1,000万円を譲渡したら贈与税はいくらになる?
(画像=ELUTAS/stock.adobe.com)

目次

  1. 贈与税の基本を確認しよう
  2. 暦年課税制度における税率と控除額
  3. 贈与財産の価額の計算方法
  4. 一般税率における贈与税額の計算例
  5. 特例税率における贈与税額の計算例
  6. 暦年課税における節税方法
  7. 相続時精算課税制度や特例を利用した節税方法
  8. まとめ

自分の資産を贈与する際、そのタイミングや方法、評価額によっては資産を受け取る側に贈与税が課税されます。課税額を抑えるためには、贈与税の基礎知識が必要です。

この記事では1,000万円相当の財産を贈与するケースを取り上げ、贈与財産の評価額の計算方法や、一般税率・特例税率の贈与税額の計算例、非課税措置の特例を利用した節税方法などについて包括的に解説します。

贈与税の基本を確認しよう

まず、贈与税に関する基礎知識を確認しておきましょう。

贈与税は、基本的に「生きている人」から財産を受け取った際に課税される税金です。「生きている人」と書いたのは、相続税は「亡くなった人」から財産を引き継ぐ際に課税される税金だからです。

ただし、生きている間に生前贈与を行っても、贈与税が課税される場合とされない場合があります。

詳しくは後述しますが、基礎控除の範囲内での贈与や贈与税の非課税措置などの仕組みをうまく使えば、贈与を行っても贈与を受け取った側には贈与税が課税されません。

出典:国税庁 「相続税」と「贈与税」を知ろう

贈与税の課税制度とは

贈与税の課税制度には「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。

暦年課税 1年間の贈与額をもとに贈与税額が決定され都度税金の支払いを行う仕組み
相続時精算課税 相続時まで税金の支払いを先送りできる仕組み

暦年課税は1年間の贈与額をもとに贈与税額が決定され都度税金の支払いを行う仕組みです。

相続時精算課税は、相続時まで税金の支払いを先送りできる仕組みといえます。

贈与税に関しては、近年の贈与税の引き下げや贈与税の非課税措置の拡充などにより、生前贈与を行いやすくなりつつあります。

高齢世代から若い世代に早期に資産が移転されたほうが、経済の活性化につながるからです。

暦年課税制度における税率と控除額

先ほど、贈与税の課税には「暦年課税」と「相続時精算課税」があることを説明しました。

まず暦年課税の下で贈与を行うケースを説明し、記事の後半で相続時精算課税の下で贈与を行うケースと、非課税措置を利用して節税を行う方法を説明します。

暦年課税では、1年単位で贈与税額を計算します。具体的には、贈与を受けた人の1年間の贈与財産の評価額の合計額から基礎控除額110万円を差し引いて、課税価格(課税対象となる金額のこと)を算出します。

その後、「一般税率」または「特例税率」を適用し、贈与税額を計算します。

一般税率は、「父母や祖父母などの直系尊属以外から贈与を受けた場合」や「贈与を受ける人の年齢が贈与を受けた年の1月1日時点で18歳未満である場合」に適用されます。

一般税率の対象となる財産を「一般贈与財産」と呼びます。

特例税率は「父母や祖父母などの直系尊属から財産の贈与を受けた場合」で、かつ「贈与を受ける人の年齢が贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上である場合」に適用されます。

特例税率の対象となる財産を「特例贈与財産」と呼びます。

一般税率の場合

一般税率が適用されるケースにおける贈与税の速算表は以下のとおりです。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

出典:国税庁 暦年課税

上記の表における「基礎控除後の課税価格」は、1年間の贈与の合計額から基礎控除額110万円を差し引いて計算される金額です。

その金額に「税率」を乗じ、「控除額」を差し引いて贈与税が計算されます。計算式は以下のとおりです。

(1年間の贈与の合計額 − 基礎控除額110万円) × 税率 − 控除額

特例税率の場合

特例税率が適用されるケースにおける贈与税の速算表は、以下のとおりです。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

出典:国税庁 暦年課税

特例税率が適用されるケースの贈与税の計算式も、一般税率の場合と同様です。

(1年間の贈与の合計額 − 基礎控除額110万円) × 税率 − 控除額

2つの速算表を使って計算してみると、一般税率よりも特例税率のほうが、課税負担が小さくなっていることがわかります。

基礎控除後の課税価格が500万円のケースで考えてみましょう。

一般税率 (500万円 − 基礎控除額110万円) × 30% − 65万円 = 52万円
特例税率 (500万円 − 基礎控除額110万円) × 20% − 30万円 = 48万円

