特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

Chordia Therapeutics 株式会社
(画像=Chordia Therapeutics 株式会社)
三宅 洋(みやけ ひろし)――代表取締役
1970年生まれ。大阪大学薬学部卒業、東京大学大学院薬学系研究科専攻 博士課程修了後、1998年、武田薬品工業に入社。HIVウイルス研究、がん領域の創薬に携わる。2017年11月、武田薬品工業より独立、Chordia Therapeutics株式会社を立ち上げ、CEOに就任。
Chordia Therapeuticsは、がん領域の研究開発に特化したバイオベンチャー企業です。日本発、世界初の抗がん薬を一日でも早く患者様のもとに届けるために、日々邁進して参ります。

目次

  1. 創業時からの事業変遷
  2. 上場を目指された背景や思い
  3. 今後の事業戦略や展望
  4. 今後のファイナンス計画や重要テーマ
  5. ZUU onlineのユーザーに⼀⾔

創業時からの事業変遷

——創業からの事業変遷を教えていただけますか?

Chordia Therapeutics 株式会社 代表取締役・三宅 洋氏(以下、社名・氏名略) 私たちは2017年11月に創業し、研究開発を開始しました。これは武田薬品工業からのスピンアウトという形で、2016年に武田薬品が全世界での研究開発組織の最適化を行ったことがきっかけです。当時、私は武田薬品で抗がん薬の研究チームを率いていましたが、組織再編によりそのチームが解散することになりました。

——そこで独立されることになったわけですね。

三宅当時、武田薬品の研究開発責任者であったアンドリュー・プランプ氏から、欧米では研究開発組織の再編時に研究者が独立して新たな会社を立ち上げることがあると聞き、私も挑戦してみようと思いました。その結果、19年間勤めた武田薬品からいくつかの研究プログラムの権利を獲得し、創業に至りました。

——創業後の資金調達も順調に進められたようですね。

三宅 創業直後にシリーズAで約12億円の資金を調達し、その後シリーズB、Cと進めていき、トータルで82億円を調達しました。この資金をもとに研究開発を進め、2018年には最初のプログラムが臨床試験に進みました。

——順調に進んでいる秘訣は何でしょうか?

三宅 やはり、武田薬品での経験が非常に大きかったですね。医薬品の研究開発に関するノウハウを持っていたことが、スタートアップとしての大きな強みになりました。また、日本のVC投資家から高い評価を受け、大規模な資金調達を実現できたことも成功の要因です。

——資金調達の際に苦労された点や工夫された点はありますか?

三宅 幸いにも、創業直後から有名なVCの支援を受けることができました。具体的には、京都大学イノベーションキャピタルさんや三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタルさんという有力VCからサポートを得ました。各ラウンドでのバリュエーション交渉はありましたが、順調に資金調達を進められたと思います。

上場を目指された背景や思い

——上場を目指された背景や思いについてお伺いしたいと思います。

三宅 私たちChordia Therapeuticsのビジョンとミッションは、ファーストインクラスの抗がん薬を開発することです。既存の抗がん薬とは異なる新しいメカニズムを持つ薬を開発し、世界中のがん患者に届けたいと考えています。

この目標を達成するためには、投資家や株主の皆様にもご理解いただいている通り、赤字が先行するビジネスモデルとなります。売上が立つのは早くても2〜3年先の見込みで、その間は皆様からの資金を活用して研究開発を進めます。新薬が規制当局に承認された段階で、初めて販売が可能となります。したがって、上場の一つの目的は資金調達であるという点も重要です。

ただ、上場にはもう一つの重要な目的があり、それは社会的な信用を得ることです。現在、私たちが進めているパイプラインの中で最も進展しているのがCTX-712という薬であり、早ければ2年後には新薬の承認申請を行えると見込んでいます。日本では政府機関との交渉が必要となりますが、上場を果たしたことで、市場からも認められた企業としての信用を得ることができました。これにより、規制当局とのコミュニケーションが有利に進められると考えています。

——上場に向けたご苦労や上場後に変わったことについて教えていただけますか?

