ストライク<6196>と名古屋中小企業投資育成は、2月7日、名古屋市中村区のJPタワー名古屋ホール&カンファレンスで「事業継続のための”従業員承継”の実態」と題したセミナーを共催した。
2部構成で、第1部は「承継方法の選択肢に迫る~親族内承継・M&A・従業員承継の違いと仕組み~」について、ストライク代表取締役社長の荒井邦彦氏と名古屋中小企業投資育成業務第四部長の甲斐誠氏が講演。
第2部では「従業員承継のポイント~従業員承継の事例紹介・円滑に進めるためにすべきこと~」について、荒井氏が自社の従業員承継の支援事例を基にメリットやデメリットについて解説した。
会場では従業員承継を検討している経営者や、事業承継に課題や悩みを抱えている経営者ら50人(ライブ配信43人)が参加し、従業員承継の手法や実例などの紹介に聞き入った。
税率の高い「みなし配当課税」が発生することも
第1部ではまず荒井氏が事業承継のパターンを紹介したうえで、親族承継、従業員承継(MBO)、第三者承継(M&A)を比較し、それぞれの課題と対策をまとめ、従業員承継にかかわる基礎的な情報として共有した。
その後で、従業員へのスムーズな株式承継方法を甲斐氏が紹介。「自己株式を活用する方法」「MBO:持ち株会社方式」「分散保有:特例評価」の三つの方法について説明した。
自己株式を活用する方法
「自己株式を活用する方法」について、まずオーナーの一部の株式(30%ほど)を後継者や経営幹部に譲渡し、その後オーナーが保有する株式を相応の対価で会社に自己株式として譲渡する流れを紹介。
この方法であれば、後継者は少ない資金負担で経営権を承継することができ、オーナーには時価譲渡によって、まとまった現金が入るなどのメリットがあるとした。
一方で、デメリットとしてオーナーから株式を買い取るための資金が多額になると財務内容が悪化することや、オーナーの株式売却による所得に対し、税率の高い「みなし配当課税」がかかる点を挙げた。
税率が高いのは、オーナーが会社に株式を売却するのは、会社の内部留保を株主に払い出すことと実質的に同じ行為であり、配当金の課税と同じ税率がかかるためと説明。このみなし配当課税を避ける方法の一つとして、「MBO:持ち株会社方式」を取り上げた。
MBO:持ち株会社方式
この「MBO:持ち株会社方式」は、まずオーナーから株式を取得することを目的とした、後継者が主要株主となる持ち株会社を設立し、次に、この持ち株会社はオーナーから株式を取得するための資金を銀行から借り入れ、その後、銀行からの借入金などでオーナーから株式を取得するとの流れを説明。
これによって当該企業は持ち株会社の100%子会社となり、経営陣は持ち株会社を経由して当該企業の経営権を手に入れることができ、持ち株会社は当該企業の利益や内部留保を活用して、借り入れを返済していくことができるとした。
この方法のメリットとして、オーナーは時価譲渡によってまとまった現金が入り「自己株式を活用する方法」のように、みなし配当課税がかからないことを、また新経営陣側は共同出資者の出資金や銀行からの借入金の活用によって、少ない資金負担で経営権の獲得が可能となることを挙げた。
一方、デメリットとして、株式の譲渡資金が大きくなると持ち株会社に多額の資金負担が発生するため、グループ全体の財務が悪化することや、持ち株会社の設立などのための管理コストがかかる点を挙げた。
分散保有:特例的な評価
「分散保有:特例的な評価」ではまず、未上場会社の株式の評価方法について、同族会社の株式を同族関係にある者が相続する場合や譲渡を受ける場合は、その株式の本来的価値である原則的評価(高い株価)が適用されること。
さらに、同族関係者以外の少数株主にとっては、大株主と比較すると限定的な権利しかないため、少数株主が持つ株式の価値は、配当を得られるのみという考え方に基づいた配当還元価額(およそ配当の十倍の株価)という、原則的評価と比べると一般的に安い特例的な評価方式が適用されることを紹介。
そのうえで、同族関係者が議決権の30%以上を保有している会社の同族株主以外の株主や、同族株主のいない会社で持ち株割合が15%未満の株主は、特例的な評価が適用されるとし、議決権比率が15%未満になるような株主構成を作り、オーナー親族から安い株価で譲渡することに対する合意が得られれば、従業員にとっては金銭的負担の少ない株式の承継が可能になると説明した。
この方法のメリットとして、後継者の資金負担が少ないスムーズな株式承継が可能になることのほかに、多くの役員や社員が株主になることにより、経営参画意識が高まり、モラールアップにつながること。
さらに一旦こうした株主構成ができ上がると、次の承継もスムーズにできることや、「自己株式を活用する方法」や「MBO:持ち株会社方式」比べて資金流出が少なく、財務が毀損しないなどの点を挙げた。
一方、デメリットとして、オーナーにとって保有株式の売却収入が極小化してしまうことや、従業員株主が退職時に株式の譲渡に応じず、株式が社外に分散するリスクがあること。
さらに過半数を超える株主がいないために、責任の所在が不明確になることや、経営陣の意見が分かれると何も決められない事態に陥る可能性がある点を挙げた。
三つの方法を紹介したうえで、実際の従業員への株式の承継対策では、一つの方法のみを選択するのではなく、会社の事業やオーナーの事情に合わせて、いくつかの方法を組み合わせて実施していくことが現実的とまとめた。
最後に、同社の投資先の従業員承継の事例を二つ紹介し「事業承継の際に参考にしていただけると幸い」と締めくくった。