住宅の贈与税の計算方法は?法改正や税負担を軽減する特例制度も解説
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目次

  1. 贈与税とは?対象となるケースを紹介
  2. 住宅などに課せられる贈与税の計算方法(暦年課税の場合)
  3. 住宅の贈与税はいつまでにどうやって納める?申告や納税の方法とは
  4. 住宅を贈与する場合は相続時積算課税を選ぶ方法もある
  5. 住宅の贈与税に関する2つの制度
  6. 贈与税の計算や特例制度の利用は税理士に相談を

住宅や土地などの不動産は贈与税の対象となります。そのため、不動産を贈与する場合や贈与を受ける場合には、贈与税の計算方法や特例制度などについての知識が必要です。

贈与税の計算方法は、住宅や土地などの課税価額を求め、それに税率を掛けるというのが大まかな流れです。

ただし、贈与する側(贈与者)と贈与を受ける側(受贈者)の関係によって、用いる税率の指標が変わってきます。

また、不動産に関わる特例制度には、「住宅取得資金贈与の非課税制度」と「贈与税の配偶者控除」があります。これらの内容について詳しく解説していきます。

この記事でわかること
  • 贈与税に関する基本情報
  • 住宅の贈与税に関する計算方法
  • 住宅の贈与税に関するさまざまな制度

贈与税とは?対象となるケースを紹介

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住宅や土地などの不動産を贈与した際に発生する贈与税は、他の財産(例:現金や貴金属など)と合算して計算します。

そのため、まずは贈与税の基本的な知識を得ることが重要です。また、贈与税の対象となる財産や基礎控除などについて確認していきましょう。

1. 贈与税とは贈与する財産にかかる税金のこと

贈与とは、家族や知人などに財産を贈ることです。

具体的には、贈与する側が贈与の意思を示し、贈与を受け取る側がその意思に同意することで贈与が成立します。

贈与税は、一定額以上の贈与を受けた際に課される税金です。贈与税の納税義務は、贈与を受けた側にあります。

その税額は、贈与された財産の評価額に応じて変わってきます。贈与税の課税対象となるのは、以下のような財産です。

・現金、預貯金
・不動産(住宅や土地など)
・株式、投資信託
・貴金属、宝飾品
・車
・絵画、骨董品 など

2. 基礎控除の年110万円を超えた金額が課税対象になる

前述の財産の贈与を受けても、すべての部分に贈与税が課されるわけではありません。

基礎控除である年間110万円を超えた金額が課税対象となります。また、その年に複数の人から財産を贈られた場合、これらを合算して計算します。

たとえば、同じ年に祖父とおじからそれぞれ110万円ずつの現金をもらった場合、合計220万円のうち、基礎控除の110万円までが非課税となります。残りの110万円は贈与税の課税対象になります。

なお、贈与税の基礎控除(非課税枠)は、選択する贈与税の制度によって以下のような違いがあります。

贈与税の制度 基礎控除の内容
暦年課税 ・ 基礎控除額:年110万円
・ ただし、亡くなる直前の贈与は基礎控除が適用されない(相続財産に加算される)
相続時積算課税 ・ 基礎控除枠額:年110万円
・ 亡くなる直前の贈与でも基礎控除が適用される(控除の枠内なら相続財産に加算されない)
※暦年課税で基礎控除が適用されない期間は年度によって変わってきます。

3. 知らないうちに贈与の対象になる場合もある

当事者が気がつかないうちに、贈与が成立して贈与税の課税対象となるケースもあります。

これを「みなし贈与」といいます。たとえ当事者が贈与と認識していなくても、発生した贈与税は納税の義務があります。みなし贈与のよくあるケースは以下のとおりです。

・ 相場よりも著しく安い価格で不動産を子に売却した(例:相場の20%以下で売却)
・ 親が子に貸していた借金を免除した(例:300万円を免除)
・ 親が子の借金を代わりに弁済した(例:300万円を弁済)
・ 親名義の自宅を子の名義に変更した
・ 相続税や贈与税を軽減する目的で離婚した など

4. 贈与税の対象になるケース、対象にならないケース

贈与税が発生するかどうかの判断で難しいのは、家族に援助をしたり、財産を贈ったりした場合です。

一般的に以下のようなケースでは、贈与税が課されない可能性が高いです。

・親が大学生の子に仕送りをした
・親が社会人の子の結婚式費用や出産費用を援助した
・祖父母が孫の学費を負担した など

また、以下のようなケースでは、贈与税が課される可能性が高いです。

・親が大学生の子に学費と家賃の4年分、総額1,000万円を一括で渡した
・親が保険料を支払い続けた保険の満期保険金を子が受け取った
・祖父母が孫に高級外車を贈った
・夫が妻に1,000万円相当の貴金属を贈った など

※上記のケースは一例です。前提条件によって課税・非課税の判断が変わってくることもあります。

住宅などに課せられる贈与税の計算方法(暦年課税の場合)

