相続税の節税方法としてよく利用されるのが生前贈与です。
家を生前贈与することにはどのような意味があるのでしょうか。
本記事では家を生前贈与することのメリット・デメリットについて解説し、併せて贈与税の手続きや節税方法も紹介します。
- 家を生前贈与するメリットとデメリット
- 家を生前贈与する手続きの流れ
- 家を生前贈与するためにかかる費用
目次
生前贈与とは?
生前贈与とは、被相続人が存命中に子や孫に財産を贈与することです。
相続財産を減らすことで、相続税を軽減できるため、節税対策として利用する人もいます。
財務省が公表している「相続税・贈与税に係る基本的係数に関する資料」によると、令和3年に生前贈与で課税された件数は44万3,429件となっています。
課税方法の内訳は、暦年課税が40万1,007件、相続時精算課税が4万4,167件です。
内訳件数の合計が総件数と一致しないのは、重複適用されたケースがあるためです。
家を生前贈与する場合は、登記簿上の所有者を贈与者(贈与する人)から受贈者(贈与を受ける人)に名義変更する必要があります。
家を生前贈与する手続きの流れ
家を生前贈与する手順は以下のとおりです。
自分で贈与の手続きをおこなう場合は、これらの作業をすべてこなさなければなりません。
1.不動産の贈与契約を結ぶ
はじめに不動産の贈与契約を結びます。
契約の内容について「誰が・誰に・どの不動産を贈与するか」を話し合い、贈与者と受贈者の双方が合意したら契約が成立します。
2.不動産の贈与契約書を作成する
合意したら不動産の贈与契約書を作成します。
贈与契約書は贈与契約した内容を明記したもので、家を譲る人と譲り受ける人の双方が署名して押印します。
贈与契約書のひな形はインターネット上に多数アップされているので、ダウンロードして使用すると良いでしょう。
3.不動産の名義を変更する
不動産は贈与されただけでは自分の所有にはなりません。
不動産の名義を変えるために、不動産の所在地を管轄する法務局で不動産移転登記をおこないます。
手続きを自分でおこなう場合は、贈与者・受贈者がそれぞれ必要書類を用意して共同で申請します。
4.贈与税など税金の申告手続きをおこなう
最後に贈与税の申告手続きをおこないます。
贈与税の申告期間は、贈与を受けた年の翌年の2月1日~3月15日です。
また、不動産の名義が受贈者に変わったら、3~6ヵ月後に不動産取得税の納税通知書と納付書が自宅に送付されるので、金融機関等で納付します。
家を生前贈与する場合の注意点3つ
家を生前贈与するには以下のような注意点があります。
1. 相続が発生した日から7年以内の贈与は相続財産へ持ち戻しになる
2023年度の税制改正大綱で生前贈与の改正がおこなわれました。
相続が発生した日から7年以内の贈与は、相続が発生したときに相続財産へ持ち戻しになります。
改正前は3年以内だったので、4年間延長されたことになります。
2. 急に家を生前贈与しても節税にはならない
したがって、相続の発生が近いと予想される状況になったからといって、急に家を生前贈与しても節税にはなりません。
家を生前贈与するなら、被相続人が元気で相続はまだ先の話という段階でおこなっておくことが望ましいです。
3.住宅ローンが残っていた場合、誰が返済するのかを決めておく
家を贈与する場合、特に住宅ローンが残っている場合は注意が必要です。
贈与後も、住宅ローンは残ったままとなり、誰かが返済しなければなりません。
贈与契約書に、ローンの返済について誰が責任を持つのかを明確に記載しておくことが重要です。
贈与を受けた方が返済する場合、その財産的負担を考慮し、贈与額の見直しが必要となることがあります。
また、ローンが残ったままの状態で贈与をおこなうと、相続時に複雑な問題が生じる可能性も考えられます。
専門家に相談のうえ、慎重に進めることをおすすめします。
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家を生前贈与するメリット4つ
家は相続財産の中でも大きな部分を占めます。
長年住んだ愛着もあり、できれば自分が生きている間に家の行く末を決めておきたいと考える人も多いことでしょう。
家を生前贈与しておくことには、以下のようなメリットがあります。
1. 相続させたい相手に家を渡せる
自分が亡くなってから発生する相続と違い、生前贈与なら相続させたい相手に家を渡すことができます。
生前贈与なら名義変更手続きをおこなうことも可能です。
生前贈与をおこなわず、遺言書も作成していない場合、誰が相続することになるのかわかりません。
相続人によっては現金化するために、家を売却してしまうおそれもあります。
2. 相続税の節税になる場合がある
先に述べたように、家を生前贈与することで相続税の節税になる場合があります。
なぜなら、贈与した分の不動産を相続財産から減らせるからです。
後で紹介しますが、さまざまな節税方法(詳しくは贈与税の節税方法の章を参照)があるので、利用することで税負担を軽減できます。
ただし、贈与税の税率は相続税の税率よりも高いため、節税対策を利用せずに単に贈与した場合は損になるケースもあります。
3. 短い期間で家を贈与できる
生前贈与を利用すると、相続に比べて短い期間で家を贈与できます。
家の生前贈与は、贈与者と受贈者が贈与契約を結べばできるので、法務局での名義変更も含め1ヵ月以内に手続きを終えることが可能です。
相続になった場合は、遺言書がなければ相続人全員で遺産分割協議をおこなうことになるので、時間や手間がかかるだけでなく、誰が家を受け継ぐかでもめる可能性もあります。
4. 遺産相続のトラブルを回避できる
生前贈与は、相続が発生する前に財産を贈与することで、遺産相続のトラブルを回避できる点が大きなメリットです。
