目次
再婚相手の夫が亡くなったときに、前妻が相続の権利を主張してきたらどうすればよいのか?
元夫との間に生まれた子どもの相続権は?
疎遠になった孫にも相続させなければいけない?
離婚した場合に生じる相続のさまざまな疑問についてケース別に解説します。
- 離婚すると相続権はどうなるのか
- 普通養子縁組と特別養子縁組による相続権の違い
- 疎遠になった孫に相続させたくない場合の対策
年間20万組が離婚している現実
厚生労働省が発表した「令和4年度離婚に関する統計の概況」によると、令和2年に離婚した夫婦は19万3,253組に及びます。
前年の20万8,496組よりは1万5,243組減少したものの、毎年20万組近くが離婚しているのが現状です。
1,000組に1.57組の割合なのでそれほど多くない印象ですが、万一離婚に至った場合、元配偶者や子ども、孫などの相続権はどうなるのか知識として知っておくと安心でしょう。
離婚すると相続権はどうなるのか
離婚した後に再婚した場合、前妻と再婚相手の妻に、前妻との間の子どもと、再婚相手の妻との間に生まれた子どもがおり、人間関係が複雑になります。
特に問題になるのが相続の権利です。離婚すると、元配偶者や子どもの相続権はどうなるのか、3つのケースで確認しておきましょう。
1. 元配偶者の場合|相続権はなくなる
元配偶者は離婚が成立した時点で他人になるので相続権はなくなります。
夫婦は離婚の調停で財産分与がおこなわれ、慰謝料が支払われる場合もあるので、他人になった後に遺産相続を主張することはできません。
たとえば、万一元妻が被相続人の死去を知って遺産の一部を再婚した妻に要求したとしても、渡す必要がないことを覚えておきましょう。
2. 子どもの場合|相続を受ける権利がある
実の子ども(嫡出子)は親が離婚したとしても、被相続人との親子関係は続きます。
したがって、離婚後に疎遠になった子どもでも相続を受ける権利があります。被相続人と血縁関係のある子どもは常に相続人になると覚えておくと良いでしょう。
ただし、実の子であっても婚姻関係のない夫婦から生まれた子どもは非嫡出子となり、認知されていなければ相続の権利はありません。
3. 連れ子の場合|遺産を相続させたい場合は養子縁組をする
たとえば、離婚した妻が再婚したとします。元夫(実親)との間に生まれた子どもは、妻にとっては実の子です。
しかし、再婚した夫(養親)にとっては血縁関係のない連れ子です。この場合、連れ子に相続の権利はありません。
このケースで元夫との子どもにも再婚した夫の遺産を相続させたい場合は、次に述べる養子縁組をする方法があります。
養子縁組すれば戸籍に記載されて本来の親子関係と認められるので、再婚した夫が亡くなったときに元夫との子どもも相続を受けることができます。
普通養子縁組と特別養子縁組による相続権の違い
養子には普通養子縁組のほかに特別養子縁組があります。両者のおもな違いは下表のとおりです。
実親との関係 | 実親の相続権 | 家庭裁判所の審判 | 戸籍の続柄 | |
---|---|---|---|---|
普通養子縁組 | 継続 | あり | 不要 | 養子 |
特別養子縁組 | 消滅 | なし | 必要 | 実子と同じ |
普通養子縁組は実親との親子関係は継続
普通養子縁組は新しい夫との親子関係が結ばれた場合でも、実親との親子関係は継続されます。
したがって、実親が亡くなった場合の相続権もあるので、両方の親から遺産の二重取りが可能です。
普通養子縁組は養親と子どもの合意があれば成立するので、手続きが簡単なのがメリットです。
戸籍上、養子は養親の戸籍に入り、養親の名字を名乗ります。また、公的書類等への続柄を記入する際は養子と書きます。
特別養子縁組は親との親子関係は消滅
一方の特別養子縁組は養親と子どもの親子関係が成立すると、実親との親子関係は消滅します。
したがって、実親が亡くなった場合の相続権も無くなります。養親からしか財産を受け継げないので、子どもにとって不利になります。
離婚した配偶者が遺言書を遺していた場合の相続
離婚した配偶者が遺言書を遺していた場合は、法定上の相続分よりも遺言書の内容が優先されます。
たとえば、離婚した妻との間の2人の子どもを妻が引き取って夫と子どもが疎遠になっていないとします。
夫が財産の大半を再婚した妻に相続させると遺言書に記載していた場合、子どもの相続分はどうなるのでしょうか。
<遺言書による財産の配分>
配偶者A(再婚した妻):4,800万円
子どもB:100万円
子どもC:100万円
このケースでは、はじめに遺言書どおり再婚した妻が4,800万円相続します。
そのうえで、2人の子どもが再婚した妻に対して法律上保証されている「遺留分侵害請求」をおこないます。
遺留分とは、遺言の内容によって奪われることがない、一定割合の遺産取り分のことです。
子どもにとっては、再婚した妻が大半を相続したことによって、本来得られるはずの相続財産を逸することになります。そこで侵害された遺留分を請求することができるのです。
民法第1042条により、子どもの遺留分は全体の2分の1と定められています。
