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投資信託は、預金や株式、不動産と同様に相続税評価の対象となります。
したがって、投資信託を最近相続した人や近い将来に相続する人は、相続税評価の方法についての知識を備えておくことが重要です。
ここでは、相続や金融商品の知識があまりない初心者向けに、投資信託の相続税評価の方法を注意点も交えながら、わかりやすく解説します。
- 投資信託の種類
- 投資信託のメリットやデメリット
- 相続評価の方法の計算式
財産に投資信託が含まれる場合は相続税評価が欠かせない
はじめに相続の手続きの流れを確認しましょう。
一般的に、相続発生(被相続人の死亡)から相続手続き完了まで、以下の流れで手続きを進めていきます。
1. 被相続人の死亡の届出(役所や金融機関、保険会社など)
2. 相続方法の決定(相続放棄、限定承認、単純承認)【相続発生から3カ月以内】
3. 被相続人の準確定申告【相続発生から4カ月以内】
4. 遺産分割の確定
5. 相続税の申告書提出と納税【相続発生から10カ月以内】
6. 相続財産の名義変更【同上】
上記のうち、「1. 金融機関への死亡の届出」 ですが、届出をおこなう金融機関は被相続人が口座を開設していたすべての金融機関が対象です。
また、相続財産に投資信託が含まれる場合は、金融機関に対してすみやかに「相続開始日時点の残高証明書」の発行を依頼しましょう。
この証明書の内容に基づいて、投資信託の相続手続きをしていきます。
投資信託の相続税評価の方法は種類ごとに違う
投資信託の相続税評価は、「相続人などがご自身でおこなう場合」と「税理士に依頼する場合」が考えられます。
どちらを選択するかは、投資信託の相続税評価の方法を理解したうえで適切に判断する必要があります。
一番のポイントは、投資信託には以下のようにいくつかの種類があり、その種類ごとに相続税評価の方法(計算式)が異なることです。
1. 一般的な投資信託
2. 上場投資信託(ETF・REIT)
3. MRF(マネー・リザーブ・ファンド)
4. 外貨建MMF(マネー・マーケット・ファンド)
5. 私募投資信託
※上記は、相続税評価の視点で見たときの投資信託の種類です。
それぞれの投資信託の特徴と相続税評価の方法は、次項以降で詳しく解説していきます。
投資信託の相続税評価前に覚えておきたい種類
まずは、前述の5種類の投資信託について、それぞれの特徴を理解しましょう。
1.一般的な投資信託
ここでいう一般的な投資信託とは、大勢の投資家から資金を募って運用する投資信託(公募投信)のうち、下記に該当しない投資信託を指します。
・上場投資信託(ETF、J-REIT)
・MRF(マネー・リザーブ・ファンド)
・外貨建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)
2.上場投資信託(ETF、J-REIT)
上場投資信託(略称ETF=Exchange Traded Fund)とは、金融証券取引所(東京証券取引所など)に上場されている投資信託のことで、上場株式とほぼ同じ手順で売買することができます。
ETFには、日経平均株価やTOPIXなどの指数と連動する「パッシブ運用型」と、指数と連動しない「アクティブ型」があります。
また、上場投資信託には、不動産の賃貸収入や売買益を分配するREIT(Real Estate Investment Trustの略)やコモディティ(原油や穀物など)相場と連動する銘柄も含まれます。
3.MRF(マネー・リザーブ・ファンド)
MRFは、自由度の高い投資資金を保有することを目的とした「追加型公社債投資信託」です。流動性と安全性が高く、現金化が手数料なしで即日におこなえます。
MRFの運用対象は、主に格付の高い債券(国債や社債など)が中心です。その他の運用対象にはCP(コマーシャルペーパー)やCD(譲渡性預金証書)などの短期金融商品も含まれます。
4.外貨建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)
