この記事は2024年4月5日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「ジョコ路線の継承を図るプラボウォ新政権の手腕に注目」を一部編集し、転載したものです。
(IMF「World Economic Outlook Database」)
2024年2月のインドネシア大統領選挙では、プラボウォ・スビアント国防相とギブラン・ラカブミン氏の正副大統領候補ペアが勝利した。今年10月には、ジョコ・ウィドド現大統領が2期10年間の任期を終え、次期政権が発足することになる。
大統領選でプラボウォ氏は、これまでの強い指導者というイメージを封印し、親しみやすさを前面に押し出した。また副大統領候補にジョコ大統領の長男ギブラン氏を迎えることで、若者の支持を取り込むとともに、国民人気の高いジョコ大統領の継承者としてのアピールに成功した。プラボウォ氏はジョコ政権の路線継続を宣言しており、首都移転やインフラ開発、産業開発といった基本政策が大きく変わることはないとみられる。
首都移転については、カリマンタン島東部のヌサンタラの開発が進んでおり、プラボウォ氏は国内の地域格差是正のため、その計画を継続する方針を示している。
インフラ開発は、ジョコ政権下で高速鉄道や都市高速鉄道(MRT)、軽量軌道交通(LRT)などが開通したが、引き続き移動手段は自動車に依存している。プラボウォ氏は働く人や貧しい人々に安価な公共交通機関を提供する考えを示しており、小規模な都市を含めて公共交通サービスの整備を進めるものとみられる。
産業開発については、ジョコ政権は20年1月に未加工のニッケル鉱石の輸出を禁止し、23年6月には未加工のボーキサイト鉱石の輸出も禁止するなど、国内で資源を加工して付加価値を高める「下流化政策」を進めてきた。プラボウォ氏も同政策について鉱物資源、植物、海洋資源を加えた21分野に対象を広げ産業振興を図る考えだ。
次に、新政権下での米中外交はどうか。インドネシアは中国との間で領土問題を抱えており、南シナ海のナトゥナ諸島周辺の資源開発を巡って両国間の緊張感が増している。しかし、チャイナマネーの存在感の大きさから、ジョコ政権は対中関係を重視してきた経緯があり、新政権でも同様の外交方針を示すとみられる。その一方で、プラボウォ氏は、かつて独裁体制を敷いたスハルト元大統領の娘婿であり、国軍幹部として人権侵害に関わった疑いで米国から入国を一時禁止された過去を持つ。
従って、プラボウォ氏は経済面では中国との関係を維持しつつも、国防面では中国を警戒して米国との関係を維持する必要がある。そのため、自らの強権的なイメージを払拭するとともに、対米関係に注意を払った外交政策を展開すると考えられる。
国際通貨基金(IMF)の推計によると、インドネシアの22年におけるGDP(購買力平価ベース)は世界7位に位置付けられる(図表)。プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によれば、インドネシアのGDPは30年に日本に迫るとみられており、新政権の手腕がいっそう注目される。
ニッセイ基礎研究所 准主任研究員/斉藤 誠
週刊金融財政事情 2024年4月9日号