不動産小口化商品は、好立地で資産価値の高い物件に対し少額資金から不動産投資を始められる手法として近年、投資家からの注目を集めています。
しかし、一口に不動産小口化商品といってもその仕組みや種類はさまざまです。
本記事では不動産小口化商品のうち、不動産特定共同事業法に基づく2つの種類、「任意組合型」と「匿名組合型」の違いをわかりやすく解説します。
この2つは混同されやすいですが、投資家としての権利やメリット、リスクなどが異なります。
それぞれの仕組みや特徴、メリットとデメリットを比較し、自分に合った不動産小口化商品を選ぶ参考としてください。
- 不動産小口化商品の任意組合型と匿名組合型の違い
- 任意組合型と匿名組合型のメリットとデメリット
不動産小口化商品とは?概要と種類の違いを解説
任意組合型と匿名組合型について説明する前に、前提としての「不動産小口化商品」について説明します。
不動産小口化商品とは
不動産小口化商品とは、不動産共同投資契約に基づいて、複数の投資家が共同で不動産を購入・運用し、家賃収入などの収益を分配金として受け取る仕組みです。
少ない資金で好立地な物件に対し不動産投資がおこなえるため、近年投資家の間で注目が集まっています。
不動産小口化商品の種類と違い
一般的に不動産小口化商品といわれるものは、どの法律に基づくかによって以下の2つに分けられます。
①金融商品取引法に基づく「J-REIT(不動産投資信託証券)」「不動産信託受益権」など
②不動産特定共同事業法(不特法)に基づくもの(匿名組合型・任意組合型・賃貸型に分かれる)
後ほど詳しく説明しますが、同じ「不動産投資」という名称であっても、一般的な現物不動産を扱う投資とは、不動産小口化商品は出資者の担う税金や義務、得られる利益、負うリスクなどが異なります。
相続税対策ができる不動産小口化商品もある
不動産小口化商品は、少ない資金で不動産投資ができるだけでなく、タイプによっては通常の不動産と同じように相続税対策も可能なことから、近年投資家の注目を集めています。
「投資家や相続資産の多い人は相続税対策として不動産を活用する」と聞いたことがあるかもしれません。
これは、同じ時価の金融資産と不動産を比較すると、不動産のほうが相続税評価額が低くなることが理由です。
なお、不動産小口化商品のうち、相続税対策ができるものは①の「不動産信託受益権」と、②の不特法に基づく商品のうち「任意組合型」「賃貸型」です。
①②いずれも一般的には「不動産投資」と呼ばれますが、前者の中のJ-REITは不動産という名称ではあるものの、「投資信託(金融資産)」扱いとなります。
そのため、相続が起きた場合の課税評価額は、現金や株などと同じく「時価(現金や預貯金ならば額面どおり、株は相続開始日の終値等。これに準ずる)」で算定されます。相続税対策としては効果がほとんど見込めないといえます。
不動産小口化商品における「任意組合型」と「匿名組合型」の違い
ここでは、「不動産特定共同事業法(不特法)」に基づく不動産小口化商品の中で、投資家の注目度が高い、「任意組合型」と「匿名組合型」について詳しく解説します。
「任意組合型」と「匿名組合型」の最も大きな違いは以下の点になります。
- 実際に運用をおこなう事業主体が「その不動産を購入した複数の出資者(投資家)」なのか
- 「投資家から資金を集めた事業者」なのか
これら以外にもいくつかの違いがあり、それぞれの特徴をまとめると以下の表になります。
任意組合型(*1) | 匿名組合型 | |
---|---|---|
(1)事業主体 | 出資者(複数の投資家による共同事業) | 事業者 |
(2)根拠となる法律 | 民法667条(組合契約) | 商法535条(匿名組合契約) |
(3)1口あたりの出資金額の目安(*2) | 1口100万円程度~ | 1口数万円程度~(任意組合型と比較して低額からの投資が可能) |
(4)出資者による対象不動産の所有権 | あり(出資金額が占める割合により共有持ち分を取得)(*3) | なし(出資するのみ) |
