親から子どもへの銀行口座の名義変更できる!生前と死後での手続きと税金の違いを解説
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目次

  1. 銀行口座の名義変更は親が「生前」と「死後」で手続きが変わる
  2. 銀行口座の預金残高によって税金が変わる
  3. 親から子への銀行口座名義を変更するときの注意点4つ
  4. まとめ

親から子どもへの銀行口座の名義変更は、多くの方が人生で一度は通過する大切な手続きです。

ところが、親の生前と死後では、手続きが大きく異なり、それぞれに注意点や税金の影響があります。税金を最小限に抑えつつ、円滑に名義変更を行うにはどうしたらよいのでしょうか?

この記事では親の生前と死後の銀行口座の名義変更手続きの違いと、それぞれの場合の税金について解説します。

銀行口座の名義変更は親が「生前」と「死後」で手続きが変わる

相続が発生した際によく誤解されがちなのが親の銀行口座の「名義変更」です。

実際には、親の銀行口座の名義を子どもに直接変更することはできません。便宜上「名義変更」と呼んでいるに過ぎません。それを踏襲し、ここでも便宜上「名義変更」とします。

親の生前と死後では「名義変更」の手続きが大きく異なるので、ここでは「生前」と「死後」とに分けて手続き方法について解説します。

親が生きている間の銀行口座の名義変更は1日でできる

必要な書類がそろっていれば、親が生きている間の名義変更は実質1日で完了します。

ただし、親が亡くなるとその時点で親の口座にある預金は相続人全員の共有財産となるため、預金を引き出すには相続人全員の合意が必要です。

また、親の死亡が銀行に通知された瞬間、口座は自動的に凍結されます。以降の入出金が停止されることから、亡くなる前に適切な手続きを行っておきましょう。

手順は以下のとおりです。

ここでは、親の銀行口座の名義を生前に変更する方法について解説します。

1.子どもの銀行口座を開設

まず、名義変更先である子どもの銀行口座を用意しましょう。子どもが口座の管理ができない年齢の場合は、子どもの身分を証明する書類と親権者の同意が必要です。

新規の口座開設の場合、手続きは親権者の同伴のもとで行うのがスムーズでしょう。必要書類は以下のとおりです。

・ 子どもの本人確認書類(顔写真付き1種類、顔写真なしの場合2種類)
・ 親権者の本人確認書類(顔写真付き1種類、顔写真なしの場合2種類)
・ 親権の確認書類(母子手帳、子どもの健康保険証など)
・ 届出印(銀行印)

また、銀行によっては、未成年者専用の口座プランが用意されており、低い手数料や特典がつく場合もあるので、十分に検討してください。

子ども名義の口座は、将来的に教育資金や小遣いの管理に役立つだけでなく、贈与税の基礎控除枠を利用した資産移転の一環としても有効です。

実際に口座を開設する際は、銀行ごとの特色を比較し、子どもの年齢や用途に合ったものを選びましょう。

2.親の口座から子どもの口座にお金を移す

次に、親の口座から子どもの口座へ資金を移動します。年間110万円以下の贈与であれば、贈与税がかからず、税負担の心配はありません。

お金の移動は、銀行の振込み手続きを通じて行われ、通常は即時または数日内に完了します。ただし、振込手数料がかかる場合もあるためご注意ください。

3.親の口座を解約

口座解約を行う前に、すべての自動引き落としを確認し、必要に応じて別の口座への移行手続きを行っておきましょう。

解約手続きは、通常、銀行の窓口で行いますが、インターネットバンクであればネット上で完結する場合もあります。

店頭で解約手続きをする際は、事前に必要な書類(身分証明書、印鑑、通帳、キャッシュカードなど)を確認し、準備しておきましょう。

口座解約を書類で行う場合、530円以上残高がある場合、振込手数料が発生する銀行もあるので、詳細はお持ちの銀行口座の窓口に確認してください。

出典:口座解約のお手続きについて|三井住友銀行
出典:口座解約の際に手数料がかかるか教えてください|SBI新生銀行

親の死後に銀行口座の名義変更をする場合の手続きは煩雑である

親の死後に、銀行口座の名義変更をするのがとても煩雑なのは、相続手続きから始めなければならないからです。以下の手順をご確認ください。

ここでは、親の死後の銀行口座の名義変更手続きについて解説します。

1.親の口座がある銀行に連絡する

親の死後、まず親の口座がある銀行に連絡を取りましょう。

金融機関は口座名義人の死亡確認が取れ次第口座を凍結しますので、連絡を取る際は故人の死亡を証明する書類(例えば死亡診断書)を事前に準備しておくとスムーズです。

銀行によっては相続事務センターが設けられており、専門のスタッフが相続に関する手続きをサポートしてくれるので、心配なら頼ってみてもよいでしょう。

銀行からは、相続手続きに必要な資料の一覧や、次に何をすべきかの指示があるので、手順にしたがってください。この段階で、口座の凍結が行われます。

2.残高証明書を準備する

相続に際して必要な残高証明書は、遺産分割協議や相続税の申告資料として非常に重要です。

残高証明書があれば、相続財産の全体像が明らかになり、相続人間での遺産分割協議を進めやすくなります。

残高証明書は、故人の口座にどれだけの資金があったかを正式に証明する重要な書類で、相続税の申告や遺産分割の際にも必要となるため、複数部発行しておくと便利です。

銀行によっては、残高証明書を発行するために数日から数週間かかる場合がありますので、被相続人が亡くなった時点の資産状況を示すため、残高証明書は速やかに取得しておきましょう。

