GAIA-Xは、ドイツやフランスが主体となりGAFAMやBATなどの大手プラットフォーマー企業からの独立を目指し立ち上げたプロジェクトです。その一部であり、自動車業界のデータ連携基盤であるCatena-Xは本格稼働が始まるなど、確実な歩みを見せています。

その一方で、設立メンバーの脱退やロードマップの遅れなどの問題が指摘されているのはご存じでしょうか。本記事では、GAIA-X設立の目的や背景、今後予想される動きなどについて解説します。

目次

  1. GAIA-Xとは
  2. GAIA-Xの7つの原則
  3. 3つのリファレンスアーキテクチャー
  4. データ連携が重要となる理由
  5. GAIA-Xで今後予想される動き
  6. GAIA-Xのようなデータ基盤プロジェクトにより競争力が向上する

GAIA-Xとは

GAIA-Xとは?設立の目的や背景、7つの原則、今後予想される動きを解説
(画像=Peopleimages-AI/stock.adobe.com)

GAIA-Xとは、データガバナンスとデータ流通の基盤プロジェクトです。データ連携を進めるプロジェクトとして、ドイツやフランスが主体となって立ち上げられました。

GAIA-Xは、データの連携と分散を推進するというゴールを持っており、データの安全な交換や正当な主権を保証する目的のIDS(International Data Spaces)と同じ目的を持っています。

また2021年には、自動車メーカーの大手であるBMWとベンツが共同で、自動車業界のデータを扱う「Catena-X」をGAIA-Xの一環として設立しました。非競争領域のデータを企業間で交換することで、EUの自動車産業全体の発展を目指しています。

GAIA-Xが作られた背景

GAIA-Xは、2019年11月にドイツとフランスの両政府によって立ち上げられました。現在は300社以上の企業がメンバーとして参加していますが、設立当時はドイツとフランスの22社から活動が始まりました。

GAIA-Xが設立された背景には、アメリカのGAFAM(Google・Apple・Facebook(現Meta)・Amazon・Microsoft)や、中国のBAT(Baidu・Alibaba・Tencent)などの大手プラットフォーマー企業の存在が大きく関わっています。

現在、世界のデータは上記の企業が提供するプラットフォームに集められ、それぞれで活用が進められています。これらのプラットフォーマー企業は世界規模でも圧倒的な存在感を放っており、現在も成長を続けています。

しかし、GAIA-Xの主体であるEUには、上記のような1社のみでビッグデータを収集できる企業はありません。そこで、EU全体で国際競争に負けない力を持つため、データを管理・活用できるようなプラットフォームであるGAIA-Xを構築したと考えられています。

GAIA-Xの目的

GAIA-Xの目的は、以下の3点です。

  1. データ連携のインフラ構築に向けた技術的・経済的な取組を始動すること
  2. 政府・医療・企業・研究機関などのサービス提供者側と利用者側に共通のエコシステムを構築すること
  3. 1と2の目的を達成するための体制や戦略を構築すること

また、GAIA-Xは以下のようなビジョンとミッションを掲げています。

ビジョン:信頼できる分散型デジタルエコシステムを実現する
ミッション:一連のポリシー、ルール、仕様、検証フレームワークを開発することにより、EU の価値観に沿った事実上の標準を作成する

引用:GAIA-X「Vision & Mission」を編集部で翻訳

ここからGAIA-Xが目指すゴールは、高性能かつ信頼できる分散型データエコシステムを構築して、EUに高い競争力をもたらすことだと読み取れます。

GAIA-Xの7つの原則

GAIA-Xは、以下の7つの原則にもとづいてデータインフラの構築を目指しています。

  1. 欧州のデータ保護
  2. 開放性と透明性
  3. 信頼性と信頼
  4. デジタル主権と自己決定
  5. 自由な市場アクセスと欧州の価値創造
  6. モジュール性と相互運用性
  7. 使いやすさ

またGAIA-Xは、これらの原則にもとづき、以下のような取り組みを進めています。

  1. ユーザーへ設計情報の共有
  2. 製品の利用段階のデータ収集
  3. トレーサビリティの確保

1を実行してユーザーに製品の情報を提供できれば、製品の透明性を向上できます。2を実行して利用段階のデータを収集できれば、運用や保守の質を高められます。3が実現すれば、製品の上流工程から利用者にわたるまでのデータを一元管理することができ、製品のライフサイクル全体を把握できるようになります。

このように、GAIA-Xによりデータの連携と分散を推進することで、企業と顧客の両社が恩恵を受けられるようなシステム作りを進めているのです。

3つのリファレンスアーキテクチャー

GAIA-Xは、先述の原則を達成するために、3つのレイヤーで構成されるリファレンスアーキテクチャを用いています。

製造業DX: EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略
(画像=『製造業DX: EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』より)

このリファレンスアーキテクチャは、IDSのリファレンスアーキテクチャである「IDS-RAM」を参考に作られています。IDSはデータとデータ主権を重視しているのに対し、GAIA-Xはクラウドサービスやクラウドインフラを重視しているという違いはありますが、先述の通り、両者はデータの連携や分散という同じ目的を持っています。

ここからは、GAIA-Xが持つ3つのレイヤーを詳しく解説します。

データエコシステムレイヤー

「データエコシステム」レイヤーでは、データの相互運用やポータビリティを実現します。さまざまなビジネスモデルでデータを活用するには、業種を超えたデータ共有が必要です。データのポータビリティが進めば、業界を超えたデータの相互運用が可能になります。

