政府からの「リスキリング支援1兆円投資」や「人的資本開示の義務化」の発表があり、企業というものの“人財”や“社員”への向き合い方が問われている。そんな中、“働くもの”に愛され、社員の力で成長し続ける企業に、その取り組みや今後の展望を伺った。

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(画像=株式会社エアークローゼット)
天沼 聰(あまぬま さとし)
株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO
英ロンドン大学卒業後、2003年にアビームコンサルティング株式会社に入社し、IT・戦略系のコンサルタントとして約9年間従事。2011年より楽天株式会社 (現 楽天グループ株式会社)にて、UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務めた後、2014年に株式会社エアークローゼットを創業。
日本初・国内最大級、女性向けの普段着に特化した月額制ファッションレンタルサービス『airCloset』の運営会社です。また、商品を試してから購入できるメーカー公認月額制レンタルモール『airCloset Mall』等複数のサービスを運営しています。エアークローゼットは、モノを循環させるシェアリングを軸に、“サステナブルでワクワクする良いモノとの出会い”をお届けします。

個性尊重の文化の根底にあるコミュニケーションとは

ーー人的資本経営におけるエアークローゼットの考え方を教えてください。

私たちエアークローゼットは個を大事にしていて、全員がそれぞれの価値観や考え方を持っており、その全てが正しいということを大原則としています。従って、一律の規則を作り、そのルールを徹底するという組織形態ではなく、行動指針や理念などの、会社として目指す方向を示した上で、それに対し個々が最適な対応をする方針です。

しかし、ルールが少ないということは、その分個々に課せられる意識の水準は高くなければなりません。そこで、社員に対しては常に会社としてのメッセージを伝え、メンバー同士で多くのコミュニケーションが生まれる仕組みを作ることに力を入れています。

特にコミュニケーションについては、組織において最も重要視している点です。組織については様々な取り組みを実施していますが、その施策における意思決定の際には、より適切なコミュニケーションが生まれる組織とは何なのかという問いが根底にあります。 言い換えると、私たちの組織では、コミュニケーションがベースにあり、そのコミュニケーションを補うためのものがそれぞれの施策です。

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エアークローゼットが創る密度の濃いコミュニケーション

ーー実際にどのような取り組みを行なっているのでしょうか。

具体的には、3つの取り組みを行なっています。

1つ目は、フラットなコミュニケーションについてです。エアークローゼットでは社員全員が毎日出社することを原則としています。これは一人一人の社員が成長していくことが人的資本経営の中で大切だと捉えている中で、出社をして直接顔を合わせることで、より密度の濃いコミュニケーションが可能になり、社員の成長や働きやすさにつながると考えています。さらに、このコミュニケーションはフラットに行うことで、活発な活動や主体的な行動に結びつくという考えのもと、ニックネーム制を導入しており、私も含め全社員がお互いのことをニックネームで呼び合っています。

2つ目は、定例の全社イベントについてです。私たちは、週に1回必ず全社会議を行っており、冒頭20分間、私からメンバーに対して、会社の方針や組織に関するテーマについて直接メッセージを発信する時間を設けています。この発信については、社員に会社のことや組織についてなど、新たな切り口で考えるきっかけとして活用してもらうことを目的にしています。また、年に2回、全社合宿を行っています。そこでは、エアークローゼットが社会に対してどのように貢献していくかや、そもそも会社が存在する意義、さらに、その組織の中で個人はどのように貢献するのかなど、日常の中ではあまり考えることが難しいテーマについて考える機会とすることで、個人の成長やキャリア支援、チームビルディングの機会提供を行っています。

3つ目は、成長の機会を作るという観点で、大きく分けて「Cutty Sark(カティーサーク)」と「All Hands On Deck(オールハンズオンデック)」という2つの社内表彰制度を導入しています。「Cutty Sark」は四半期毎に、個人が上げた成果を表彰する賞 です。成果を上げたメンバーについて、その上司である執行役員が本人に代わってプレゼンを行い、その中から表彰するメンバーが選出されるというものです。この賞は、各メンバーが目指すべき指標として活用し、個人の成長を目的としています。一方、「All Hands On Deck」は、私たちが掲げる行動指針を体現している人を月に一回表彰するものです。私が毎月、エアークローゼットの行動指針に関するテーマを発表し、そのテーマを一番体現したと感じる人を全員が相互に投票し合う方式で表彰者が選出されます。この賞は、行動指針やビジョンを形骸化させることなく、日常の中に落とし込むということが目的です。