3.相続手続きの用紙をもらう

親の口座がある銀行に連絡したら、次は相続手続きの用紙を受け取りましょう。

必要な手続き用紙は、銀行の窓口で直接受け取ることができますが、遠方にある支店の場合は、書類を郵送で請求することも可能です。

相続手続きの用紙には、相続に必要な情報を記入するためのさまざまな欄が設けられています。一般的に、相続人の情報、故人の預金情報、遺産分割の内容などが含まれます。

銀行や相続の状況によって必要とされる情報は異なるため、用紙に記載する前に、どの情報が必要になるのかを銀行の担当者に確認してください。

用紙の提出と同時に、必要な添付書類(戸籍謄本や印鑑証明書など)も確認し、準備しておきましょう。

4.遺産分割協議をする

遺産分割協議は、亡くなった人の財産を相続人間で分ける際に必要な手続きで、全相続人の合意が必要です。

協議では、銀行口座の残高をはじめ、不動産や株式などの財産全体について話し合います。相続人全員の署名が必要であり、合意内容は遺産分割協議書に記載されます。

協議の結果は文書に記録し、全員が実印で署名します。印鑑証明と共に大切に保管してください。この過程で、弁護士や税理士などの専門家のアドバイスを受けると、スムーズに進められます。

協議を円滑に進めるためには、事前に財産の詳細なリストを作成しておくとよいでしょう。遺産分割協議を進める際には、感情的な対立を避けるためにも、公平な視点で話し合い、正確に作成するよう努めてください。

5.必要な書類を準備して提出する

相続時の口座変更手続きでは、さまざまな書類の準備と提出が必要になります。主な必要書類は以下のとおりです。

書類名内容
名義書換依頼書
(相続届)
各金融機関によって呼び名が異なる場合があります。名義変更の申請に使います。
戸籍謄本
(出生から死亡まで)
故人の生涯を通じた戸籍謄本を準備する必要があります。これには、出生から死亡に至るまでの記録が含まれています。
相続人の戸籍故人と相続人との関係が記載された戸籍を集めることが求められます。
印鑑証明書提出から3ヵ月以内のもので、名義書換依頼書に使用する実印の証明として必要です。
相続放棄証明書もし相続人の中に相続を放棄した人がいる場合、この証明書が必要となります。
遺産分割協議書相続人間で遺産分割協議を実施し、法定相続分以外の割合での預貯金相続を決定した際に必要です。
遺言書故人が遺言書を残している場合には、その遺言書が必要になります。

これらの書類は、銀行口座の名義変更や相続税の申告に必要となるため、早めに準備を開始してください。

書類の提出先は、銀行や税務署など、届け出先や手続きの内容によって異なるので、書類準備の際に各機関の指示にしたがい、必要な書類を準備しましょう。

また、書類に不備がないか確認し、必要に応じて専門家に相談してください。書類の提出には時間がかかることがありますので、余裕を持って行動しましょう。

6.預金を払い戻して子どもの口座に預け替えをする

遺産分割協議が終了し、必要な書類がそろった後は、故人名義の銀行口座から預金の払い受けを行い、相続人である子どもの口座への預金払い戻しを待ちます。

払い戻しは銀行での名義変更手続きが完了した後に行われるため、手続き完了までには約2週間を見ておくとよいでしょう。

払い受けた資金は、遺産分割協議に基づき、相続人間で分配されます。資金の移動をスムーズに行うためにも、事前に銀行と相談し、手続きの流れを確認しておくと安心です。

この手続きを通じて、故人の財産が正式に相続人に引き継がれることになります。

銀行口座の預金残高によって税金が変わる

親から子への銀行口座の名義変更に際して考慮すべきなのは、預金残高の額です。

預金残高が110万円以下の場合と111万円以上の場合で、贈与税と相続税の適用が変わるため、税金負担をいかに抑えられるか、検討する必要があります。

ここでは、預金残高ごとの税制の違いと、資産が多い場合に生前贈与を活用するメリットについて解説します。

1.預金残高が「110万円以下」なら贈与税が適用される

預金残高が110万円以下である場合、贈与税の基礎控除の範囲内で、親から子への銀行口座の名義変更ができます。

生前贈与を行う場合、110万円以下の贈与であれば贈与税はかかりません。ただし、この控除は年間の合計額に適用され、1年に複数回贈与を受ける場合はその合計額が110万円以下でなければなりません。

110万円以下であれば贈与税の申告が不要であるため、手続きも比較的簡単です。親から子への支援を考える際、110万円の範囲内で贈与を行えば、税制上のメリットを最も享受できるでしょう。

