不動産小口化商品の「減価償却」の仕組みを解説
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目次

  1. 不動産小口化商品とは?
  2. 不動産小口化商品の種類3つ
  3. 不動産小口化商品の用途別種類とその特徴
  4. 減価償却の基礎知識
  5. 不動産小口化商品は減価償却可能?
  6. 不動産小口化商品のメリットは?
  7. 不動産小口化商品のデメリットは?
  8. まとめ

不動産小口化商品では「減価償却」が可能なのでしょうか。結論からいえば、種類によっては可能です。

所得税の節税のために減価償却を検討しているのであれば、このあたりの知識をしっかりと頭に入れたうえで、どの不動産小口化商品を保有するか決め、賢く資産運用に臨みたいところです。

本記事では、不動産小口化商品の基礎知識を解説したうえで、そもそもの減価償却の仕組みや不動産小口化商品における種類ごとの減価償却の可否などについて解説していきます。

不動産小口化商品とは?

不動産小口化商品(※「小口化」の読み方は「こぐちか」)とは、不特定多数の投資家がお金を出し合って一つの不動産を購入し、得られた利益が投資家の持ち分に応じて分配される投資商品のことを指します。

投資家が単独で不動産を保有するには多額の資金が必要ですが、高い収益が見込める都心の不動産であっても不動産小口化商品であれば少額から投資が可能です。

また不動産管理には、さまざまな手間がかかりますが、不動産小口化商品ではプロに管理を任せることができます。さらに不動産小口化商品は、相続時の財産分与においてもメリットが大きいことが特徴です。

不動産の場合、通常は子どもの数で均等に相続することはできず、均等に相続するためには建物を売却して現金化することが必要になってきます。

しかし1口100万円の不動産小口化商品を30口保有していた場合はどうでしょうか。例えば子ども3人に相続させたい場合は、10口ずつ相続すればよくスムーズに分けることが可能です。

投資額を抑えて不動産運用をしたい人や相続対策を検討している人、不動産管理の手間をかけたくない人などに合っているのが、不動産小口化商品といえます。

不動産小口化商品の種類3つ

続いて不動産小口化商品の種類について解説していきます。不動産小口化商品は、大きく分けると「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸型」の3つです。

種類 期間 1口価格
匿名組合型 短期可 1万~10万円程度の場合が多い
任意組合型 基本長期 100万円以上の場合が多い
賃貸型 基本長期 100万円前後の場合が多い

それぞれについて詳しく解説するので見ていきましょう。

不動産小口化商品の種類3つ
1.匿名組合型
2.任意組合型
3.賃貸型

1.匿名組合型

匿名組合型は、匿名組合の事業者に投資家が出資を行い、その事業者が不動産を保有・運用して収益を得て、その収益を分配金として投資家に配分する仕組みのことを指します。

不動産の所有権は事業者が持ち、投資家は保有権を有しません。この点は、あとで減価償却について説明する際にポイントとなるため、覚えておきましょう。

税務上、分配金は「雑所得」として扱われます。1口の金額は1万~10万円程度が主流です。短期間だけ投資することも可能で、不動産小口化商品への投資に始めて取り組む人などに推奨されます。

2.任意組合型

任意組合型では、資金を投資する投資家と業者の間で任意組合契約が締結され、共同で事業に取り組む形となります。

出資方式には「現物出資」と「金銭出資」の2種類があり、現物出資では投資家が不動産所有者となれ、業者の倒産リスクを回避できます。一方、登記費用がかかります。

金銭出資の場合も不動産所有者になれます。登記費用を節約できるのが金銭出資のメリットですが、業者の倒産によって出資金を回収できない可能性が出てきます。

現物出資、金銭出資のどちらのタイプでも、任意組合が不動産を保有・運用して収益を上げ、その収益が投資家に分配される仕組みです。

匿名組合型の場合、分配金は税務上、雑所得として扱われますが、任意組合型では「不動産所得」とみなされます。

任意組合型では、生前贈与や相続の際に算出する必要がある評価額の計算において、現物不動産を保有しているときと同様に「路線価」や「固定資産税評価額」が用いられます。そのため不動産投資における節税効果と同様のメリットを享受することが可能です。

匿名組合型では短期運用も可能ですが、任意組合型は10年以上といった比較的長いスパンで長期運用をしたい人に適しています。1口の価格は100万円を超えるのが一般的です。

3.賃貸型

賃貸型は、不動産の持ち分を投資家それぞれが所有し、不動産を管理する事業者と賃貸借契約を結ぶ形となります。

事業者から入金される賃貸収益や売却益を投資家が受け取り、その収益は不動産所得として扱われます。

事業者が破産するなどした場合、一時的に不動産の運営ができなくなるといったリスクがあります。基本的に賃貸型は、長期運用となり1口100万円前後が一般的です。

不動産小口化商品の用途別種類とその特徴

続いて、不動産小口化商品を不動産の用途別に「住居用」「商業用(テナント)」「事務所用(オフィス)」「宿泊施設用(ホテルや旅館)」と4種類に分類し、それぞれについて知っておくべき点を説明してきます。

