実現なら、対日M&Aで断トツ
では、セブン&アイを買収する場合、どのくらいの金額が必要になるのだろか。
同社の時価総額はおよそ5兆2000億円。上場企業の株式を大量かつ急速に買い集める場合、TOB(株式公開買い付け)が行われるが、その際、株価に30~40%程度のプレミアムを上乗せすることが多い。大雑把な前提だが、全株取得した場合は6兆円後半から7兆円を要する。
買収金額は少なくとも5兆円以上とみられるが、外国企業が日本企業を買収対象とする対日M&A(一覧表を参照)では断トツとなる。
東芝の経営危機に際し、米投資ファンドのベインキャピタルを中心とする日米韓連合は半導体子会社の東芝メモリ(現キオクシア)を2兆円で買収したが、これをはるかにしのぐ。
日立製作所の上場子会社の再編・整理の一環として、日立金属(現プロテリアル)は約8100億円、日立物流(現ロジスティード)は約6700億円で売却されたが、買い手はいずれも米国の有力投資ファンド。両社は将来、再上場を目指すとみられる。
事業会社同士となると、シンガポール塗料大手のウットラムグループが日本ペイントホールディングスを約1兆2000億円で買収したのが最も大きい。ただ、日本ペイントが経営統合後も実質的な主導権を握っている。
古くは2000年代初め、スイス製薬大手のロシュが中外製薬を子会社化したが、これは外国事業会社による対日買収の成功モデルとされる。
近年では2021年、米決済大手のペイパルが後払い決済の国内ベンチャー企業、Paidy(ペイディ、東京都港区)を2000億円で買収したことが話題を呼んだ。
今回、買収対象となったセブン&アイの取締役会は15人の取締役のうち独立社外取締役が9人と過半数を占める。買収提案を検討する特別委員会は独立社外取締役のみで構成し、その委員長は取締役会議長・筆頭独立社外取締役のスティーブン・ヘイズ・デイカズ氏が務める。
買収提案を受けた場合の対応について、経産省は昨年8月、「企業買収における行動指針」を公表。この中で、買収提案が具体的で正当性がある内容であれば、企業側は「真摯な検討」を行うよう求めている。
構造改革の最中にあるセブン
セブン&アイはかねて物言う株主の米投資ファンドのバリューアクト・キャピタル・マネジメントから、赤字が続くイトーヨーカ堂の売却を求められるなど、スーパー事業の再構築が急務になっている。コンビニ事業への経営資源の集中を徹底するため、今年4月には祖業のスーパー事業を分離し、イトーヨーカ堂の上場を検討することを表明した。
そこに飛び込んだ想定外ともいえる買収提案だ。果たして、セブン&アイはどういうボールを投げ返すのか。
◎主な対日M&A ※はMBO(経営陣による買収)案件
公表年 | 日本企業(対象企業) | 外国企業(買い手) | |
2001 | 中外製薬 | ロシュ(スイス) | 1221億円 |
2005 | 西友 | 米ウォルマート | ー |
2010 | エスエス製薬 | 独ベーリンガーインゲルハイム | 822億円 |
〃 | NECのパソコン事業 | 中国レノボ | ー |
〃 | 本間ゴルフ | 中国投資家グループ | ー |
2011 | 三洋電機の白物家電事業 | 中国ハイアール | ー |
2013 | パナソニックヘルスケア (現PHCホールディングス) |
米KKR | 1650億円 |
2015 | 日立機材(現センクシア) | 米カーライル・グループ | 293億円 |
2016 | 東芝の白物家電事業 | 中国・美的集団 | 537億円 |
〃 | カルソニックカンセイ(現マレリ) | 米KKR | 4980億円 |
2017 | 日立国際電気(現KOKUSAI ELECTRIC) | 米KKR | 2570億円 |
〃 | 東芝メモリ(現キオクシア) | 米ベインキャピタルなど | 2兆円 |
〃 | シャープ | 台湾・鴻海精密工業 | 3888億円 |
〃 | タカタの主要事業 | 中国系の米KSS(キー・セイフティ・システムズ) | 1700億円 |
〃 | 富士通のパソコン事業 | 中国レノボ | 280億円 |
2018 | パイオニア | 香港ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア | 1020億円 |
2020 | ニチイ学館※ | 米ベインキャピタル | 1100億円 |
〃 | 武田コンシューマーヘルスケア (現アリナミン製薬) |
米ブラックストーン | 2420億円 |
〃 | 日本ペイントホールディングス | ウットラムグループ(シンガポール) | 1.18兆円 |
2021 | Paidy | 米ペイパル | 3000億円 |
〃 | 資生堂のパーソナルケア事業 | 英CVCキャピタルパートナーズ | 1600億円 |
〃 | 日立金属(現プロテリアル) | 米ベインキャピタルなど | 8100億円 |
2022 | 東芝キヤリア(現日本キヤリア) | 米キヤリア | 1000億円 |
〃 | 三菱商事・ユービーエス・リアルティ(現KJRマネジメント) | 米KKR | 1157億円 |
〃 | 日立物流(現ロジスティード) | 米KKR | 6700億円 |
〃 | ハウステンボス | 香港PAG | 1000億円 |
〃 | オリンパスの科学事業 | 米ベインキャピタル | 4276億円 |
〃 | マッシュホールディングス | 米ベインキャピタル | 2000億円 |
2023 | ベネッセホールディングス※ | スウェーデンEQT | 2079億円 |
〃 | アウトソーシング※ | 米ベインキャピタル | 2221億円 |
〃 | そごう・西武 | 米フォートレス・インベストメント・グループ | 8500万円 |
2024 | 富士ソフト | 米KKR | 5583億円 |
文:M&A Online