節税ができる場合があります。

例えば課税評価額3,000万円の土地を相続時精算課税で贈与したとしましょう。

相続時精算課税では、贈与者が死亡して相続が発生したときに贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算されます。

そのため贈与を受けてから相続発生までに、その土地が値上がりした場合、結果として相続税を節税することが可能です。

相続時にその土地の課税評価額が5,000万円に値上がりしていたとしても、贈与時の評価額となる3,000万円の財産として相続財産に組み入れられます。そのため、値上がりした2,000万円を相続財産から実質的に圧縮できるということです。

このように贈与時から相続時までに土地の課税評価額が値上がりしていた場合、結果として相続税の節税になるケースはあるものの、必ず節税になるとはいえません。もし都心の不動産など価格上昇が見込める場合は、検討する価値のある方法といえるでしょう。

5.不動産の生前贈与における特例を活用して節税

夫婦間で国内にある居住用不動産またはその購入資金の生前贈与があった場合、一定条件を満たせば財産の評価額から最大で2,110万円(配偶者控除2,000万円+基礎控除110万円)の控除が受けられる制度があります(おしどり贈与)。

本制度を活用することで、贈与税を節税しながら贈与者の相続財産を減らせるため、相続時に発生する相続税の節税も見込めます。

原則相続税の計算においては「生前贈与加算」という贈与者の死亡前7年以内の贈与は相続財産に加えるルールがあるため、同期間内に行われた贈与は相続財産とみなされて相続税が課税されます。

一方、贈与税の配偶者控除の控除額は生前贈与加算の対象外です。そのため贈与者の死亡前7年以内に行われた贈与であっても相続財産とはみなされず、贈与税とともに相続税も節税が期待できます。

6.配偶者の非課税枠を活用して節税

配偶者が相続人の場合、1億6,000万円または法定相続分までの非課税枠の適用を受けることができます。

配偶者が相続によって取得した財産額が、1億6,000万円以下、または法定相続分の範囲内の場合、相続税は課税されません。

7.養子縁組で法定相続人を増やして節税

養子縁組で法定相続人の数が増えた場合、相続税の基礎控除や生命保険金の非課税枠も増えるため、相続税の節税ができます。

民法上、養子縁組に制限はありません。しかし相続税法上では、法定相続人として加算できる普通養子の数は実子がいない場合で2人まで、いる場合は1人までと定められているため、注意が必要です。

不動産相続における5つの注意点

不動産を相続する際に注意すべき点は、以下の5つです。

1.不動産の共有は避けるのが無難

一つの不動産に持ち分を分割して各相続人で共有する場合、意思決定の煩雑さやトラブルの原因になるリスクがあるため、共有名義は避けて単独名義にするほうが無難です。

長期間共有されたまま放置されると、共有者が死亡してその持ち分がさらに複数人に分割される可能性があります。また現時点での共有者が誰なのか整理ができなくなるリスクもあるため、注意が必要です。

共有名義の不動産の売却や建て替えをする際には、共有者全員の同意を得ることが必要になります。そのため上記のような状況だと不動産を適切な管理や運営が難しくなってしまうでしょう。

2.不動産の相続人が複数いる場合は分割を検討する

相続人間での不動産の共有状態を避けるために、以下いずれかの方法で不動産を分割する方法があります。

・代償分割
特定の相続人がその不動産を引き継ぎ、その代わりに他の相続人に対して相当の金銭等を支払って精算する方法です。

・換価分割
不動産を売却して現金化し、各相続人で分割する方法です。

不動産売却にあたっては、時間と手間がかかります。また仲介手数料や所得税および住民税などのコストもかかるため、いずれの分割方法が合理的かは慎重に話し合いましょう。

3.借金も相続対象の場合、限定承認のうえ自宅不動産を相続する方法を検討する

限定承認とは、プラスの財産(現金や不動産など)の範囲内で、マイナスの財産(借金など)も引き継ぐ制度です。

「借金があるので相続放棄をしたいが、そうすると自宅不動産も手放すことになり、生活に困ってしまう」といった場合、限定承認を選択することで解決できるかもしれません。

例えば評価額5,000万円の自宅不動産と1億円の借金が相続財産の場合、限定承認をすれば自宅不動産と借金5,000万円のみを相続できるということです。

単純承認をして全財産を相続してしまうと、自宅は相続できますが、同時に1億円の借金も全額相続することになります。

こういったケースで限定承認を選択すれば、借金を自宅不動産の範囲内のみにとどめることが可能です。

4.相続税の納税が難しい場合、不動産の売却を検討する

相続財産における不動産の比率が高い場合、相続税が高額になりやすく相続によって取得できる現金が少ない可能性があります。

結果として「財産を取得したものの相続税を納められるだけの現金の目処が立たない」という状況に陥ることも珍しくありません。

そのような場合は、不動産の売却を検討する必要があるでしょう。

相続税の納税期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月目の日です。比較的短期間となるため、相続が発生してから売却活動を始めると納税資金の確保を急ぐあまり安値で売らざるを得なくなるリスクがあります。

相続財産に不動産が含まれる場合は、生前から相続税の節税対策を考えたり、納税用の資金を準備しておいたりするなど事前準備をしておくと安心でしょう。

5.不動産の相続登記が義務になる

2024年4月1日以降は、不動産の相続登記が義務化され、不動産の相続を知った日から3年以内に登記ができていない場合は10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

相続発生時は、葬儀や財産整理、遺産分割協議などで忙しくなりますが、不動産登記も忘れずにしておきましょう。

不動産は金額が大きいため、相続の事前準備が重要

不動産の相続は、金額が大きく多額の相続税を納税するケースも少なくありません。

相続税は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に納税しなければいけないため、節税対策や納税資金の確保など準備を早めにしておくと安心です。

不動産を相続するうえでの注意点や、相続税の節税方法についてはしっかりと理解しておくことが重要となります。どの方法をとった場合に相続税がいくらになるのか、事前にシミュレーションしておけば、合理的かつ円滑な相続ができるでしょう。

(提供:ACNコラム