本コラムでは、譲渡所得の詳細や所得金額・税額の計算方法、譲渡所得に適用される特例、そして確定申告書作成の流れなどについて解説していく。
譲渡所得とは?対象となる収入は?
譲渡とは、権利や財産、法律上の地位などを他の人に譲り渡すことを指す。譲渡は、有償で行われることが多いが無償で行われる場合も含まれる。また譲渡所得とは、資産を譲渡することによって得られる所得のことだ。具体的にどのような内容が譲渡所得の収入として対象になるのか、詳しく見ていこう。
・譲渡所得となる収入とは:土地や建物、株式、ゴルフ会員権など
譲渡所得となる主な資産は、下記のように区分される。
区分 | 所得の例 |
---|---|
不動産による譲渡所得 | 土地や建物など |
金融資産による譲渡所得 | 株式や債券など |
知的財産や権利による譲渡所得 | 特許、商標、ゴルフ会員権、営業権、漁業権など |
その他の譲渡所得 | 同族会社の株式、船舶車両、美術品、ソフトウェアなど |
ただし資産の種類によっては、譲渡所得に該当しないものもある。例えば事業を目的として商品や山林などを譲り渡すことは、譲渡所得から除外される。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得の計算方法は、土地や建物などを売った収入金額から、「取得費」と「譲渡費用」を差し引くことで算出可能だ。計算式にすると以下のようになる。
課税譲渡所得金額=土地や建物を売った収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
上記の計算式における取得費と譲渡所得の詳細は、次の通りだ。
・取得費とは:購入代金や建築代金など
取得費とは、土地や建物を取得するためにかかった費用のことだ。具体的な例としては、購入代金や建築代金のほかに購入手数料や設備費、改良費などが含まれる。なお建物の取得費については、購入代金や建築代金などから減価償却費(資産を所有している期間中に計上した金額)を差し引いた金額となるため注意が必要だ。
このほかの取得費としては、土地や建物を購入した際の登録免許税や不動産取得税、印紙税などが含まれる。ただし事業所得の必要経費は、譲渡所得の取得費には含まれない。
・譲渡費用とは:手数料や印紙税など
譲渡費用とは、資産を売却する際に直接的に発生した費用を指す。具体的な例としては、土地や建物を売却する際の仲介手数料や売主が負担する印紙税、建物の解体費用(建物の損失額を含む)、測量費などがある。
譲渡費用は、あくまでも売却時に直接かかった費用のことだ。そのため物件を所有している間に支払った修繕費や固定資産税、管理委託費などは譲渡費用として計上できない。
※計算式内の特別控除額については後述する。
譲渡所得の税額の計算方法
次に譲渡所得の税額について確認していこう。
・譲渡所得は分離課税(所得ごとの計算)に区分けされる
まず所得税の課税方法には「総合課税」と「分離課税」がある。両者の違いは、次の通りだ。
総合課税 | 分離課税 |
---|---|
総合課税に該当する各所得を合算し、計算した税額を納税する | 所得ごとに税額を計算し、総額を納税する |
・給与所得 ・事業所得 ・不動産所得 など | ・譲渡所得 ・退職所得 ・山林所得 など |
土地や建物などを売って得た譲渡所得は、原則、分離課税で計算する(ただしゴルフ会員権などは総合課税で計算)。
・課税譲渡所得の税額の計算式
前述の譲渡所得の計算式で出した課税譲渡所得金額に税率を乗じると税額を計算できる。
課税譲渡所得の税額=課税譲渡所得金額×税率(所得税・住民税)
なお計算式内の税率は、所有期間によって異なる(次項で詳しく解説)。
土地や建物の譲渡所得の税率は、所有期間で税率が異なる
土地や建物を売ったときの譲渡所得の税率は、所有期間が5年以下だと39.63%、5年超だと20.315%になる(復興特別所得税を含む)。詳細は以下の通りだ。
・不動産売却時の所有期間による区分:5年で線引き
譲渡所得の税率は、所有期間が5年以下だと短期譲渡所得に区分され所得税と住民税の合計で適用される税率は39%だ。一方、所有期間が5年超だと長期譲渡所得に区分され所得税と住民税の合計で20%の税率が適用される。
所有期間による区分 | 5年以下(短期譲渡所得) | 5年超(長期譲渡所得) | ||
税率 (内訳) | 39% | 20% | ||
所得税:30% | 住民税:9% | 所得税:15% | 5% |
・税務上の不動産の所有期間:売却した年の1月1日が基準
なお、ここでいう所有期間とは、土地や建物を売却した(譲渡した)年の1月1日が基準となるため注意したい。所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」として区分され、5年以下の場合は「短期譲渡所得」として区分される。
具体例としては、2018年12月に物件を取得した場合、売却時期が2024年1月1日以降であれば所有期間5年超となり長期譲渡所得に区分される。逆に、2023年12月31日以前に売却すれば短期譲渡所得に区分される。たとえ2023年12月に売却し、実際の所有期間が5年を経過していたとしても基準日は売却した年である2023年の1月1日なので、所有期間5年を超えていないという判断になり、長期譲渡所得ではなく短期譲渡所得となる。
マイホームの譲渡所得に適用できる特例とその計算例
譲渡所得の知識としては、マイホームの譲渡所得で適用できる特例についても押さえておきたい。不動産投資物件では使えないが重要度が高いため、知識として押さえておくほうがが得策だろう。様々な特例があるが、ここでは「3,000万円特別控除」や「所有期間10年超のマイホームの軽減税率」の特例について、概要と計算例を解説する。
・3,000万円特別控除の特例
この特例は、マイホームを売却する際、譲渡所得の税額を計算する過程で最大3,000万円が控除できるものだ。例えば収入金額が5,000万円で取得費・譲渡費用の合計が3,500万円だった場合の計算式は、以下のようになる。
<「3,000万円特別控除の特例」の計算例>
課税譲渡所得金額の計算:収入金額5,000万円-(取得費+譲渡費用の合計3,500万円)=1,500万円
税額の計算:課税譲渡所得1,500万円-特別控除1,500万円(最大3,000万円)=0円
・所有期間10年超のマイホームの軽減税率
土地や建物を売却した年の1月1日現在でマイホームの所有期間が10年超の場合、課税譲渡所得の税額を通常よりも低い税率で計算できる。計算方法は、課税譲渡所得金額が「6,000万円以下」「6,000万円超」で、以下の表のように変わってくる。
課税長期譲渡所得金額 | 税額 |
---|---|
6,000万円以下 | 課税長期譲渡所得金額×10%(他に住民税4%) |
