PoCは、開発前にアイデアや技術の実証・検証をする手法です。ソフトウェアやシステムの開発だけでなく、製造業など様々な分野でも導入例が見られます。
実際にPoCを進めることで、どのような効果が期待できるのでしょうか。本記事では、PoCのプロセス、メリット・デメリット、上手く進めるためのポイントなどついて解説します。
PoCとは
PoCとは、製品の試作を作るよりも前の段階で実証実験やデモンストレーションを行う手法です。PoCは「Proof of Concept」の略語であり、日本語では「概念実証」や「コンセプト実証」のように訳されます。
分かりやすい例としては、製品のテストマーケティングが挙げられます。一部のファンに限定して映像コンテンツを公開し反応を確認したり、実際に製品を利用する人からフィードバックをもらったりする手法もあります。
PoCによって、早い段階でユーザーや関係者からのフィードバックを得られるため、本格的な製品開発の前にプロダクトの方向性を確認・修正することができます。
プロトタイプとの違い
プロトタイプとは、主に社内やチーム内での使用を想定した試作モデルです。PoCはプロトタイプの前段階に位置し、プロダクトのコンセプトや技術的実現性を検証する目的で行われます。
また、社外や一部のユーザーに向けて提供されるプロダクトは、厳密にはMVP(Minimum Viable Product)と呼ばれています。一般的には「PoC→プロトタイプ→MVP」の流れで開発は進められますが、PoCからMVPを作るまでの流れをまとめて「PoC開発」と呼ぶ場合もあります。
アジャイル開発との違い
アジャイル開発とは、開発プロセスを計画・設計・実装・テストなどに分けて、小さいサイクルを繰り返しながらプロダクトをブラッシュアップする手法です。ユーザーからのフィードバックを受けながら、短いスパンで機能改善や追加ができる手法として注目されています。
アジャイル開発はプロトタイプ後に行われるMVP開発や、本格的な製品開発を効率的に進めるために用いられます。
PoCの流れ
PoCを効果的に進める流れとしては、以下のようなプロセスがあります。
<PoCのプロセス>
1.目的の設定
2.検証内容の設定
3.実証実験をする
4.検証結果を評価する
ここからは、各プロセスに分けて解説します。
1.目的の設定
はじめに、PoCを実施する目的を明確にしておくことが重要です。事前に「どのようなデータを得たいのか」「何を検証したいのか」など、どのような目的を達成したいのかを決めておきます。目的が明確に定まっていないと、途中で方針がブレてしまい、PoCをやること自体が目的になりかねません。PoCを有効活用するためにも、目的の設定は必須のプロセスです。
2.検証内容の設定
次のプロセスでは検証すべき項目を整理してから、検証内容を設定する必要があります。PoCで主に検証する項目は、以下の通りです。
・技術的実現性・費用対効果・運用の具体性
技術的実現性では、可能な限り実際の運用に近い環境で検証を行い、技術的に実現可能なのかを検証します。検証が不十分だった場合、製品をリリースしたときに想定外の不具合が発生してしまうリスクがあります。
費用対効果では、コストがかかりすぎていないかを確認した上で、投資額に見合った収益を生み出せるのかを検証します。実際に製品が使われる状況とできるだけ近い環境で検証を行うことで、コストと収益性を確認します。
実際に利用する際の使い心地や、適合性などを検証します。例えば、既存の業務システムにAIの導入を検討している場合、人がストレスなく受け入れてくれるかや、業務がスムーズに回るかを確認することになります。
上記の検証すべき項目を踏まえた上で、検証内容を設定することが重要です。
3.実証実験をする
次は、検証に最低限必要な機能を備えた製品・サービスを用意して実証実験を行います。有益なフィードバックを得るために、可能であれば実際のターゲットに近いユーザーに参加してもらいます。
実際のユーザーの参加が難しい場合は、社内やチーム内で試す方法もありますが、提供範囲を狭めるとデータが不足することもあるので注意が必要です。
4.検証結果を評価する
最後のプロセスは、検証結果の評価です。事前に設定した目的を達成できていれば、本格的な開発・商品化へと進んでいきます。期待していた成果を得られなかった場合は、再検証または中止・撤退の判断を下す必要があります。
PoCの3つのメリット
事業計画のための様々な手法がある中で、近年ではなぜPoCが注目されているのでしょうか。特にビジネス環境の変化が激しいIT業界では、プロダクトの実用性や実現性を検証しながら開発をする手法が増えてきています。
ここからは、PoCの導入によって生じるメリットや期待できる効果を紹介します。
工数や人件費のムダを削減できる
PoCでは、プロダクトの開発が本格始動する前に新たなアイデアやコンセプトの実用性や実現性を判断できるため、見切りで始めてみたけど上手くいかなかった時の工数や人件費のムダを防ぐことができます。