「外貨建てMMF」という名前のとおり、米ドルなどの外貨で運用される投資信託です。
この商品の特徴は、外貨ベースで見た場合に安全性が高いことですが、一方で換金時には為替リスクがあります。
運用対象は、格付けの高い債券や海外の短期証券などが中心です。外貨建てMMFには満期や途中換金の期限などの制約がないため、流動性にも優れています。
5.私募投資信託
私募投資信託とは、50人未満の投資家または特定の機関投資家向けの投資信託です(一般向けには販売されていません)。
公募投資信託と比べると、いつでも手軽に売買できるという点では劣りますが、投資家が解約する頻度が低いため、長期的に安定した運用がしやすいと言われています。
また、私募投資信託には、欧米の投資家から資金を募る一般的な投資信託などと比べて、規制が緩いという特徴もあります。
たとえば、投資判断に用いる重要な市場である目論見書や有価証券報告書の作成が不要です。
【種類別】投資信託の相続税評価の方法(計算式)
では、前項で挙げた5種類の投資信託の相続税評価の方法(計算式)を確認していきましょう。
1.一般的な投資信託の相続税評価の方法
一般的な投資信託の相続税評価の流れは以下のとおりです。
1. 基準価額を確認する
2. 口数を確認する
3. 源泉徴収額を差し引く
4. 解約コストを差し引く
計算式にすると以下のようになります。
基準価額〈1口あたり〉×口数−源泉徴収額−解約コスト
この計算式を構成する要素について、一つずつ確認していきましょう。
・基準価額〈1口あたり〉
一般的な投資信託の計算で用いる基準価額は、「相続開始日の金額」です。相続開始日が休日の場合、相続開始日の前で一番近い平日の基準価額を用います。
相続開始日の基準価額を手軽に確認する方法は、投資信託の公式サイトやYahoo!ファイナンスなどの情報を参考にすることです。
また、金融機関から発行してもらった残高証明書の基準価額(参考資料を含む)を使うこともできます。
ただし、残高証明書で示されているのが1口あたりの基準価額になっていないこともあります。
たとえば、基準価額が1万口あたりの金額になっている場合、これを1口あたりの金額に直す必要があります。
基準価額15,000円(1万口あたり)÷10,000(口)=基準価額1.5円(1口あたり)
・口数
残高証明書で示されている口数を用います。
・源泉徴収額
相続開始日時点で投資信託を売却したと見なして、便宜上、源泉徴収額を差し引いて計算することが可能です。
源泉徴収額は売却したと仮定した場合の「含み益×20.315%(所得税、住民税、復興特別所得税)」で計算します。含み益がない場合は源泉徴収額を省いて計算します。
・解約コスト
解約コストとは、信託財産留保額や解約手数料などを指します。
たとえば、基準価額の合計に信託財産留保額の規定のパーセントを掛けると、解約コストが割り出せます。
規定のパーセントは、投資信託の公式サイトや目論見書などに示されています。
信託財産留保額や解約手数料などが「なし」となっている場合、解約コストを差し引かずに計算します。
2.上場投資信託(ETF、JーREIT)の相続税評価の方法
上場投資信託の相続税評価の流れは、 前述の一般的な投資信託とほぼ同じです。
金融機関に残高証明書を発行してもらい、証明書などを参考に基準価額や口数を割り出し計算していきます。
ただし、上場投資信託は上場株式と同じ扱いになるため、源泉徴収額や解約コストを差し引きことができません。
相続評価額の計算式は以下のように簡易な内容になります。
基準価額〈1口あたり〉×口数
もう1つ、一般的な投資信託との違いがあります。
それは、残高証明書(参考資料を含む)に1口あたりの基準価額が掲載されていない場合や、ご自身で基準価額を割り出したい場合は、以下の4つの基準価額のうち、一番低い金額を使って計算する必要があることです。
1. 相続開始日の終値(相続開始日が休日の場合、前後を問わず相続開始日に一番近い日の終値)
2. 相続開始日の月の終値の平均額
3. 相続開始日の前月の終値の平均額
4. 相続開始日の前々月の終値の平均額
たとえば、相続開始日が12月11日の場合、以下の4つの終値を比較することになります。