なぜなら、生前贈与によって、相続財産を明確にし、相続人への財産分与をあらかじめ決めておくことができるからです。
相続開始後に、遺言書がない場合や遺言の内容が不明確な場合など、相続人同士で遺産の分割を巡って争いが起こるケースは少なくありません。
生前贈与をおこなうことで、このような相続トラブルを未然に防ぎ、円満な相続を実現することができます。
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家を生前贈与するデメリット4つ
家を生前贈与するには以下のようなデメリットもあります。
相続まで待つのとどちらが得か、慎重に判断しましょう。
1. 各種税金や費用がかかる
家を生前贈与すると、贈与税、登録免許税、不動産取得税などの各種税金や、司法書士に支払う報酬などの各種費用がかかります。
とはいえ、相続まで待ったとしても相続税をはじめとする各種税金や報酬がかかるのは同じなので、贈与税に限ったデメリットではありません。
2. 登記手続きや贈与税の申告が面倒
家を生前贈与するには、贈与契約や登記手続き、贈与税の申告など面倒なことが多くあります。
仕事を持っている人は数日間有給休暇をとることも考えなければなりません。
ただし、司法書士に依頼することで負担を軽減できます。
3. 高額な贈与があると相続時に問題になる
生前に高額な不動産を贈与すると、ほかの相続人から相続時に不公平であるとクレームを受ける可能性があります。
生前に特定の相続人だけが高額な贈与を受けた場合、その財産は「特別受益」と認定されます。
特別受益になった財産は相続時に贈与を受けた相続人の相続分から差し引かれます。
つまり、相続財産の取り分が減ってしまうため、特別受益に該当する可能性がある相続人が、特別受益はなかったと主張してトラブルになるケースがあるのです。
家を生前贈与する費用
家を生前贈与する費用として、不動産移転登記にかかる登録免許税(固定資産税評価額の2%)と司法書士報酬(依頼した場合)がかかります。
司法書士報酬の相場
日本司法書士連合会が実施した「司法書士の報酬アンケート」によると、贈与による所有権移転登記の司法書士報酬の地区別平均金額は下表のとおりです。
実際には個別のケースによって変動しますが、およその目安として参考にするとよいでしょう。
低額者10%の平均 | 全体の平均値 | 高額者10%の平均 | |
---|---|---|---|
北海道地区 | 21,920円 | 41,236円 | 69,810円 |
東北地区 | 24,646円 | 41,219円 | 79,372円 |
関東地区 | 28,936円 | 47,806円 | 83,326円 |
中部地区 | 28,942円 | 45,070円 | 76,466円 |
近畿地区 | 29,129円 | 54,505円 | 85,484円 |
中国地区 | 26,443円 | 43,788円 | 72,560円 |
四国地区 | 29,714円 | 44,064円 | 69,450円 |
九州地区 | 27,604円 | 41,798円 | 64,579円 |
自分で手続きすれば司法書士報酬はかかりませんが、時間と手間がかかることから司法書士に依頼するのが一般的です。
家を生前贈与するために必要な書類
家を生前贈与するために必要な書類は以下のとおりです。
1. 対象不動産の登記識別情報通知(登記済権利証)
この書類は、贈与する不動産が誰のものか、またどのような権利が設定されているかなどを証明するものです。
不動産登記簿謄本と同じような役割を果たし、贈与手続きを進めるうえで必須の書類です。
2. 3ヵ月以内の印鑑証明書
贈与をおこなう本人(贈与者)と贈与を受ける人(受贈者)それぞれが、市区町村役場で発行してもらう書類です。
この書類によって、印鑑が本人のものであることが証明され、契約の有効性が担保されます。
3. 住民票
贈与者と受贈者の現在の住所が確認できる書類です。
住民票の写しを提出することで、贈与の際に必要な情報を正確に把握することができます。
4. 名義変更する年度の固定資産評価証明書
贈与する不動産の評価額が記載された書類です。
贈与税の計算に必要となるため、必ず提出する必要があります。
この証明書は、市区町村役場で発行してもらうことができます。
5. 贈与があったことがわかる贈与契約書または贈与証書
贈与がおこなわれたことを証明する最も重要な書類です。
贈与契約書には、贈与の目的、贈与する財産の内容、贈与の条件などが詳細に記載されます。
贈与証書は、贈与契約書と同様の効果を持ちますが、より簡略な書式で作成されることが多いです。
6.登記申請書
このほかに登記申請書が必要ですが、法務局ホームページからダウンロードすることができます。
ひな形と記載例のファイルがあるので、利用するとよいでしょう。
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家を生前贈与するときにかかる税金
家を生前贈与すると、以下のような税金がかかります。
不動産取得税と登録免許税は固定税率で必ずかかりますが、贈与税の税率は不動産価格によって異なり、節税方法によっては非課税になる場合があります。
1. 贈与税|家を贈与する場合、最も多くかかる税金
家を贈与する場合、最も多くかかる税金が贈与税です。
贈与を受けた不動産の評価額から基礎控除を差し引いた課税価格に対して、下表(詳しくは贈与税の税率を参照)のような税率が課税されます。
さまざまな節税方法がありますが、相続税との関係もあるので、生前贈与したほうが有利かどうか見極めて判断する必要があります。
2. 不動産取得税|不動産を取得するとかかる
