日機装は、産業用ポンプや発電所向け装置などの工業部門と、国内トップシェアの血液透析装置を中心とするメディカル部門を経営の両輪とする。海外売上高比率は65%に達するグローバル企業とあって、M&Aも海外を主戦場としてきた。その取り組みをみると、買収一辺倒ではなく、過去に傘下に収めた企業・事業の売却も機動的に進め、事業ポートフォリオの最適化に余念がない。

CRRT事業のドイツ・中国子会社を売却へ

日機装は5月末、急性腎不全の治療法であるCRRT(急性血液浄化療法)事業を展開するドイツと中国の子会社2社を、医療機器販売のシンガポールTYHC International に約74億円で売却すると発表した。2014年に米国BaxterからCRRT事業を約38億円で買収し、自社の血液透析事業との連携を進めてきたが、十分な成果を得られない状態が続いていた。

CRRTは腎臓の機能が低下した場合に腎機能を代替するために血液を浄化する治療法。日機装は子会社でCRRT装置の製造を手がけ、透析液などを含めたCRRT事業領域の拡充を目指してきたが、10年を機に一区切りをつけることにした。

譲渡する子会社はドイツでCRRT装置を開発・製造するNikkiso Europeと、販売・メンテナンス業務を手がける中国の日機装(上海)実業有限公司 。両社合計の直近業績は売上高92億5000万円、営業利益6790万円で、黒字を確保していたものの、低収益にあえいでいた。2024年12月末の譲渡完了を見込む。

「低・脱炭素」で欧州2社を870億円で手放す

実は、日機装はコロナ禍最中の2年前、主力のポンプ事業で同社として破格の大型売却を実行している。売却金額は870億円に上り、今回とはスケールがケタ違いだった。

売却したのは原油・天然ガス掘削や石油化学プラントで使われるポンプを製造・販売する欧州子会社2社。ドイツLEWAとオランダGevekeで、2022年9月に両社の全株式をスウェーデンの産業用機器メーカーのアトラス・コプコに手放した。

低炭素・脱炭素関連への事業ポートフォリオ見直しの一環。具体的には水素やアンモニアなど次世代エネルギー領域に軸足を移し、中長期的な安定成長につなげることを狙いとした。

LEWAは2009年に約230億円、Gevekeは2013年に70億円余りを投じて子会社化。いずれも海外事業の主要子会社の位置づけだった。

両社の売却で得られた約870億円は2022年当時1300億円程度だった有利子負債(2023年12月期末は647億円)の圧縮に充当し、自己資本比率を改善するとともに、将来への投資余力を確保した。

これを受ける形で中期経営3カ年計画「Nikkiso 2025 フェーズ2」(2023年1月~25年12月)が発進した。