一般税率が適用される場合は課税額が52万円となりますが、特別税率の場合は課税額が48万円となります。

贈与財産の価額の計算方法

一般税率が適用されるケースでも特例税率が適用されるケースでも、1年間で贈与を受けた贈与財産の価額を計算する必要があります。

贈与財産の価額の計算方法は、贈与財産が現金なのか、不動産なのか、上場株式なのか、非上場株式なのか、などによって変わります。

ちなみに、贈与を受けた財産でなくても贈与を受けたとみなされることもあります。以下がその主なケースです。

・適正な対価の負担なく委託者以外の人を受益者とする信託が行われた場合の信託受益権
・険料を負担した人以外の人が受け取った保険金

一方で、贈与を受けた財産であっても贈与税がかからないケースもあります。

「扶養義務者相互間で教育費や生活費に充てるために贈与を受けた財産で通常必要と認められる範囲内のもの」や「社交上の香典や贈答品などで社会通念上相当と認められるもの」などです。

それでは各ケースを見ていきましょう。

贈与財産の価額の計算方法
1.贈与財産が現金の場合
2.贈与財産が不動産の場合
3.贈与財産が上場株式の場合
4.贈与財産が非上場株式の場合

1.贈与財産が現金の場合

贈与財産が現金の場合は、現金の額がそのまま贈与財産の価額となります。現金1,000万円の場合、その贈与財産価額は1,000万円です。

2.贈与財産が不動産の場合

贈与財産が不動産の場合は、土地と建物それぞれについて価額の評価方法が決まっています。

土地が宅地の場合は「路線価方式」または「倍率方式」で計算されます。路線価が定められているエリアの宅地には路線価方式、それ以外のエリアの宅地には倍率方式が適用されます。

路線価とは道路に面する宅地の1平方メートル当たりの価額のことで、都市部では路線価が定められています。路線価方式における計算式は以下のとおりです。

路線価方式の計算式 路線価 × 奥行価格補正率 × 面積 = 評価額

倍率方式における計算式は以下のとおりです。固定資産評価額は市役所や町村役場で、倍率は国税庁の公式サイトで確認できます。

倍率方式の計算式 固定資産税評価額 × 倍率 × 評価額 = 評価額

家屋の評価方法はどうでしょうか。自分が使用している家屋の場合は、原則として固定資産税評価額を使って計算します。

借家の場合は、固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた金額を固定資産税評価額から差し引いて計算します。

3.贈与財産が上場株式の場合

続いて、贈与財産が上場株式の場合について説明します。上場株式の場合、以下の4つの価額の中で価額が最も低いものが適用されます。

1.贈与を受けた日の終値
2.贈与を受けた月の毎日の終値の月平均額
3.贈与を受けた月の前月の毎日の終値の月平均額
4.贈与を受けた月の前々月の毎日の終値の月平均額

証券会社などを通じて株式投資を行っている人は、しっかり理解しておきましょう。

4.贈与財産が非上場株式の場合

贈与財産が非上場株式の場合はどうでしょうか。

非上場株式の場合は、その株式を発行している会社の規模や株主の態様、資産の構成割合などによって変わります。計算方式は以下の4つです。

1.類似業種比準方式
2.純資産価額方式
3.1と2の併用方式
4.配当還元方式

これらの他に自動車や骨董品などの贈与を受けるケースも考えられますが、その場合は類似品のその時点の売買価格や専門家の意見などを参考にして評価金額が算出されます。

一般税率における贈与税額の計算例

ここまでで説明した知識を使うと、ある1年間に1,000万円相当の財産贈与を受ける場合の贈与額を計算できます。

一般税率の場合も特例税率の場合も、以下の式で計算されることを思い出しながら読み進めてください。

(1年間の贈与の合計額 − 基礎控除額110万円) × 税率 − 控除額

まず、一般税率のケースで考えてみましょう。速算表を再掲します。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

出典:国税庁 暦年課税

現金1,000万円を贈与するケース

現金1,000万円を贈与する場合は、以下のように計算します。

(1,000万円 − 基礎控除額110万円) × 40% − 125万円 = 231万円

上場株式1,000万円を贈与するケース

上場株式を贈与するケースで、前述の4つの方法で計算した上で最も低い価額が1,000万円だった場合は、以下のように計算します。

(1,000万円 − 基礎控除額110万円) × 40% − 125万円 = 231万円

価値が1,000万円の不動産を贈与するケース

続いて、価値が1,000万円と算出された不動産を贈与するケースを考えてみましょう。現金や不動産と同様、以下のように計算します。

(1,000万円 − 基礎控除額110万円) × 40% − 125万円 = 231万円

現金でも上場株式でも不動産でも、評価額が1,000万円であれば贈与税は231万円になります。

特例税率における贈与税額の計算例

続いて、特例税率が適用される場合の贈与税額の計算方法を説明します。特例税率の速算表を再掲します。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

