この記事は2024年10月11日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「資材高と人材不足がもたらす不動産事業への影響」を一部編集し、転載したものです。


資材高と人材不足がもたらす不動産事業への影響
(画像=TomaszZajda/stock.adobe.com)

建築費の上昇が続いている。

2021年の年初から22年半ばにかけては、鋼材価格の高騰により資材費が大幅に上昇し、建築費が押し上げられた(図表)。その後、資材費の上昇が止まったことで建築費も横ばいとなった。

しかし、23年半ば以降は、社会経済活動の活発化に伴う需要の増加やエネルギー価格の上昇、円安の進行により資材費が再び上昇した。建設技能労働者の人材不足の高まりによる労務費の上昇圧力と相まって、建築費が再び押し上げられた。

開発素地の不足や地価の上昇も重なり、新築マンション価格も高騰している。さらに、再開発事業や建て替え計画の先送りのほか、採算悪化によって事業自体の見直しまで出ている。一方、稼働中の収益物件では、修繕費の高騰が運営純収益の押し下げ要因となっている。

資材費は、世界的な建設需要やエネルギー価格、為替水準など、複合的な要素が絡み合って変動する。最近の資材費はドル円相場との相関が特に高く、日米金利差の縮小で円高が進展すれば、上昇圧力が弱まる可能性はある。

しかし、世界的な建設需要は当面底堅いと予測されており、中東情勢の緊迫化が懸念される中でエネルギー価格の上昇圧力が強まる可能性もある。そのため、資材費が大幅に下落する蓋然性は低く、横ばいないし小幅な上昇で推移すると思われる。

一方、建築業界の人手不足は高齢化の進展と入職者の低迷という構造的要因によるものであり、短期的な解消は難しい。景気回復に伴って当面の建設投資需要は増加基調の見込みであることも勘案すると、労務費の上昇圧力は今後も相当強いと思われる。

以上を踏まえると、今後の建築費は上昇基調または高止まりとみる。足元でゼネコンは手持ち工事高を堅調に推移させているが、資材高と人手不足に起因する工事原価のかさ高を吸収できず、利益率が落ち込んでいる。そのため、採算性確保を優先した選別受注の姿勢を強めている。

従って、再開発事業や建て替えがスムーズに進まない事態が今後も続く可能性は残る。新規供給が停滞した場合、新築や築浅物件はその希少性が高まって不動産価格の押し上げ要因となり得る。

築古物件の修繕や設備更新が円滑に進まなくなる懸念もある。例えば賃貸オフィス市場では、人材採用の優位性確保等のため築浅や高スペック物件に対するテナントニーズが高まっている。結果的に築古物件では、競争力の維持・向上への投資が必要になるケースが少なくない。想定を超える工事費が重しとなり、機能更新を図れない物件が出てこよう。

資材高と人材不足がもたらす不動産事業への影響
(画像=きんざいOnline)

都市未来総合研究所 主任研究員/大島 将也
週刊金融財政事情 2024年10月15日号