M&Aの可能性も
―投資先企業のM&Aについてはどのようなお考えをお持ちですか。
CVCの目的は、冒頭に触れたとおりです。また、K4 Venturesから投資先企業への出資額は少額、つまり、マイナー出資であることからも、一義的には、将来のM&Aのために出資するということはありません。ただ、スタートアップ企業にとってのイグジットや将来展望の選択肢の一つとして、関西電力グループの仲間になってさらに成長していく選択肢(M&A)をご提供したいと思っています。
互いの価値観や考え方を理解した上で、投資先企業が大企業とともに成長していきたいという選択をされる場合、関西電力に限らず、ベストオーナーとのM&Aを後押ししたいと考えています。
仮に、ベストオーナーが関西電力であるという場合には、創業者や経営者の方、他の株主にとってメリットがある、さらなる成長につながるような形に寄与できればと考えています。こうしたスタートアップエコシステムを形成していくためにも、CVCを通じた活動は意味があるものと思っています。
―これまでに40社ほどに投資されています。これら投資をどのように評価されていますか。
K4 Venturesの投資は、スタートアップに直接投資しているケースと、ベンチャーキャピタルが組成するファンドを通じて間接投資しているケースの二つに分類できます。投資件数では直接投資が多い一方、投資金額では間接投資が多いというのがこれまでの実績です。
これまでの活動を通じて、間接投資先であるベンチャーキャピタルと多くのディスカッションを重ねてきましたが、VC各社の目利きや投資の手法などを知ることで多くの学びがあり、K4 Venturesが直接投資する際の検討に生かされるなど、CVC活動全体のレベルアップや戦略リターンの獲得につながっています。
また、直接投資については、投資先企業によって成長のペースはそれぞれですが、IPOした企業や順調に企業価値を高めている企業が現れ始めていますので、財務リターンの確保に向けて、一定程度期待できるのではないかと評価しています。
―40社ほどへの投資を通じて、何か気づきなどはありましたか。
2018年以降の6年間を通じて、さまざまなスタートアップ企業に出資しました。活動初期は事業会社のCVCということもあり、自分たちの事業にどれだけプラスがあるのか、つまり、戦略リターンをかなり重視していたところがあります。
CVCにとって戦略リターンの確保は大事なことではありますが、それを重視しすぎるあまり、投資先であるスタートアップ企業の成長は二の次ととられかねない行動があったかもしれない、3号投資枠の検討時にそういった話題をCVCメンバー間で深く議論しました。結果、3号投資枠では、K4 Venturesの社名(=Kanden for Ventures)に込めた、ベンチャー企業の成長と共に歩むパートナーでありたいとの想いに立ち返り、「ベンチャーファースト」を改めて掲げたところです。
出資した以上は、そのスタートアップ企業の成長を最優先に考えた上で、私どものリターンをどのように最大化するか。バランスが難しいケースもありますが、その価値観でやっていかないとこの取り組みは続きませんし、スタートアップ企業のみなさんからも選ばれないのではないでしょうか。これが一番大きな気づきです。
―CVCの課題や問題点についてはどのようなお考えをお持ちですか。
CVCの活動を通じて一定の実績を確保しながら長期的に継続していくには、スタートアップ企業やベンチャーキャピタルをはじめ、さまざまな人とのつながりや信頼関係が重要になります。その一方、弊社グループでは、人事異動によって担当者が交代するケースがあることから、人とのつながりを維持していくことが難しいと感じています。
このため、人事異動による担当交代の発生に備えて、業務の連続性が確保できるよう、業務の標準化を進めるとともに、CVC業務のコア、対外的な顔として活躍してもらいたい人財については、長く担当できる措置を講じていきます。
長く担当する人財と、さまざまな業務経験があるローテーション人財との組み合わせが組織のレベルアップ、ダイバーシティ(多様性)につながると考えており、現在、試行錯誤しながら体制強化に取り組んでいるところです。
文:M&A Online