注目される静岡ガス株の買い増し
2023年6月には都市ガス4位の静岡ガス株を1.01%買い増して持ち株比率を33.02%に引き上げ、エネルギー業界を驚かせた。静岡ガスは鈴与が本社を置く静岡市を地盤とする都市ガス会社で、工業用ガスが主力。1996年に稼働した清水エル・エヌ・ジー袖師基地を活用し、周辺地域への卸供給を拡大している。
同業界が注目しているのも同基地だ。日本海にまで伸びる長いパイプライン経由で他社にガスを供給するほか、LNG(液化天然ガス)需要が高まるアジアへの輸出拠点になるなど、静岡県内にとどまらない巨大なガス流通ネットワークの要衝だからだ。
同業界では同基地を石油元売り最大手のENEOSホールディングスが水素事業の拠点としての活用を検討しているとの見方もある。鈴与子会社の鈴与商事は東海地方におけるENEOS最大の石油販売特約店で、両社の関係は深い。2022年4月に静岡市が環境省の脱炭素先行地域に指定されたのを受けて、同9月に同社とENEOS、静岡ガスの3社共同で清水ソーラーエナジーを設立するなど、清水港周辺の次世代エネルギーによる街づくりでも提携している。
ENEOSとしては静岡ガスのLNG基地を次世代エネルギーとして注目される水素事業の拠点として活用することで、脱炭素化社会での生き残りを図るのではないかと見られている。もっとも、静岡ガスには東京ガス(持ち株比率7.8%)や中部電力(同1.9%)など、水素ガス事業でENEOSと競合しそうな株主が存在する。
鈴与は静岡ガスの筆頭株主ではあるが、子会社ではない。静岡ガスとENEOSの大型プロジェクトでは、東京ガスや中部電力との調整が必要だ。鈴与は静岡ガスの持ち株比率を2013年の8.27%から買い増しを続けており、今後の動向が注目されている。
鈴与のM&A年表
年 月 | 出 来 事 |
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1801年 | 初代鈴木與平が駿河国清水湊で廻船問屋「播磨屋」を創業 |
1917年 | 6代目鈴木與平が缶詰製造やガソリンスタンド、機械製造など多角経営を始める |
2002年10月 | UPSジャパンにスズヨ・フリッツ・ロジスティクス・サービスを譲渡し、UPSと提携 |
2002年10月 | 医療機関向け医薬品製造の清水製薬を味の素に売却 |
2008年6月 | 静岡空港を拠点とするリージョナル航空会社のフジドリームエアラインズを設立 |
2010年11月 | ケーブルテレビ局運営のドリームウェーブ静岡をTOKAI(現TOKAIホールディングス)<3167>傘下のビック東海に売却 |
2012年4月 | 子会社の鈴与シンワート<9360>を通じてWEBセキュリティーやメール連携などのソリューションを手がけるGBRを完全子会社化 |
2013年2月 | 子会社の鈴与商事がJXホールディングス (現ENEOSホールディングス)<5020> 傘下のJX日鉱日石エネルギーとガソリンスタンド事業を統合 |
2020年6月 | ビッグデータの収集・分析を手がけるデータビークルに第三者割当増資で出資 |
2020年6月 | オフィス業務向けAIソリューション事業のアライズイノベーションを子会社化 |
2023年6月 | 静岡ガス<9543>株を1.01%買い増し、持ち株比率を33.02%に引き上げ |
2023年11月 | スカイマーク<9204>株を13%取得し、筆頭株主に |
2024年1月 | 工業用ガス運送事業を展開する東西運輸を完全子会社化 |
2024年3月 | 静岡大学発ベンチャーでバイオ由来新素材を手がけるS-Bridgesに出資 |
この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。
文:M&A Online