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では実際に、住宅や土地などの不動産を贈与された際に発生する、贈与税の計算方法を確認してみましょう(暦年課税の場合)。

次の流れで、贈与税の税率や金額を求めることができます。

1.不動産(住宅と土地)の価額を求める

不動産の贈与を受けた場合、まずは土地と建物(家屋)の価額を求める必要があります。この合計額が不動産の価額となります。

住宅(家屋) ・ 固定資産税評価額がそのまま評価額となる
・ 上記は、固定資産税課税明細書または、市区町村で所有している固定資産税台帳で確認できる
土地 ・ 路線価がある場合は「路線価方式」で求める
・ 路線価がない場合は「倍率方式」で求める

2.贈与された財産全体の価額を求める

1年間(その年の1月1日〜12月31日)に、住宅や土地以外の財産の贈与を受けた場合は、贈を受けた財産全体の価額を求める必要があります。

たとえば、現金と不動産を贈与された場合、この合計額が贈与された財産全体の価額となります。

3.基礎控除後の課税価額を求める

上記の1〜2で求めた、贈与で受け取った財産の価額から、基礎控除額110万円を差し引きます。

4.贈与税の税率を確認する

上記の3で求めた「基礎控除後の課税価額」に基づいて贈与税の税率を確認します。課税価額が高くなるほど、税率も高くなります。

贈与税の税率は、速算表で求めることができます。この速算表には、「一般贈与財産用」と「特例贈与財産用」の2種類があります。

贈与税を正しく計算するためには、適切な速算表を選択する必要があります。それぞれの速算表の違いは以下のとおりです。

一般贈与財産用
(一般税率)
「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に用いる
特例贈与財産用
(特例税率)
直系尊属から贈与により財産を取得した場合の贈与税の計算に用いる
※財産を取得した受遺者の年齢が20歳以上(令和4年3月31日以前は18歳以上)に限る

「特例贈与財産用」の速算表を選ぶ際の基準となる直系尊属とは、血縁関係にある自身より前の世代の親族を指します。

たとえば、血のつながりのある父母、祖父母、養父母などが該当します。また、養父母は、法的には血縁関係があると見なされるため、直系尊属に含まれます。

なお、血縁のつながりがあっても自身より後の世代(子、孫)は、直系卑属となります。

直系卑属から贈与された住宅の贈与税を計算する際には、「一般贈与財産用の速算表」を用います。

「一般贈与財産用(一般税率)」と「特例贈与財産用(特例税率)」の速算表の税率は以下のとおりです。

一般贈与財産用(一般税率)

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

特例贈与財産用〈特例税率〉

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

5.課税価額に贈与税の税率を掛ける

上記の1〜3で求めた「基礎控除後の課税価額」に、4で求めた贈与税の税率を掛けると、贈与税が計算できます。計算式は以下のとおりです。

基礎控除後の課税価額×贈与税の税率-速算表内の控除額

たとえば、基礎控除後の課税価額が500万円の場合、贈与税は以下のとおりです。

【一般贈与財産用の場合】
500万円×30%-65万円=贈与税は85万円

【特例贈与財産用の場合】
500万円×20%-30万円=贈与税は70万円

住宅の贈与税はいつまでにどうやって納める?申告や納税の方法とは

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住宅を贈与されて贈与税が発生する場合、翌年の申告・納税期限までに納める必要があります。

申告や納税の方法はいくつかの選択肢があります。

1. 贈与税の申告・納税の期限は翌年の2月1日から3月15日まで

贈与税の申告は、贈与が実施された年の翌年の2月1日から3月15日までにおこなう必要があります。申告方法には、以下のような選択肢があります。

・e-Taxを利用して提出(送信)する
・郵便や信書便で送付する
・税務署の時間外収受箱へ投函する

出典:国税庁 「No.4429 贈与税の申告と納税

2. 贈与税の納税方法には、クレカ払いやQRコード決済などがある

贈与税は申告と共に、期限までに納税をおこなう必要もあります。納税期限は、贈与がおこなわれた年の翌年の2月1日から3月15日までとなります。

納税方法は以下から選ぶことができます。

キャッシュレス納付 ・ダイレクト納付(e-Taxによる口座振替)
・インターネットバンキングによる納付など
・クレジットカード納付
・スマホアプリ納付
キャッシュレス納付以外の納付方法 ・コンビニ納付(QRコード)
・コンビニ納付(バーコード)
・金融機関または所轄の税務署の窓口で納付

住宅を贈与する場合は相続時積算課税を選ぶ方法もある

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贈与をおこなう方法には、前出の「暦年課税」の他に「相続時積算課税」もあります。