最初からプロダクト全体の開発を本格的に進めると、想定していなかったトラブルが発生する可能性があります。そのトラブルによって大きな仕様変更が生じた場合、それまでに費やした工数や人件費のムダにつながります。PoCであれば、限定した範囲でプロダクト開発を進め、途中でフィードバックをもらうこともできるので、想定外のコストが発生するリスクを抑えられます。
市場投入前にリスクを検証できる
新しいプロダクトの不確実性を洗い出せる点も、PoCのメリットです。ユーザーの反応やかかるコストを事前に知ることができれば、市場ニーズとの乖離や、コスト超過のリスクを低減できます。
また、フィードバックをプロダクトに反映すると、ユーザーが期待している機能・効果を先手を打って提供できます。結果として、市場投入後のクレームやトラブルを防ぐことができ、プロダクトの売上や利益も改善します。
業務提携や技術協力の可能性が広がる
PoCは、本格的なプロダクト開発の開始までに検証データが集められるため、対外的なアプローチにも役立つ側面があります。
例としては、他の企業に検証データを公開し、業務提携や技術協力を持ちかけるケースが挙げられます。収益性や実現性が高いプロダクトであれば、多方面から注目され、業務提携や技術協力の選択肢が拡がる可能性があります。
業務提携や技術協力が実現すれば、顧客の獲得や技術的リソースの調達にもつながり、事業化のスピードを早めることができます。
PoCのデメリット
PoCが全ての面で優れているわけではありません。想定外のリスクが生じることもあるので、プロダクトによって導入を判断することが重要です。
以下では、PoCで注意したいデメリットについて解説します。
検証にコストや労力がかかる
PoCはリソースのムダを削減できますが、検証を行った分だけコストや労力がかかります。特に実現性の低いプロダクトは、検証を繰り返しても成果が出ないことがあり、リリース前の断念を余儀なくされるかもしれません。
また、プロダクトの仕組みや分野によっては、コンセプトは良くてもその後の人材不足に直面することも考えられます。例えば、国内のデジタル人材は多方面で不足しているので、プロダクトのシステム開発や運用で慢性的な人材不足に悩まされる可能性があります。
どのような開発手法を使っても、プロダクトを市場に投入しない限りは収益が生じません。そのため、PoCにかかるコストや労力については慎重な判断が必要です。
情報漏えいのリスクが上がる
フィードバックが必要になるPoCでは、市場投入前にプロダクトを社内や社外のユーザーに提供する必要があります。仮に提供範囲を絞っても、関わる人数が増える分だけ情報漏えいのリスクが上がることは避けられません。
万が一、プロダクトの機能や検証データが外部に漏れると、競合他社に模倣品や代替品を作られてしまう可能性があります。情報漏えいは大きな損失につながるため、PoC時に提供するプロダクトの機能を制限するなどのリスクヘッジが必要になります。「誰からのフィードバックを得たいのか」「どのような検証データが必要になるのか」を踏まえて、提供する内容や範囲を慎重に検討しましょう。。
PoCを成功させるポイント
PoCを成功させるには、検証を行う規模や検証環境を慎重に決めることが重要です。ここからは、PoCを成功させるポイントについて解説します。
スモールスタートを意識する
PoCはスモールスタートに向いた手法であり、規模を小さくすることで次の効果を得られます。
<スモールスタートでPoCを始める効果>
・検証にかかるコストや労力を削減できる
・柔軟に方針を変えられるため、フィードバックを反映しやすい
・意思決定がスムーズになり、次ステップまでのスピードが上がる
また、複数の検証項目がある場合で最初の検証がうまく進んだ場合も、スモールステップを意識することが重要です。いきなり検証の規模や範囲を大きくすると、コストやリスクを予想することが難しくなるだけでなく、正しい検証結果が得られないという問題が生じかねません。
PoCに関わる人数を減らすことで情報漏えいを防ぐ効果も期待できるので、基本的にはスモールスタート・スモールステップを意識しましょう。
導入現場と似た検証環境を整える
PoCは、正しいデータを得ることにこだわる必要があります。そのため、ターゲット層に近いユーザーに提供するなど、実際の導入現場と似た検証環境を整えましょう。
プロダクトによっては、ユーザー属性に加えて時間や気温、天候などを意識することも重要です。ユーザーからのフィードバックに影響する要素を整理して、必要な検証環境を一つずつ書き出してみてください。
PoCは正しいプロセスで進めよう
PoCを導入しても、正しい検証結果を得られなければ意味はありません。検証を誤ると、間違ったデータをプロダクトに反映してしまうため、PoCは正しいプロセスで進めることが重要です。またスモールスタート・スモールステップ、導入現場と似た検証環境を整えることも大切です。
PoCを入念に計画してもうまく検証結果を得られない場合もあります。必要に応じて検証内容や検証環境を再設定したり、計画を見直したりすることも検討しながら、正しい検証結果を得ることにこだわってPoCを進めましょう。
(提供:CAC Innovation Hub)