この記事は2024年7月19日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「ネット社会が生み出す「都合のいい結婚イメージ」」を一部編集し、転載したものです。


ネット社会が生み出す「都合のいい結婚イメージ」
(画像=One/stock.adobe.com)

(厚生労働省「人口動態統計」)

情報番組を視聴していると、「年の差婚は珍しくなくなった」「近年は年の差婚が増えている」といった報道をしばしば目にする。この見方は本当に正しいのか。

図表に、1970年から2022年までの婚姻数の推移とその内訳を示した。これを見ると、年の差婚は総じて減少基調にあり、同期間の約半世紀で、年齢差が4歳以上となる初婚同士の結婚は、総数の44%から28%へと減少している。特に夫が年上の結婚がマイナス26%ポイントと激減し、一方で同年齢婚が12%ポイント、妻が少し年上の結婚が14%ポイント増加した。

従って、正確に夫婦の年の差について報道するならば「年の差婚は年々減少しており、特に夫年上婚の減少の影響が大きい」というのが正しい情報といえる。では、なぜ「年の差婚が増えた」「珍しくなくなった」という間違ったトレンドが報道されてしまうのか。これについては「フィルターバブル」というネットが生み出す効果(弊害)が関与している。

例えば、猫が大好きなAさんが、ニュースサイトなどの情報ポータルサイトで猫の記事が上がっていることを発見し、閲覧したとする。この場合、ポータルサイトにほぼ100%設定されている「レコメンドエンジン」(推薦エンジン)が作動し、次にAさんがそのサイトを閲覧した際には、Aさんが好みそうな猫の記事を探してきて「この記事も読みませんか」とばかりに画面に表示する。

この仕組みを分かっている人は誤解することはないだろう。しかし、分かっていなければ「最近は猫の記事を多く目にするが、以前よりも猫好きが増えたのだろう。きっとコロナ禍で在宅ワークの人が増えたからに違いない」などと、勝手な理由を想像しやすい。

結婚についても、多くの人が自分の理想に近い記事を好んで閲覧する傾向がある。そのため、年の差婚願望者は年の差婚の記事ばかりが推薦されるネットの画面を見て「年の差婚が増えている」と誤解してしまう。誤った認識を持ったまま、実は以前より選ばれにくくなった年齢差の相手に期待してしまい、さらに婚期が遅れ未婚化が助長される。これから婚活を始めようとする方は、こうした点に特に気を付けてほしい。

ネット社会が生み出す「都合のいい結婚イメージ」
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー/天野 馨南子
週刊金融財政事情 2024年7月23日号