(5)運用期間 | 中長期運用型 (10年以上~場合によっては数十年) | 短期運用型 (数ヵ月単位~10年以内) |
(6)所得の区分(確定申告をする場合の区分) | 不動産所得 | 雑所得 |
(7)不動産取得税・登録免許税を負担する者 | 出資者(出資割合に応じて算定・金銭出資型の場合は取得時は発生しない) | 事業者(出資者は負担しない) |
(8)相続税・贈与税の節税効果 | 不動産(土地・建物)として評価されるため一定の効果が期待できる | 上場株式の評価を準用するためほぼ期待できない |
(9)責任の範囲 | 無限責任(出資者の損失が出資額を超えた場合、持分に応じて損失負担する義務あり) | 有限責任(優先劣後構造のリスク軽減措置があるものもある。損失額が劣後出資の場合は元本が保証される) |
(10)損失があった場合の損益通算 | 損益通算できない(通常の現物不動産での不動産所得はできるので異なる。国税庁参照) | 雑所得との損益通算ができる(それ以外の所得とはできない) |
(11)小規模宅地等の特例の適用 | できる(通常の現物不動産と同じ) | できない |
(12)特徴 | ・現物不動産と同じく、相続税対策に活用できる ・長期運用型が多い。長期間安定した収益を得たい人に向いている | ・1口あたりの金額が小さく少額から不動産投資に挑戦できる ・短期運用型が多い |
なお、不動産特定共同事業法に基づく不動産小口化商品の形態には、大きく分けて「任意組合型」「匿名組合型」「賃貸型」の3種類があることは前述のとおりです。
このうち、「賃貸型」は商品がほとんど市場に流通していないこと、事業者の倒産が起こった場合の意思決定が難しいことなどから、ここでは割愛しています。
任意組合型の概要と特徴
任意組合型では、出資者は任意組合の組合員となり、事業は複数の組合員による共同事業となります(*3)。
1口あたりの出資金の額は匿名組合型より高く(100万円〜)、長期運用で募集をかけられるものが多いです。
長期運用するタイプのためキャピタルゲインではなくインカムゲインが利益の主体になります。資産・負債の帰属は組合員(出資者)になります。
任意組合型では出資額に応じてその不動産の持分割合が決まり、実際に所有しているとみなされます。よって、所得区分は「不動産所得」となります。
また一般的な現物不動産を所有しているケースと同じく、税務上、不動産取得税や登録免許税なども組合員(出資者)が負担します。
また現物不動産と同様にみなされるということで、相続税・贈与税の節税効果があります。
・小規模宅地等の特例の適用が可能
そのほか「小規模宅地等の特例」の適用も可能です。
小規模宅地等の特例は適用される面積に上限があるため、通常は自宅に用います。
しかし、不動産小口化商品は路線価の高額な立地の良い物件が多いため、相続の際は不動産小口化商品の物件に適用したほうがメリットが大きい可能性があります。
※小規模宅地等の特例による減額割合は50%
・損益通算ができない
一方で、現物不動産と異なる点もあります。他の所得に損失があった場合、通常の現物不動産の不動産所得とは損益通算することができます。
しかし、不動産小口化商品・任意組合型の不動産所得は、損益通算ができないため注意が必要です。
また不動産投資のため、出資額以上の損失が出た場合にも補填の義務があるというリスクがあります(無限責任)。
購入する場合はその物件の立地だけでなく、構造や築年数、管理状況、保険の加入内容などを確認する必要があります。
匿名組合型の概要と特徴
匿名組合型では、事業主が出資者を募集し、出資者は事業者へ金銭を出資するだけのことが一般的です。
事業者の運用によって生じた利益が持分割合に応じて分配されることは任意組合型と同じです。
1口あたりの出資金の額は任意組合型より低く、1口数万円からなど少額からの投資が可能です。
また短期運用のものが多く比較的流動性が高いことも特徴です。
不動産小口化商品は一般的な不動産投資のような金融機関からの融資が受けられません。