出典:国税庁 暦年課税

現金1,000万円を贈与するケース

現金1,000万円を贈与するケースの税額は、以下のとおりです。

(1,000万円 − 基礎控除額110万円) × 30% − 90万円 = 177万円

上場株式1,000万円を贈与するケース

上場株式を贈与するケースで、4つの方法で計算した上で最も低い価額が1,000万円だった場合の税額は、以下のとおりです。

(1,000万円 − 基礎控除額110万円) × 30% − 90万円 = 177万円

価値が1,000万円の不動産を贈与するケース

不動産の価額の計算方法に則って算出された評価額が1,000万円の場合は、以下のとおりです。

(1,000万円 − 基礎控除額110万円) × 30% − 90万円 = 177万円

特例税率の場合も一般税率の場合と同様に、現金でも上場株式でも不動産でも贈与税の税額は同じです。1,000万円の贈与で課税される税金は、177万円となります。

つまり1,000万円の贈与を受ける場合、税額は一般税率(贈与税額231万円)よりも特例税率(贈与税額177万円)のほうが54万円少なくなります。

暦年課税における節税方法

ある1年間に1,000万円の評価価額の贈与を受ける際の税額の計算方法を説明しましたが、覚えておいてほしいことが1つあります。

それは、暦年課税では1年ごとに毎年110万円の基礎控除を受けられるため、例えば以下のように10年間にわたって贈与が行われた場合は、贈与税が課税されないということです。

贈与価額 贈与税
1年目 110万円 0円
2年目 110万円 0円
3年目 110万円 0円
4年目 110万円 0円
5年目 110万円 0円
6年目 110万円 0円
7年目 110万円 0円
8年目 110万円 0円
9年目 110万円 0円
10年目 10万円 0円
合計額 1,000万円 0円

毎年決まった金額を贈与することを決めている「定期贈与」と判断された場合は贈与税が課税されますが、暦年課税に関する知識として覚えておいてください。

相続時精算課税制度や特例を利用した節税方法

最後に、相続時精算課税制度を選択した場合や、非課税措置の特例を利用した場合の節税方法を説明します。

相続時精算課税制度や特例を利用した節税方法
1.相続時精算課税制度
2.配偶者控除に関する非課税措置
3.住宅取得等資金に関する非課税措置
4.教育資金の一括贈与に関する非課税措置
5.結婚・子育て資金に関する非課税措置

1.相続時精算課税制度

この記事の最初に、贈与税の課税方式として「相続時精算課税」を選べることを説明しました。

相続時精算課税では累計2,500万円までの贈与が非課税となり、2024年1月からは毎年110万円の基礎控除も設けられました。

単純に税率だけを比較すると、2,500万円以上の贈与を行う場合は暦年課税では課税対象分に45〜55%の税率が適用されます。

一方で相続時精算課税制度では20%の税率が適用されるため、贈与額が大きい場合は相続時精算課税制度を選択したほうがよいことになります。

ただし、ここでも覚えておいてほしいことがあります。

それは、相続時精算課税を選択した場合は自分が亡くなって相続が発生した際に、生前贈与した財産と相続財産の価値を合わせて相続税が計算されるため、課税が先送りされることです。

2.配偶者控除に関する非課税措置

20年以上の婚姻関係がある配偶者から、居住用不動産の購入もしくはその建築資金の贈与を受けた場合、一定の条件を満たすと2,000万円の控除を受けられます。

つまり、この特例が当てはまる場合は1,000万円相当の贈与でも贈与税額は0円となるのです。

出典:国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

3.住宅取得等資金に関する非課税措置

父母や祖父母など直系尊属から自宅用の住居の新築もしくは取得などのための資金を受け取った場合、省エネ等住宅であれば1,000万円まで、それ以外の住宅であれば500万円まで非課税となります。

出典:国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

4.教育資金の一括贈与に関する非課税措置

祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合は、一定の条件を満たすと1,500万円までの部分が非課税となります。

出典:国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし

5.結婚・子育て資金に関する非課税措置

父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合は、一定の条件を満たすと1,000万円までの部分が非課税となります。

出典:国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし

まとめ

この記事で紹介した知識があれば、1,000万円相当の資産を贈与する際の税額の目安がわかるでしょう。

贈与の方法によっては税額を抑えられたり、非課税となったりすることがあることもおわかりいただけたかと思います。

知識があるだけで税額を抑えられるケースは多々ありますので、ぜひ参考にしてください。