1. 12月11日(相続開始日)の終値:1万1,500円
2. 12月(相続開始日の月)の終値の平均額:1万1,800円
3. 11月(相続開始日の前月)の終値の平均額:1万1,000円
4. 10月(相続開始日の前々月)の終値の平均額:1万2,000円
※上記の終値は1万口あたりの金額です。最終的に1口あたりの金額に直す必要があります。
4つの終値のうち、一番低い金額は11月の平均額の1万1,000円です。
そのため、計算式で使われるのは、この11月の平均額になります。これを基に相続税評価額を計算すると以下のようになります。
1万1,000円(一番低い終値)÷10,000(口)=1.1(1口あたり基準価額)
1.1円(1口あたり基準価額)×2,000万口=2,200万円(相続税評価額)
3.MRF(マネー・リザーブ・ファンド)の相続税評価の方法
MRF(マネー・リザーブ・ファンド)の相続税評価の計算式は以下のとおりです。
基準価額〈1口あたり〉×口数+未収分配金-未収分配金に対する源泉所得税など
この計算式を構成する要素について、一つずつ確認していきましょう。
・基準価額
MRFの場合、1口あたりの基準価額は1円です。つまり、基準価額の部分を1円に設定すればよいということです。
・未収分配金
未収分配金は、かなりまとまった金額を運用していなければ、ほぼ0円というケースがほとんどです。
・未収分配金に対する源泉所得税
この項目は「未収分配金×20.315%(所得税、住民税、復興特別所得税)」で計算します。
ただし、前述のように、未収分配金そのものがほぼ0円のため、この項目もほぼ0円となります。
上記の内容を踏まえると、実務上は金融機関が発行した残高証明書に記載されている口数がそのまま相続税評価額となるケースがほとんどです。
4.外貨建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)の相続税評価の方法
MMF(マネー・マーケット・ファンド)の相続税評価の方法は、前出のMRFの計算式に「売却時の為替レート」を反映したものです。
基準価額〈1口あたり〉×口数×売却時に適用される為替レート+未収分配金-未収分配金に対する源泉所得税など
この計算式を構成する要素のうち、「売却時に適用される為替レート」や「未収分配金」などについて確認していきましょう。
・売却時の為替レート
外貨建ての投資信託のため、日本円に戻すための為替レートが必要となります。
具体的な内容は金融機関ごとに異なるため、ルールが不明な場合は公式サイトの解説や窓口に問い合わせましょう。
・未収分配金
MRFと異なり、MMFは未収分配金の計算が必要です。未収分配金は、月末に投資される分を基に相続発生日までの日割り計算で求めます。
この未収分配金に20.315%(所得税、住民税、復興特別所得税)を掛けると「未収分配金に対する源泉徴収額など」が計算できます。
5.私募投資信託の相続税評価の方法
私募投資信託の相続税評価の計算式は以下のとおりです。
基準価額〈1口あたり〉×口数−譲渡益税−源泉徴収額−解約コスト
構成要素を解説します。
・基準価額
私募投資信託の場合、1口あたりの基準価額は1円です。つまり、基準価額の部分を1円に設定すればよいということです。
・譲渡益税
実際には、投資信託を売却していなくても「相続発生時に売却した」とみなして譲渡益税を計算し差し引きます。
みなしの譲渡益税は、基準価額の合計に20.315%(所得税、住民税、復興特別所得税)を掛けて割り出します。
※含み益が出ていない場合、みなしの譲渡益税は計上しません。
・解約コスト
信託財産留保額や解約手数料などを指します。最近は解約コストなしの設定が多いです。
投資信託の基礎知識
投資信託を相続した人の中には、投資信託の知識があまりないという人もいるかもしれません。
下記の内容を参考にしながら、相続した投資信託をそのまま保有し続けるか、売却するかを判断しましょう。
投資信託とは専門家が運用する金融商品
一般的に「投資信託」というときは、不特定多数の投資家から資金を集めて専門家が運用する公募投信を指します。