融資が受けられるメリットは借入金を利用してレバレッジが効かせられることです。
しかしこのメリットが使えないことから、自己資金を準備する必要が出てきます。
任意組合型では少なくとも1口100万円程度からの商品が多く、最低でもその金額の自己資金が必要になります。
また長期運用の商品が多く、流動性は小口化商品ですが低いです。
・自己資金が少なくとも始められる
しかし匿名組合型の商品はこれら任意組合型のデメリットがなく、自己資金が少なくても始めることが可能です。
また匿名組合型では、組合員(出資者)はその不動産を所有しているとみなされません。よって、運用で得られた所得は雑所得となります。
・損益通算が可能
相続時には出資した元本が税務上の評価額として計上されます。当然、相続税の節税効果は見込めません。
一方で、任意組合型ではできなかった損益通算ができます。
また出資額以上の損失が出た場合でも優先劣後構造のリスク軽減措置がある商品を選んでおくと、損失額が劣後出資の場合は元本が保証されます。
【図】優先劣後構造のイメージ
「任意組合型」「匿名組合型」のメリットとデメリット
上記で解説したそれぞれの特徴から、任意組合型と匿名組合型のメリットとデメリットを比較すると以下の表になります。
それぞれに共通するメリット・デメリットと合わせて確認してみてください。
任意組合型(金銭出資型)と匿名組合型の共通のメリット
・ 比較的少額から好立地の物件に投資が可能
・ 商品は都心の優良物件なども多く資産価値や賃料の下落リスクや空室リスクなどが低い
・ 小口化されているため相続の際に分割しやすくトラブルになりにくい
・ 小口商品のため分散投資につながり、リスク分散ができる
・ 運用の手間は一般的な現物不動産投資より少ない
任意組合型(金銭出資型)と匿名組合型の共通のデメリット
・ 投資商品のため元本保証はない
・ 一般的な現物不動産と比較して利回りは低い傾向がある
・ 融資対象ではないためレバレッジはきかせられない(自己資金が必要)
・ 現物不動産と比較すると低めだが、一般的な不動産投資リスクは存在する
・ 商品自体がまだ少ない傾向がある
任意組合型(金銭出資型)のメリット
・ 相続税対策に活用できる
・ 長期運用可能な商品が多く安定した長期間の収入が期待できる
匿名組合型のメリット
・ 短期運用、少ない金額のものが主で気軽に始められる
・ 有限責任で優先劣後方式の商品も選択できリスクヘッジができる
・ 事業者への出資だけで運用は特にしなくてよい
・ 匿名性がある
任意組合型(金銭出資型)のデメリット
・ 無限責任のため出資額以上の損失が出た場合でも組合員として持分に応じた補填をおこなう義務がある
任意組合型(金銭出資型)のデメリット
・ 相続税対策はできない(節税効果はない)
どちらも融資対象ではないため、投資できる額や目的を比較検討し、より高い効果の得られる商品、型に出資することをおすすめします。
まとめ
この記事では、不動産小口化商品の「任意組合型」と「匿名組合型」の違いを解説しました。
不動産小口化商品は、好立地の資産価値の高い不動産(都心のオフィスビルなど)を小口化することで、比較的低価格で購入できます。
また「任意組合型」「匿名組合型」それぞれにメリットがあり、自分の資産状況や出資できる金額、運用期間に合わせて投資をおこなうことが可能です。
立地の良さから資産価値の下落リスクや空室リスクなども一般的な不動産投資物件よりも低いといえるでしょう。
また「任意組合型」は小口化商品でありながら、不動産としてみなされるため、相続税の節税にも利用できます。
「匿名組合型」は実際の運用の主体はプロである事業主がおこなうため、安定した収益を得ることが期待できます。
このように、同じ不動産小口化商品であっても、それぞれに特徴があります。
共通のメリット・デメリットとともにそれぞれ異なるメリット・デメリットがあることをよく理解しましょう。
また、投資家自身の資金力、ニーズ、リスク許容度に応じて将来のリターンとリスクを適切に評価し、どちらを選択するべきか検討することが重要です。
(提供:ACNコラム)