4種類それぞれがどのようなメリットやデメリットがあるかを知っておけば、不動産小口化商品を選ぶ際に検討をしやすくなります。

現物の不動産投資をしたことがある方は知っている内容かもしれませんが、不動産小口化商品を通じて初めて不動産投資に挑む方は、よく内容を確認してください。

不動産小口化商品の用途別種類とその特徴
1.住居用
2.業用(テナント)
3.事務所(オフィス)用
4.宿泊施設用(ホテルや旅館)

1.住居用

住居用の不動産の場合、家賃収入が安定しやすいというメリットがあります。

なぜなら景気が良くても悪くても人は、住む場所が必要不可欠となるからです。衣食住に関わるものは、いつの世もニーズがなくなるわけではありません。

特に人口流入が活発な都市部では、住居用不動産に対するニーズが高くなっています。

一方、地方都市や人口減が顕著な地域では住居用不動産の空室率が高まっていくリスクが大きい傾向です。空室率が高まると家賃収入は減り、投資リターンが悪化してしまいます。

2.商業用(テナント)

テナントを募集する商業用不動産の場合、住居用と比べると期待リターンが高めです。

住居用と比較すると、設備の維持費やリフォーム費用が抑えられることもメリットといえます。これは、基本的に設備や内装の費用を負担するのがテナントの入居者側だからです。

ただし商業用不動産は、一度空室が出た場合、空室期間が長期にわたるケースが出てくる可能性があるため注意しましょう。

住居用は入居者の入れ替わりが激しい分、空室が出ても次の入居者が決まりやすい傾向ですが、商業用不動産はその逆です。

3.事務所(オフィス)用

事務所用の不動産の場合、住居用や商業用よりも立地の重要度が低いことがメリットの一つです。

住宅用は立地が悪ければ魅力が薄れ、商業用では客足に影響が出ますが、事務所用の場合、そこまで交通の不便さなどはネックになりません。また一般的に賃料収入は、住居用よりも高めです。

一方、景気の影響を受けたり、1企業に賃貸する面積が大きい場合は退去によるダメージが大きかったりするデメリットもあります。

建築コストが住居用よりも高くなりやすい点も押さえておきたいポイントです。

4.宿泊施設用(ホテルや旅館)

宿泊施設用の不動産の場合、宿泊業界の活況が続けば家賃収入や売却益などが大きくなることが期待できます。

近年は、日本を訪れる訪日外国人が増えているため、追い風となっています。今後のインバウンド観光の行方を見通すことは、宿泊施設用の不動産への投資を考えるうえで非常に重要です。

ただし宿泊業界は、新型コロナウイルスといった感染症の流行などで大きな影響を受けかねません。コロナ禍では、多くの宿泊施設が廃業や倒産に追い込まれました。

また為替レートの変動の影響も受けやすいのが宿泊施設用の不動産です。円安が進むと海外の人は安く日本へ旅行ができるため、宿泊業界には追い風となります。

減価償却の基礎知識

不動産小口化商品における種類ごとの減価償却の可否について説明する前に、そもそも減価償却とはどういう仕組みなのかについて説明します。

なぜ減価償却は節税になる?

減価償却(げんかしょうきゃく)とは、建物などの固定資産を取得したときに全額を経費として一度に計上するのではなく使用可能期間に分割して経費を徐々に計上していく仕組みのことです。

例えば1,000万円の減価償却資産を購入して、10年で減価償却を行う場合、毎年100万円ずつ10年間かけて減価償却を行うことになります。

この減価償却は、節税につながることで知られていますが、なぜ課税額を抑えることができるのでしょうか。

減価償却ができる場合もできない場合も、経費として計上できるトータルの金額は変わらないのに、なぜでしょうか。

これは、経費を分割計上することで、トータルでより多く所得金額を減額することができるからです。

例えば1年間の所得金額が500万円の人が、減価償却可能な4,000万円の固定資産を購入したとします。

もし減価償却せずに1年目で4,000万円を経費として計上する場合、1年目の所得金額は500万円から0円となりますが、2年目以降は経費として計上できません。

つまり4,000万円の固定資産の購入による所得金額の減額効果は500万円のみです。

一方、4,000万円を400万円ずつ10年かけて減価償却していくと1年目も400万円、2年目も400万円……。

というように毎年400万円の所得金額の減額効果が生じるため、トータルで所得金額を4,000万円減らすことができます。

減価償却が可能なものは?

減価償却資産の対象となるのは、時間が経つにつれて価値が減少する資産で主に「有形固定資産」と「無形固定資産」に分けられます。

減価償却ができる有形固定資産としては、建物や自動車、電気設備、製造用設備など、減価償却ができる無形固定資産の代表例は、ソフトウェアや特許権などです。

建物や自動車、設備などは、時間の経過とともに価値が落ちてきます。例えばソフトウェアも新しいソフトが開発・販売されると、その価値は徐々に落ちていくといった具合です。

減価償却ができないものは?