6,000万円超 | (課税長期譲渡所得金額-6,000万円)×15%(他に住民税5%)+600万円(住民税の場合は 240 万円) |
なお本軽減税率は、前述の「3,000万円特別控除の特例」を課税譲渡所得金額に適用したうえで使用することができる。
<マイホームの軽減税率の計算例>
課税譲渡所得の計算:収入金額8,000万円-(取得費+譲渡費用の合計3,500万円)-3,000万円の特別控除=1,500万円
税額の計算:1,500万円×10%=150万円
3,000万円特別控除や軽減税率などの特例を適用するには要件があるため、国税庁の公式サイトなどで確認しよう。
譲渡所得があるときの確定申告書作成の流れと注意点
副業や個人事業主で不動産投資をしている人は、毎年の確定申告が必要だ。あわせて譲渡所得があった年度には、譲渡所得の計算や関連情報の入力などの手続きが必要となる。ここでは、その流れと注意点を紹介していく。
譲渡所得があるときの確定申告作業の流れ
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」経由でパソコンまたはスマホで譲渡所得の確定申告作業をする方法は、以下の通りだ。
1.「申告書等を作成する」の項目から「作成開始」をクリック(またはタップ)する
2. 税務署への提出方法を選択する
3. 対象年度の「申告書等の作成」を開き、所得税を選択する。生年月日欄を入力し、「給与以外に申告する収入はありますか?」の項目で「はい」を選択する。その他の項目を必要に応じて選択して「次へ進む」をクリックする
4. 「収入金額・所得金額入力」の画面上で「分離課税の所得」から「土地建物等の譲渡所得」の項目を選び「入力する」をクリックする
5. 「土地建物等の譲渡所得」の画面上で、「譲渡所得の内訳書【土地・建物用】等」の作成済(計算結果入力)・末作成(内訳書作成)を選択する
※確定申告前に「譲渡所得の内訳書等」を作成していない場合は、「内訳書作成」を選択。譲渡価額・取得費・譲渡費用などを入力する
6. 3,000万円特別控除や軽減税率の特例などを適宜選択する
7.画面の指示に従って入力を進め、内容に誤りがなければ「入力終了(次へ)」をクリックすると「収入金額・所得金額入力」の画面に戻る
8.他の所得や必要事項を入力して申告書を完成させる。必要書類を添付して申告書を管轄の税務署に提出する
譲渡所得申告時の注意点:所有年数と特例の適用
・不動産の所有年数を確認する
前述したように土地や建物の譲渡所得の税率は、所有期間が5年以下と5年超で税率が異なる。特に所有期間が5年前後の場合間違えやすいので注意が必要だ。
・特例が適用されるかを確認する
マイホームを売却して譲渡所得を得た場合は、3,000万円特別控除や軽減税率などが適用されるか否かを確認しよう。適用要件は以下の5つだ。
(1)日本国内にある自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地を売ること。
引用:国税庁※この先は外部サイトに遷移します。「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」より
なお、以前に住んでいた家屋や敷地の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
また、これらの家屋が災害により滅失した場合には、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
(注)住んでいた家屋または住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の3つの要件すべてに当てはまることが必要となる。
イ 取り壊された家屋およびその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること。
ロ その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
ハ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
(2)売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること。
(3)売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていないこと。
(4)売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例の適用を受けていないこと。ただし、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができます。
(5)親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないこと。
「特別の関係がある人」には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。
※(特定増改築等)住宅借入金等特別控除または認定住宅新築等特別税額控除については、入居した年、その前年または前々年に、この軽減税率の特例の適用を受けた場合には、その適用を受けることはできません。
また、入居した年の翌年から3年目までのいずれかの年中に、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の対象となる資産以外の資産を譲渡し、この特例の適用を受ける場合にも、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできません。
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の概要等については、マイホームの取得や増改築などしたときを参照してください。
譲渡所得に関するよくあるQ&A
・譲渡による所得とは?
譲渡所得とは、資産を譲渡することによって得た所得のことを指す。具体的な例としては、土地や建物などの不動産を売却した際の所得などだ。このほかに譲渡所得の対象になる資産として株式や債券、特許商標ゴルフ会員権などが挙げられる。
・譲渡所得はいくらまで非課税?
不動産の譲渡所得で非課税になる仕組みとしては、「3,000万円特別控除の特例」がある。この特例は、マイホームを売却する際に適用され課税譲渡所得の計算で最大3,000万円が控除されるものだ。控除額が大きいため、この特例を適用することで大幅な所得税・住民税の節税が可能になる。
宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
(提供:manabu不動産投資 )
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