そのためにGAIA-Xは、データエコシステムレイヤーで医療・製造・交通・行政・農業・文化などの情報を共有・活用できるエコシステムの形成を進めています。ただし、これらを実現するには、AIやIoT、ビッグデータなどの先端技術の活用が必要です。

インフラエコシステムレイヤー

「インフラエコシステム」レイヤーでは、クラウドやHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、エッジコンピューティングなどを相互接続し、連携力を高めます。データエコシステムレイヤーにて相互運用やポータビリティを実現するには、データの相互運用能力を向上させ、データのやり取りを円滑にする必要があります。

ただし、7つの原則の一つである「欧州のデータ保護」を実現しながらポータビリティ性やモジュール性を高めるには、優れたセキュリティ性能が欠かせません。

そのためには、デジタル環境のインフラを整備し、データをやり取りする基盤が必要です。インフラエコシステムレイヤーでは、クラウドやHPCなどのインフラを整備することで、データの連携や相互接続を容易にしています。

フェデレーションサービスレイヤー

「フェデレーションサービス」レイヤーでは、データの保護や交換、利用に関するルールの策定や標準化を行います。フェデレーションサービスレイヤーは、データの連携や相互運用を実現するデータエコシステムと、デジタルインフラを整えるインフラエコシステムをつなぐための機能を持ちます。

GAIA-Xは、フェデレーションサービスで2つのレイヤーをつなぐために、「ID とトラスト・フェデレーションカタログ・データ主権サービス・コンプライアンス」という4つのコア機能に加え、ポータルやAPIなどを用いています。

例えば、IDとトラストでは、認可や認証を行ってアクセス権限をGAIA-Xのメンバーに付与したり、認証情報であるクレデンシャルを保管したりする役割を持ちます。このように、フェデレーションサービスレイヤーでは、認証やデータ管理、ポリシーやログの管理などを行っています。

データ連携が重要となる理由

GAIA-Xとは?設立の目的や背景、7つの原則、今後予想される動きを解説
(画像=Treecha/stock.adobe.com)

GAIA-Xに限らずデータ連携を推進することで、企業やユーザーの情報共有が進み、高度なトレーサビリティが実現します。高度なトレーサビリティが実現すれば、企業は製品ライフサイクルの全ての情報を入手できるようになり、より良い製品の企画が可能になります。

これまでメーカーは、消費者がどのように自社製品を利用するかを、一般的なデータから分析して求めていました。しかし、消費者の手にわたった後のデータを入手できるようになれば、自社独自の実測データを得られるようになります。

実際にどのように利用されているかがわかれば、消費者が抱える本来のニーズを分析することができます。その結果を商品開発に活かせば、消費者のニーズを正確に掴んだ製品の販売が可能になるでしょう。

EUではGAIA-Xが標準化の役割を担っていますが、データ連携を実現するには、政府や公共機関によるデータインフラの整備が必要です。仕組みが整えば、企業の新規参入を容易にしたり、連携の手法が異なることによるリスクを避けたりすることができます。

日本では、デジタル庁が各省庁と連携して、データ要件や連携要件の標準仕様を作成し、データのインフラを整備しています。データ連携を進めている企業の方は、デジタル庁のデータ要件・連携要件の標準仕様から仕様書などを確認して、自社の仕組みと照らし合わせてみてください。

GAIA-Xで今後予想される動き

GAIA-Xは今後、10のライトハウスプロジェクトを軸に取り組みを進めていくと考えられます。2023年11月に開催された「The Gaia-X Journey & Strategy 2025」では、自動車分野のCatena-Xと、農業分野であるAgdatahubについて詳しく説明がありました。

ライトハウスプロジェクトの中で最も進んでいるCatena-Xでは、自動車業界内での競争力の向上やCO2削減に向けて、データを安全にやり取りできるプラットフォームの構築を目指しています。

自動車業界で高度なトレーサビリティが実現すれば、CO2排出量の管理が容易になり、ESGやSDGsへの対応がしやすくなるでしょう。

また、Agdatahubでは、2024年にEU内の1,000万の農場と50万のパートナーと連携することを目標に掲げています。農業分野のトレーサビリティを確保するには、農家に加え、卸業者や小売業者の協力が必要です。そのため、業種を超えた広い協力が必要になるでしょう。

「The Gaia-X Journey & Strategy 2025」で解説されたのは自動車と農業の2つの分野ですが、そのほかのプロジェクトも平行して進められています。ただし、設立メンバーであるScalewayの脱退やロードマップの遅れなどがあり、全てが順調に進んでいるとは言えない状況です。

政府主導で立ち上げた機関でさえ苦戦している現実は、データの収集や管理の難しさを物語っています。日本でもデータ連携基盤の整備が進んでいますが、早期からデータ連携や分散の課題に取り組むことは非常に重要だといえます。

GAIA-Xのようなデータ基盤プロジェクトにより競争力が向上する

データは「21世紀の石油」と言われるほど、デジタル社会において重要な資源です。その中でデータの有効活用を実現するには、政府や公共機関の働きかけが不可欠です。日本でも、データの連携や分散に必要なインフラ整備がより一層求められるようになるでしょう。

とはいえ、GAIA-Xをはじめとする海外のデータ連携機関に参加すると、海外仕様のデータ対応が必要になり、国内の産業に悪影響を及ぼす可能性があります。日本が進めるデータ連携システムを整備しつつ、国内の企業に最も利益をもたらせるよう、国際標準に従っていく必要があるでしょう。

また、データの利活用は、全ての企業に求められている課題でもあります。企業はこうした流れの中で、いかにデータ活用やデジタル化に順応していけるかが、今後の発展において重要なポイントになるでしょう。

(提供:Koto Online