一方、時間が経っても価値が落ちない固定資産は減価償却ができません。例えば建物は減価償却ができますが、土地は減価償却ができません。

もちろん土地の価値は、ニーズなどによって変動しますが、時間の経過で土地そのものが劣化して価値が減少するわけではありません。美術品や骨とう品なども減価償却ができません。

不動産小口化商品は減価償却可能?

減価償却の仕組みが理解できたところで、不動産小口化商品の種類ごとに減価償却が可能かを確認していきましょう。

不動産小口化商品の主な種類としては「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸型」の3つがありました。結論からいえば、匿名組合型では減価償却ができず任意組合型か賃貸型では減価償却が可能です。

種類 減価償却の可否
匿名組合型 減価償却できない
任意組合型 減価償却できる
賃貸型 減価償却できる

「匿名組合型」のケースは減価償却できる?

匿名組合型では、減価償却ができません。

上述したように匿名組合型の場合、投資家は不動産を所有することにならず、分配金は雑所得として計上されます。このような形態となる匿名組合型では、減価償却をすることができません。

「任意組合型」のケースは減価償却できる?

任意組合型では、減価償却が可能です。

任意組合型において投資家が不動産の所有者となる場合、分配金は不動産所得として計上されるため、減価償却が行えます。

「賃貸型」のケースは減価償却できる?

賃貸型では、減価償却が可能です。

なぜなら不動産の持ち分を投資家それぞれが所有することになり、収益は不動産所得として扱われるからです。

不動産小口化商品のメリットは?

不動産小口化商品の種類によって減価償却ができるかできないかは、理解できたでしょうか。

最後にそもそも不動産小口化商品に投資するかしないかを決めるための検討材料にしてもらうため、メリットとデメリットについて解説します。

まずは、メリットから説明していきます。

不動産小口化商品のメリット
1.不動産小口化商品なら相続税の評価額を抑えられる
2.不動産小口化商品なら遺産分割がしやすい

1.不動産小口化商品なら相続税の評価額を抑えられる

不動産小口化商品で不動産を所有する場合、商品によっては相続税の評価額を抑えることが期待できます。

相続税算出するためには、資産評価額の計算が必要になります。なぜなら現金の場合は額面金額が100%そのまま評価額となりますが、不動産の場合は時価よりも低い評価額となることが期待できるからです。

2.不動産小口化商品なら遺産分割がしやすい

記事の前半部分で触れたとおり、現物不動産を保有している人が亡くなって相続が発生した場合、相続人間でトラブルが起きることがあります。なぜなら不動産は、物理的に公平に分割しにくく遺産分割がもめやすい傾向があるからです。

しかし不動産小口化商品であれば、ある一定以上の口数を保有していれば、複数の相続人がいても遺産分割しやすくなります。

例えば1口100万円の不動産小口化商品を10口保有している場合、子ども2人で均等に遺産分割させたいなら5口ずつ相続すればいいだけです。

不動産小口化商品のデメリットは?

一方、不動産小口化商品にはどのようなデメリットがあるでしょうか。2つ挙げて説明します。

不動産小口化商品のデメリット
1.不動産小口化商品では自己資金が必要になることが多い
2.不動産小口化商品は中途解約できないケースが多い

1.不動産小口化商品では自己資金が必要になることが多い

単独で不動産投資を始める際には、購入する不動産を担保として銀行に不動産融資を申し込み、審査に通過すれば、一定額の自己資金がなくても不動産投資をスタートさせることが可能です。つまり資産額以上の規模の資産運用も可能になります。

しかし不動産小口化商品では、不動産の所有者になれる場合でも不動産は共同所有という形態となるため、その不動産を担保として銀行に融資を申し込むことができません。

少額で不動産投資が可能なことが不動産小口化商品のメリットですが、レバレッジをかけて不動産を運用しにくいことは不動産小口化商品のデメリットといえるでしょう。

2.不動産小口化商品は中途解約できないケースが多い

不動産小口化商品の場合、中途解約ができない商品が多い傾向です。

解約が可能な場合でも、価値がかなり目減りする形で買い取りを受ける形となり、投資家側にはデメリットとなります。

個人で不動産を保有する場合は、原則自分の判断でいつでも好きなタイミングで不動産を売却することが可能です。

売却に関する各種コストは発生するものの、売却のタイミングや手法によっては十分なリターンを得ることができます。

まとめ

不動産小口化商品は、任意組合型と賃貸型では減価償却をすることが可能で、戦略的に所得税の節税につなげることが期待できます。

一方、匿名組合型では不動産所有者になれず、収益も雑所得となるため、減価償却はできません。この点に注意し、どの不動産小口化商品を選ぶか決めるようにしましょう。