家を贈与されると不動産を取得したことになるので、不動産取得税がかかります。
不動産取得税の税率は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の評価額に対して標準税率本則が4%です。
3. 登録免許税|登記時にかかる
登記時に登録免許税がかかります。
課税主体は都道府県です。贈与にかかる登録免許税の税率は、土地の所有権移転登記が固定資産税評価額の2%、建物の登記も同じく2%です。
4. 固定資産税と都市計画税|家を贈与された翌年からかかる
家を贈与された翌年から受贈者に固定資産税と都市計画税の支払義務が生じます。
税率は不動産の課税標準額に対して、固定資産税が1.4%、都市計画税が0.3%です。
贈与税の税率を理解しておく
贈与税は贈与された財産の金額によっては、贈与税の負担が大きくなります。
少しでも負担を減らせるように、贈与税の節税方法もチェックしておきましょう。
贈与税の税率
贈与税の税率は下表のとおりです。
贈与税の速算表には、一般贈与財産用(一般税率)と特例贈与財産用(特例税率)があります。
一般贈与財産用の速算表
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
一般贈与財産用は、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年の場合など、特例贈与に当たらない場合の贈与税の計算に使用します。
特例贈与財産用の速算表
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
特例贈与財産用は、贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者に限る)が、直系尊属(父母や祖父母など)からの贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に使用します。
祖父母から孫への贈与、父母から子への贈与などが該当しますが、夫の父母からの贈与等使用できないケースもあるので注意が必要です。
贈与税の節税方法
贈与税には以下のような節税方法があるので、可能なものは利用して贈与税の軽減を図りましょう。
1. 暦年贈与|110万円の基礎控除が受けられる
暦年贈与をおこなうと110万円の基礎控除を受けられます。
暦年贈与とは、1月1日~12月31日の1年間に贈与した金額の合計が110万円以下の場合に贈与税がかからない贈与方法です。
暦年贈与は不動産の贈与にも利用できます。
その方法は、所有権を毎年少しずつ贈与することです。
たとえば、1,000万円の家を10年に分けて贈与すれば、1年100万円ずつの贈与となるため、非課税になります。
ただし、2023年度の税制改正大綱で暦年贈与が改正され、相続時精算課税に110万円の基礎控除が新設されたことで、将来暦年贈与が廃止されるという噂もあります。
2. おしどり贈与(配偶者控除)|婚姻期間が20年以上の夫婦が対象
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与がおこなわれた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できます。
結婚して20年以上の夫婦を対象にしていることから、通称「おしどり贈与」と呼ばれています。
ただし、適用を受けるには下記の要件を満たす必要があります。
1. 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと。
2. 配偶者から贈与された財産が、居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であること。
3. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。
配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については、一生に一度しか適用を受けることはできないので注意が必要です。
3. 相続時精算課税|子や孫が選択できる制度
相続時精算課税は控除額が大きいことから、贈与税の代表的な節税方法です。
相続時精算課税は、60歳以上の父母、もしくは祖父母から18歳以上の子や孫への生前贈与について、贈与を受ける子・孫の選択により利用できる制度になります。
贈与された財産は相続が発生した際は、改めて相続財産として持ち戻しされて相続税の課税対象になります。課税を先送りしただけと考えることもできます。
相続時精算課税が節税対策として有効なのは、相続する財産に将来確実に値上がりを見込める財産があるケースです。
不動産価格が相続の時点で贈与を受けたときより値上がりしていた場合でも、贈与時と同じ価格で相続することができます。
たとえば、贈与したときに2,000万円だった住宅が、相続発生時に3,000万円に値上がりしていた場合、2,000万円の評価額で相続税が課税されるので、差額が節税になります。
まとめ
家を誰に引き継がせるかは大きな問題です。
被相続人にとっては、愛着のある家を相続後に売却せず家族に住んでほしいという思いがあるでしょう。
そのためにも家の生前贈与を検討する必要があります。
相続が近いと思われる状態になったときに急に贈与しても、ルールによって相続時に改めて課税されてしまいます。
配偶者など引き継がせたい相手が決まっている場合は、早めに贈与しておいたほうが無難です。
生前贈与にはさまざまな節税方法があるので、利用できるものは使って税負担の少ない贈与を実現しましょう。
(提供:ACNコラム)