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現状に満足しない姿勢でモチベーションを高める

ーー人的資本の取り組みにおいて苦労した点を教えてください。

特定の場面や課題で苦労したというよりは、常に課題を持ちそれを改善するために考え、行動し続けてきました。私たちは、会社を創業する前にビジョンや行動指針を作ってから始まった会社であり、人が中心となる組織作りをしたので、創業期から社員のエンゲージメントやモチベーションについて強く意識をして取り組んできました。

例えば、私たちは創業2年目からリンクアンドモチベーション社のモチベーションサーベイを導入して常にモニタリングしてきました。現在は11段階あるうちの最高評価を獲得するだけでなく、相対的な評価である、エンゲージメント偏差値についても70以上のスコアを保っています。ただ、ここで大事にしていることは、スコアを上げるだけでなく、結果を受けて、目標や想定していたスコアとの乖離を計測し、常に組織を伸長させるための課題を設定し直すということを重視しています。実際、取締役も含めたすべてのチームで、サーベイの結果に対してディスカッションを行い、今後のアクションを策定することまでが一連の流れとして徹底されています。

また、組織作りやサービスに関しても、現状に満足せず常に改善をすることが重要であり、むしろ課題がないことは不健全であるという意識で行動しています。従って、常に課題を察知し、それに対して正確かつスピーディーに対応できる組織をつくることが、人的資本経営の本質だと考えています。

変化に強い企業文化の秘訣は、行動指針の体現

ーー取り組みの前後でどのような反響があったのでしょうか。

社員からの反響については、一例ですが、他社から転職してきたメンバーは、毎週社長が社員に対して、直接話すことに驚いたという声であったり、全社合宿が旅行のようなものではなく、徹底的に考え抜くという姿勢に、会社の本気度を感じたという声が多いです。

また、全社会議や「All Hands On Deck」の賞で、日常的に行動指針を体現するために考え行動するということを繰り返し経験することで、組織としての統制がとれ、組織単位での意思決定から行動までの速度が早くなっていると感じています。例えば、緊急事態宣言が発令された時には、出社方法をリモートに切り替えるという方針を全社に伝えたところ、同日、即日に70%以上の社員がリモートワークに移行しました。これは日頃から、会社としての方針や考え方を共有しているからこそ、突然の事態に対して全体が同じ方向を向いて対処できる組織になっていると感じました。現在の変化の激しい時代においては、変化に対応する速度が速い組織が強い組織であると思っています。

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社員の物心両面の幸せを追求するエアークローゼット

ーー社員に対してどのような期待をしているのでしょうか。

まず、私の社員に対する考え方のベースには、社員に対して物心両面の幸せを提供していきたいという想いがあります。ただ、基本的にはどの社員においても、エアークローゼットで働く時間というものはその人の人生の一部にすぎず、個人としての成長なしに幸せにたどり着くことは難しいと思います。従って、社員には、自分の人生と本気で向き合うことで、自らの考えを持ち、それを自信を持って発信することができるような主体性を持って欲しいと考えています。

実際は、社会においてもエアークローゼットにおいても向き合えていない人の方が多いと感じています。会社としては、それに対して向き合うことを考えるきっかけは必ず与えていきます。

これまでも、全社会議やイベントを通して、私からも400回以上の考えるきっかけを渡してきたつもりですので、その考えるきっかけを活用してほしいです。さらに、そこで考えた個々人の考えには、正解も間違いもないので、それぞれの考えや価値観を持って発信するということを期待していきたいです。 また、この発信するということについては行動指針にも含まれていて、ダイバーシティを認めていくという行為につながると考えています。個人の考え方をシェアすることで多様性を尊重していくということを、企業の文化の一つとして大切にしています。

エアークローゼットから投資家の皆様へのメッセージ

ーー今後の未来構想について教えてください。

私たちは、再現性をもって改善のPDCAを回すということができる組織を目指しています。私は、大きな業績や事業成長には、サービスや事業において素晴らしいアイデアを持っていること自体が重要なわけではなく、そのアイデアが具現化され、なおかつ具現化されたアイデアが再現性のある施策として改善されていくことが一番重要であり、その改善を支えるものが組織だと考えています。

ーー投資家の方々へメッセージをお願いします。

エアークローゼットは、全社として常に改善を続けてきた企業であり、この改善を支えているものが、会社や組織のことを深く理解し個人がどのように貢献していくべきかという指標を持ったメンバーで構成されている私たちの組織の力であると自負しています。一時的な瞬間を切り取った際の売上やサービスのあり方という部分だけでなく、持続的に改善をし続けられる会社であるかという部分も見ていただけると嬉しいです。

氏名
天沼 聰(あまぬま さとし)
会社名
株式会社エアークローゼット
役職
代表取締役社長 兼 CEO

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