以前は、節税効果を得やすいということで「暦年課税」を選ぶ人が多かったようですが、2024年の法改正後は「相続時積算課税」への注目度が高まっています。

詳しい内容を確認していきましょう。

1. 累計2,500万円まで繰り返し贈与できる制度

相続時積算課税とは、累計2,500万円までの特別控除枠内なら、繰り返し贈与しても贈与税が発生しない制度です。

なお、2,500万円を超えた分の贈与した財産には、贈与税が加算されます。

暦年課税と相続時積算課税の贈与税の税率を比較すると、以下のようになります。

・暦年課税:課税所得に応じて10〜55%
・相続時積算課税:一律20%(2,500万円を超えた贈与財産に対して)

2. 相続時積算課税でも年110万円の基礎控除が適用される(2024年改正)

上記の贈与税の税率だけを比較すると、相続時積算課税が有利なように感じられます。

しかし、相続時積算課税には、被相続人が亡くなった際、2,500万円の特別控除内で贈与された財産が相続財産に加算されるというデメリットがあります。

しかし、2024年1月から、相続時積算課税にも年110万円の基礎控除枠が新設され、新たな節税メリットが生まれています。

しかも、暦年課税と異なり、相続時積算課税の基礎控除枠は、被相続人が亡くなる直前の贈与でも非課税となるため、資産家に注目されています。

3. 相続時積算課税を選ぶと「小規模宅地等の特例」は使えない

相続時積算課税の注意点としては、この制度を選択すると、後から暦年贈与に変更できないという決まりがあります。

また、相続時積算課税を利用して取得した住宅は、「小規模宅地等の特例」の適用を受けられません。

これらのことに注意して、暦年課税と相続時積算課税のどちらを選ぶのが最善かを慎重に判断しましょう。

後悔しないよう、相続や不動産の分野に詳しい税理士の意見を聞いた上で、制度を選ぶことをおすすめします。

住宅の贈与税に関する2つの制度

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最後に、住宅や土地などの贈与税と関わる2つの制度(「住宅取得資金の非課税制度」と「贈与税の配偶者控除」)をご紹介します。

1. 住宅取得資金贈与の非課税制度|直系尊属から贈与を受けた場合に適用できる

住宅取得資金贈与の非課税制度とは、直系尊属(親や祖父母など)から以下の贈与を受けた場合に適用できる特例制度です。

・自己が居住するための物件を新築・取得するための金銭
・自己が居住するための物件の増改築などをするための金銭

住宅取得資金贈与の非課税制度は、贈与税の基礎控除(年110万円)の他に、以下の控除を受けることができます。

・省エネ等住宅の場合:1,000万円まで
・これ以外の住宅の場合:500万円まで

ここでいう「省エネ等住宅」とは、省エネ等基準のいずれかに適合する住宅用の家屋を指します。

・断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上であること
・耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物であること
・高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること

ただし、住宅取得資金贈与の非課税制度には、数多くの要件があります。

また、期間限定の制度のため今後、制度が廃止になったり、制度内容の変更があったりする可能性があります。

そのため、制度の利用を検討する際は、国税庁の最新情報を確認することをおすすめします。

出典:国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

2. 贈与税の配偶者控除|2,000万円までを控除できる

不動産に関わる贈与の制度としては、夫婦間で使える配偶者控除があります。

この制度を使うと居住するための住宅やその取得資金を夫婦間で贈与した場合、2,000万円までを控除できます。

なお、贈与税の配偶者控除は、基礎控除110万円の別枠として設けられています。

贈与税の配偶者控除の注意点としては、まず、この制度を使えるのは婚姻期間20年を過ぎた夫婦に限られることが挙げられます。

また、「相続税の配偶者控除」によって贈与税の配偶者控除の節税メリットが得られないこともあります。

相続税の配偶者控除とは、夫婦のいずれかが亡くなった場合、次のうち多い金額が非課税になる(控除される)というものです。

・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分相当額

※ただし、相続税の申告期限までに取得していない財産(例:遺産分割されていない財産)は控除の対象にならない。
出典:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

上記を適用した場合、相続財産の額によっては、贈与税の配偶者控除の節税メリットを得られないケースもあります。

そのため、贈与税の配偶者控除を利用するかどうかは、税理士の意見を聞いた上で判断するのが望ましいでしょう。

贈与税の計算や特例制度の利用は税理士に相談を

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このコラムでは、住宅や土地の贈与に関する、贈与税の計算方法や特例制度について解説してきました。その内容を整理してみましょう。

贈与税は、一定額以上の贈与を受けた際に課される税金です。

その計算方法は、たとえば、不動産の贈与を受けた場合、住宅と土地の価格を求め、これに贈与税の税率をかけます。計算で用いる「贈与税の税率」は、基礎控除後の課税価格によって変わってきます。

また、住宅や土地の贈与に関わる特例制度には、「住宅取得資金の非課税制度」と「贈与税の配偶者控除」の2つがあります。

いずれも控除枠が大きいため節税メリットを得やすいですが、細かい要件があります。

これらのことを踏まえると、贈与税の計算や特例制度の利用は、税理士の助言やサポートを受けたうえでおこなうのが賢明です。

(提供:ACNコラム