民法第900条により、法定相続分は配偶者が2分の1、子どもが2分の1(2人の場合は1人当たり4分の1)と定められています。
遺留分は相続財産の2分の1が対象になるので、相続財産が5,000万円の場合、以下のように財産の取り分を算出します。
<遺留分>
・子どもA:5,000万円×遺留分2分の1×法定相続分4分の1=625万円
・子どもB:5,000万円×遺留分2分の1×法定相続分4分の1=625万円
算出された遺留分から遺言書に記載された相続額を差し引いて遺留分侵害額を求めます。
<遺留分侵害額>
・子どもA:遺留分625万円-遺言書による相続分100万円=525万円
・子どもB:遺留分625万円-遺言書による相続分100万円=525万円
2人の子どもはそれぞれ525万円を遺留分侵害者である再婚した妻に請求することができます。
法定相続人の相続順位
法定相続人にはあらかじめ相続順位が決められています。第1順位の人が1人でもいれば、第2順位の人は相続人になれません。
同じく1位の人がいなくても2位の人が1人でもいれば、第3順位の人は相続人になれないと厳格に規定されています。
遺産相続の場合、相続できるのは被相続人の直系尊属(被相続人の父母、祖父母など)や直系卑属(子など)、代襲相続人(孫、兄弟姉妹)です。
配偶者の兄弟や父母・祖父母(傍系尊属)には相続の権利はありません。
・法定相続人の第1順位は配偶者と子ども
法定相続人の順位は、配偶者と子どもが第1順位になります。
配偶者とは被相続人と婚姻関係を結んでいる人であり、内縁の関係にある人は相続の対象外です。子どもが亡くなっている場合は孫が相続します。
・法定相続人の第2順位は被相続人の父母
次いで被相続人の父母が第2順位になります。父母がいない場合は祖父母が相続します。
・法定相続人の第3順位は被相続人の兄弟・姉妹
そして、被相続人の兄弟・姉妹が第3順位になるという順番です。
兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪が相続します。第3順位に関しては甥・姪より下(甥・姪の子ども)に相続権はありません。
離婚した元配偶者との間の子の相続比率は?
離婚した後に、元配偶者が再婚したか否かで、元配偶者との間の子どもの相続比率がどのように変わるのか、元夫との間に子どもが2人いたケースで見てみましょう。
1. 元夫が再婚していないケース|それぞれの子どもが1,500万円ずつ相続
元夫が再婚していない場合は、元夫に法律上の配偶者がいないことになります。この場合、元夫にほかの子どもがいなければ、2名の子どもが相続人となります。
相続遺産が3,000万円の場合は、それぞれの子どもが1,500万円ずつ相続します。
2. 元夫が再婚して相手に子どもがいないケース|再婚相手の妻と前妻の子ども2人が相続人
元夫が再婚して再婚相手の妻との間に子どもがいない場合は、再婚相手の妻と前妻の子ども2人が相続人となります。
相続遺産が3,000万円の場合は、配偶者が2分の1の1,500万円、子どもが1人当たり4分の1の750万円ずつ相続します。
3. 元夫が再婚して相手に子どもがいるケース|再婚相手の妻とその間の子、前妻の子が相続人
元夫が再婚して再婚相手の妻との間に子ども(実子)が1人いる場合は、再婚相手の妻と前妻の子ども2人と再婚相手の妻との間の子ども1人が相続人となります。
相続遺産が3,000万円の場合は、配偶者が2分の1の1,500万円、子どもが1人当たり6分の1の500万円ずつ相続します。
子どもが亡くなっても孫が相続できる代襲相続とは何か
被相続人に子どもがいる場合は孫に相続権はありませんが、相続するはずの子どもが亡くなっている場合は、代襲相続によって孫が相続する場合があります。
代襲相続とは、被相続人の子どもが被相続人の亡くなる前に死亡したときや、相続人の欠格事由に該当するとき、もしくは廃除によって相続権を失ったときに、その人の子どもが代襲して相続人になることです(民法第887条、第891条)。
相続人が廃除されるケースとは、「被相続人に虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」(民法第892条)で、被相続人はその推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます。
離婚して疎遠になったとしても上記のような理由で疎遠の孫が代襲相続人になる可能性があります。
疎遠になった孫に相続させたくない場合の対策4つ
先に述べたように、子どもの離婚によって疎遠になった孫が代襲相続人になるケースはあり得ます。問題は被相続人が孫に財産を渡したい気持ちがあるかどうかです。
自分が育てる子どもと違い、孫は疎遠になって寄り付かなければ、愛情が薄れるのはやむを得ないことといえます。
疎遠になった孫に代襲相続によって財産を渡したくない場合は、以下のような方法で対応することが可能です。
1.生前贈与を利用する
相続財産を減らす方法の1つに生前贈与があります。