2.預金残高が「111万円以上」なら相続税が適用される

預金残高が111万円以上の場合、相続税の対象となります。親が亡くなった後に子が銀行口座の名義を変更する際、残高が111万円以上の場合、特に注意が必要です。

相続税は、相続財産の総額に基づいて計算され、基礎控除額を超える部分に税率が適用されます。

基礎控除額は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)であり、多くのケースで相続税がかかることはありませんが、財産額が大きい場合は相続税の負担が重くなる可能性があります。

相続税の計算は複雑であり、財産の評価や法定相続人の確定など、多くの要素を考慮する必要があるので、相続が発生次第、早期に専門家に相談しましょう。

資産が多い場合は早いうちから毎年「110万円以下」の贈与を始めよう

資産が多い場合、相続税対策として生前贈与を活用するのがおすすめです。

毎年110万円以下の贈与を行えば、贈与税の基礎控除を活用し、将来的に相続税の負担を軽減できます。この戦略は、特に相続財産が大きい家庭において有効です。

ただし、生前贈与を行う際には、贈与の意図、贈与の頻度、そして総額を明確に計画しておかなければ、思わぬ課税に見舞われる可能性があります。

2023年度税制改正によって、相続税加算期間が3年から7年に延長が決定しており、死亡前7年以内に行われた贈与が、相続税に加算されるようになりました。

財産の額によって対策が異なるため、計画的に贈与を行い、家族全員で資産管理の最適化を図ってください。

参照:国税庁 令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

親から子への銀行口座名義を変更するときの注意点4つ

親から子どもへの銀行口座名義変更には、生前と死後で大きく手続きが異なりますが、どちらの場合も注意すべきポイントが存在します。

特に、定期的な引き落としや名義預金、死亡後の名義変更においては、未然にトラブルを避けるためにも事前の準備と正確な手続きが必要です。

ここでは、親から子への銀行口座名義を変更するときに押さえておくべき4つの重要な注意点について詳しく解説します。

1.親の口座から定期的に引き落としがある場合は亡くなる前に変更手続きをする

親の口座から定期的な支払いがある場合、亡くなる前に名義変更の手続きを進めましょう。銀行口座が凍結される前に手続きを行えば、公共料金やローンの支払いなどが滞ることなく、円滑に管理できます。

特に、家賃や光熱費など生活に直結する重要な支払いを親の口座から行っている場合、手続きの遅れが生活に直接影響を及ぼす可能性があります。

定期的な引き落としや入金がある場合は、これらの事情を銀行に説明し、スムーズな手続きを心がけましょう。

2.親の死亡後のお金の引き出しは横領にあたる

親が亡くなった後、銀行口座からの現金引き出しは、法律上横領にあたる可能性がある点にご留意ください。特に、故人の銀行口座に残された資産は、相続人全員の共有財産と見なされます。

故人の死亡後に、適切な手続きを経ずに資金を引き出す行為は、他の相続人の権利を侵害することになり、相続人間のトラブルの原因となりかねません。

そのため、相続手続きを進める際は、相続人全員での協議を通じて、透明性のある方法で資産の分配が行われるよう努めてください。

相続に関わる法律や手続きには複雑な点が多いため、不明な点は専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながら進めると安心です。

3.名義預金の場合は契約書を準備するなど注意が必要

親が子どもの名義で銀行口座に預金する行為は、相続計画の一環としてよく行われますが、名義預金の場合には特に注意が必要です。

名義預金とは、実質的な所有者と口座名義人が異なる預金を指し、相続時にはこの預金が適切に扱われるよう、契約書や贈与契約の証明書などを準備する必要があります。

契約書や贈与契約の証明書は、贈与の意図や条件を明確にし、税務調査などで問題が発生した際の対応に役立ちます。

ただし、名義預金が認められると相続税の対象となり、適切な申告が求められるため、スムーズな相続を実現するためにも、早めに正確な準備をしておきましょう。

4.親が死亡後の名義変更は子の口座に預け替え親の口座は解約される

親から子への銀行口座の名義変更は、実際には子の口座への預け替えと親の口座の解約を意味します。

親が亡くなった後に行う名義変更では、故人の口座にある資金を子の口座に移し、その後で故人の口座を解約する流れです。

この場合、親の口座が相続人の共有財産となるため、すべての相続人の了承を得る必要があります。

また、銀行口座の解約には、残高証明書や相続人全員の署名が必要な書類が求められることもあるため、事前に必要な手続きや書類について確認しておくのが理想的です。

適切な手続きを通じて、相続に関わる問題を防ぎ、円滑に資産移転を進めてください。

まとめ

本記事では、親から子どもへの銀行口座名義変更に関する手続きの違いと、生前及び死後の税金の影響について解説してきました。

親の生前の場合の手続きは比較的容易ですが、親の死後の銀行口座名義の変更は煩雑です。

また、口座残高が110万円を超えるかどうかによって税額が異なる(110万円以下なら贈与税はかかりません)ため、あらかじめ名義変更をどのように進めるか、十分に検討しておきましょう。

(提供:ACNコラム