この記事は2024年7月19日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「24年のWTI原油先物価格は、80ドル近辺で底堅く推移」を一部編集し、転載したものです。


24年のWTI原油先物価格は、80ドル近辺で底堅く推移
(画像=Starkreal/stock.adobe.com)

原油相場が再び騰勢を強めている。産油国による自主減産の継続や、イスラエルとイスラム過激派ハマスの対立深刻化などを背景に、WTI原油先物価格は4月に終値で1バレル=86ドル台まで上昇した。その後、イスラエルとハマスの間で停戦交渉が進展するとの観測から、原油価格は6月初めに73ドル台まで下落したが、停戦交渉の難航が伝えられると再び上昇。7月に米国に上陸したハリケーンによる石油精製施設への被害が警戒されたこともあり、原油価格は80ドル台に水準を切り上げた。

今後、中東における軍事衝突がイランなどの産油国に波及すると、原油価格の騰勢は一段と強まるだろう。イスラエルはハマスのみならず、レバノンのシーア派勢力ヒズボラや紅海で商船への攻撃を続けるイエメンの反体制武装組織フーシとも対立しているが、いずれもイランが支援している反イスラエル勢力である。イスラエルは4月1日、親イラン勢力などを標的に、在シリアのイラン大使館周辺を空爆。イランは報復措置として、同月13日にドローン(無人機)や弾道ミサイルを発射した。イランとイスラエルの緊張が最も高まったタイミングで、原油価格が高値を付けたかたちだ。

もっとも、イランはイスラエルとの大規模な軍事衝突を望んでいない模様である。イランでは7月、事故で急死したライシ前大統領の後任に、改革派のペゼシュキアン氏が選出された。経済制裁の解除に向け、米欧との対話に前向きなペゼシュキアン氏は、米欧の反発を強めかねないイスラエルとの本格的な軍事衝突を回避するとみられる。中東情勢の緊迫化が原油価格を大幅に押し上げるリスクは、今後徐々に後退する見通しである。

産油国の減産縮小も、原油価格の上値を抑える要因となりそうだ。6月2日、石油輸出国機構(OPEC)やロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」は、サウジなど8カ国による自主減産を10月から段階的に縮小する方針を明らかにした。引き続き、供給サイドの要因が材料視されやすい相場地合いが続く可能性は高い。

一方、世界の原油需要は当面、順調な拡大が見込まれている。米エネルギー情報局(EIA)の短期エネルギー見通し(2024年7月)によると、世界の石油需要は直近6月の前年比0.5%増から、25年初めごろには2%台半ばまで伸びが加速し、石油需給が引き締まるとされている(図表)。ただし、その後は石油需要の鈍化に加えて前述の減産縮小の影響もあり、需給は緩和に転じる見込みである。将来の需給緩和が予想されるなか、原油価格の一本調子の上昇は見込みづらい。WTI原油先物価格は、24年中は80ドル近辺で底堅く推移するとみる。

24年のWTI原油先物価格は、80ドル近辺で底堅く推移
(画像=きんざいOnline)

伊藤忠総研 主席研究員/宮嵜 浩
週刊金融財政事情 2024年7月23日号