公募投信には、証券会社や銀行などの金融機関を通じて手軽に購入できるという特徴があります。
投資信託の運用先は銘柄によって異なり、たとえば株式や債券(国債や社債)、不動産などがあります。
運用によって得られた利益(配当収入や値上がり益など)は投資家に分配金として還元されます。
また、投資信託には以下の3つの種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
種類 | 特徴 |
---|---|
インデックス型 | ・日経平均やS&P500など指数との連動を目指す ・先進国の一般的な指数であればリスクは限定的 ・信託報酬などのコストが低めに設定されている |
アクティブ型 | ・インデックス型を上回る成果を目指し、ファンドマネージャーが積極的に売買 ・銘柄や時期によってはリスクが大きいこともある |
バランス型 | ・多様な投資商品や市場を組み入れて組成する |
投資信託のメリットとデメリット
投資信託の主なメリットとデメリットは以下のとおりです。
【投資信託のメリット】
・専門家が運用するため個人投資家の手間がかからない
・幅広い市場や商品、銘柄に分散投資ができる
・少額から投資ができる
【投資信託のデメリット】
・元本割れリスクがある
※ただし、株式や不動産など他の投資商品も同様に元本割れリスクがあります。
・手数料がかかる(購入時、保有時、解約時)
・銘柄の本数が多いため初心者が選びにくい
積立投資や累積投資も人気が高い
老後資金を目的とした資産形成をおこなう人には、投資信託を「積立投資」または「累積投資」で購入する手法も人気です。
手法 | 内容 |
---|---|
積立投資 | ・毎月定額で投資信託を購入する手法 ・購入価格を平均化する効果がある |
累積投資 | ・分配金を同一の投資信託に再投資する手法 ・複利効果を高める効果がある |
投資信託を相続する際の注意点3つ
実際に、投資信託を相続する際には、以下の3つに特に注意しましょう。
1. 相続発生後でも基準価額が変動する
投資信託は投資対象の値動きや運用成績によって基準価格が常に変動しています。
値動きが大きい銘柄や市場の暴落が起きた場合、相続発生後に資産価値が大きく減少する可能性もあります。
このような損失を防ぎたい場合、なるべく早いタイミングで投資信託を売却するべきでしょう。
※売却にあたっては、全ての相続人の同意が必要です。
2. 相続方法によっては一部の相続人に贈与税が課せられる
相続の方法にはいくつかの方法がありますが、代償分割を選択した場合、相続人のうちの1名が投資信託を相続する代わりに、その他の相続人に対して代価となる現金を支払います。
この場合、受け取った現金に贈与税が課される可能性があるため、遺産分割協議書に代償分割をおこなうことを明記することが重要です。
※相続方法や対策については、詳しくは税理士にご相談ください。
3. 投資信託の相続税評価をしないことで損をする場合もある
金融商品の知識がない人の中には、「投資信託の相続税評価は面倒だ」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、相続税評価を省いてしまうと、相続税が高くなる可能性もあります。なぜなら、本来受けられるはずの控除を受けられなくなるからです。
特に投資信託の保有額が大きい場合は、必ず相続税評価を行いましょう。
相続税評価を自身でおこなうか税理士に依頼するか適切な判断を
ここで解説してきたように、投資信託にはいくつかの種類があります。相続税評価をおこなう場合は、種類に合わせて適切な計算式を用いることが重要です。
相続税評価には、「ご自身でおこなう場合」と「税理士に依頼する場合」の2つの選択肢があります。以下の内容を基にどちらを選択すべきか判断しましょう。
【ご自身でおこなったほうがよい場合】
・投資信託の保有額が少ない
・計算式が簡易な投資信託を相続する
・金融商品の知識があり、計算が得意である
【税理士に依頼したほうがよい場合】
・投資信託の保有額が多い
・計算式が複雑な投資信託を相続する
・金融商品の知識が乏しく、計算が苦手である
(提供:ACNコラム)