財産を渡したくない孫がいる場合は、渡したい相続人に生前贈与してしまえば、相続財産が減るため疎遠の孫へ渡す財産も減らすことができます。
そのような行為をすることが心情的にどうかという点に関しては、元々疎遠で寄り付かないわけですから、割り切ることは可能でしょう。
2.遺言書を利用する|自分の希望する相手に希望する配分を記載
生前贈与するのは手間と時間がかかるという場合は、遺言書を遺すのがトラブルを避けるためにも有効です。
遺言書の内容は法定相続分より優先されるため、自分の希望する相手に希望する配分で財産を渡すことができます。遺産分割協議も必要なくなるので、相続内容でもめることもありません。
ただし、遺言書は被相続人の親族への思いがストレートに明記されているため、少なく割り当てられた親族にすれば不満の思いが残ることは確かでしょう。
生前贈与のように気づかれないうちに贈与しておくというわけにいきません。それが遺言書のデメリットです。
3.生命保険を利用する|受取人の名前を受け継いで欲しい子どもや孫にする
生命保険を利用した財産分与の方法もあります。生命保険金は相続財産ではなく、受取人の固有財産になります。
そこで生命保険金の受取人を財産を受け継いで欲しい子どもや孫の名前にすれば、遺産分割や遺留分の計算対象にならないので、疎遠の孫に渡る心配はありません。
死亡保険金の受取人が相続人の場合、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。この非課税限度額を超えない範囲で金額を設定しておけば、相続税の節税対策にもなります。
4.養子縁組を利用する|養子縁組してなついている孫に財産を渡す
離婚して疎遠になった孫以外になついている孫がいる場合は、養子縁組してなついている孫に財産を渡すことも可能です。
養子縁組すれば孫とも親子関係が生じ、養子も実子と同じく相続人になることができます。
ただし、孫養子は相続税が2割増しという規定があります。また、相続税の基礎控除や死亡保険金の非課税枠に参入できる養子の人数には限りがあるので注意が必要です。
加えて、税務署から相続税対策と見られて否認されるリスクも考慮して判断する必要があります。
離婚歴がある場合の相続問題のトラブル対策3つ
離婚歴があるために相続でトラブルが発生することは十分に考えられます。しかし、事前に対策を打っておくことでトラブルを避けることができる場合もあります。
トラブルへの対策としては以下のような方法が挙げられます。
1. 相続について生前に話し合っておく
一番望ましいのは生前から家族と相続について話し合っておくことです。
被相続人がまだ元気なのに、亡くなった後のことを話すのは日本人の国民性からタブーのような空気があるでしょう。
しかし、話し合っておかないで、相続になって遺産相続争いが生じるのはなお悲しいことです。
特に離婚歴がある場合は、実の子どもと連れ子が1つの家族に混在している場合もあるので、被相続人が相続に対する考え方を伝えておくことは大事です。
家族仲が良く、全員の子どもに相続させたい場合は、先に述べたように連れ子を養子にして、戸籍上も血縁のある子どもにしておく必要があります。
2. 内縁の配偶者や認知していない子がいる場合は告げておく
前妻との離婚の原因が、愛人がいたことが発覚したケースで、新しい家族にその存在を隠している場合はさらに複雑な状況となります。
内縁の配偶者や認知していない子がいる場合、相続時にトラブルになる可能性があります。
認知する前に父親が亡くなった場合に、その子どもが「死後認知の訴え」を起こす場合があるからです。
たとえば、内縁の配偶者と子どもを自分が所有するマンションに住まわせていた場合、相続になってそのマンションが別の相続人のものになれば、明け渡さなければなりません。
そうなっては内縁の配偶者と子どもは生活に困るので、訴えを起こす可能性があるのです。
内縁の配偶者と子どもの存在を家族に告げるのは勇気がいることですが、理解を得て認知しておけば、相続の際に認知した子どもも遺産分割協議に参加できるので、円満に相続できる可能性があります。
3. 弁護士などの専門家に相談する
事前に話し合っておいたとしても、素人では手に負えないトラブルが発生することがあるでしょう。
人間関係が複雑な場合は、弁護士などの専門家に相談するのが無難な方法です。
離婚が相続に与える影響は子どもや孫には小さい
ここまで離婚が相続に与える影響について見てきました。離婚によって元配偶者の相続権利は消滅します。
一方で、子どもは両親が離婚しても親子関係が変わることはありませんので、離れて暮らして疎遠になったとしても相続の権利はあります。
孫は子どもがなくなったときに代襲相続によって相続人になることが可能です。
配偶者は離婚して他人になれば相続の権利が消滅するので影響が大きいですが、子どもや孫は血縁関係が続くので、離婚が相続に与える影響は小さいといえます。
※本記事の解説内容は一般例であり、家庭によっては該当しない記述もあります。参考程度にお考えください。
(提供:ACNコラム)