三宅 初めて上場に挑戦したのは2023年9月でしたが、市況が好ましくなく、一度断念することになりました。その時は非常に残念でした。投資家からはポジティブなフィードバックもいただいていたものの、昨年計画していた28.8億円の調達は難しいと判断され、主幹事や既存株主と議論を重ねた結果、上場を延期することを決定しました。

——その後の再挑戦についてもお聞かせください。

三宅 その後、すぐに再挑戦を決め、今年の6月14日に上場を果たしました。今回はファイナンス規模を16億円に絞り、投資家からの需要をしっかり集めることに成功しました。上場後も安定した株価を維持していますが、未上場時の会社価値からはダウンラウンドとなりました。しかし、現在の株価は当時の価値を上回っており、市場からも暖かく迎え入れられたと感じています。

——上場を果たして良かったと感じる点を教えてください。

三宅 上場を果たしたことで、資金調達や社会的信用を得ることができ、規制当局との交渉を有利に進められるようになりました。また、会社のメンバー全員が一丸となって取り組んだ結果、上場を達成できたことは大きな成果です。これからも、私たちのビジョンとミッションを実現するために、さらなる努力を続けていきたいと思います。

今後の事業戦略や展望

——今後の事業戦略についての展望を教えていただけますか。

三宅 私たちは、既存の抗がん薬とは異なる働き方をする新しい薬の開発に取り組んでいます。現在、多くの抗がん薬が一定の効果を持っていますが、例えば急性骨髄性白血病の薬では、発症後の5年生存率が約30%と非常に低い状況です。一度発症すると、5年間生存できる確率がそれだけ低いのです。

多くの場合、抗がん薬の効果は1〜2年で薄れてしまいます。これは、がん細胞が進化し、最初の薬から逃れる方法を見つけてしまうためです。したがって、次に使用する薬は、最初の薬とは異なる作用を持つ必要があります。私たちは、既存の薬を改良するのではなく、全く新しいメカニズムで作用する薬を開発することで、再発した患者様にも有効な治療を提供したいと考えています。

現在、日本では第一相臨床試験を終え、60名の患者様に投薬を行いました。そのうち14名が急性骨髄性白血病の患者様で、6名に有効性が確認されました。これは非常に良い成績です。現在、アメリカでも急性骨髄性白血病患者様を対象とした試験を進めており、最終的には100名を超える患者様に投薬を行う予定です。この結果を基に、日本と米国で新薬の承認申請を目指しており、順調に進めば最速で2026年中に申請を行える見込みです。

——2026年に承認されるとしたら、規模感やマーケット感はどのくらいになるのでしょうか?御社の将来性も含めて教えていただけますか。

三宅 急性骨髄性白血病の患者様は、日本、アメリカ、ヨーロッパといった主要な医薬品市場に存在します。毎年、約50,000人の方が新たに急性骨髄性白血病を発症しており、そのうち約半数は最初の治療が効かず、次の治療が必要となります。つまり、約25,000人の方が次の治療を必要としており、その中で私たちのCTX-712が効果を発揮できると考えている患者様は、約12,500人にのぼります。

既存の白血病治療薬の薬価を参考にすると、年間で2000億円から4000億円規模の市場が形成されると見込んでいます。

——市場性については、適用拡大という開発戦略もあるのでしょうか。

三宅 適用拡大という開発戦略は、大手企業がよく採用する方法です。まずは再発した白血病で承認を取得し、その後、他のがんでも効果があるかを調査します。例えば、CTX-712に関しては、卵巣がんでも良好な結果が得られており、この領域でも市場を確保できれば、さらに市場規模が拡大します。このように、適用を広げていくことで、製品の価値をますます高めていくことが可能です。

今後のファイナンス計画や重要テーマ

——今後のファイナンス計画や重要テーマについてお伺いしたいのですが、上場されてからの計画や資本市場を活用した戦略について教えていただけますか?

三宅 私たちは、上場時に調達した資金を活用して、今後約2年間は研究開発を継続できると考えています。ただし、その期間内に次の研究開発資金を確保する必要があります。そこで、自社が保有する研究プログラムの権利、特に海外での権利を、グローバルな製薬メーカーにライセンス導出することで、一定の資金を得て研究開発を続けることを想定しており、現在、活発に事業開発活動を進めています。

また、事業開発の一環として、M&Aによるセカンドエグジットも当然あり得る選択肢です。もし、グローバル製薬メーカーから良い提案があり、それによって薬が一日でも早く患者さんの手に届くのであれば、積極的にM&Aを検討すべきだと考えています。

ZUU onlineのユーザーに⼀⾔

——ZUU onlineのユーザーに向けて一言いただけますでしょうか。

三宅 私たちは、新しい抗がん薬の開発という挑戦に取り組んでいます。このビジネスには時間がかかりますが、コマーシャルステージに到達すれば、非常に高い利益率を持つ製薬会社として大きく成長できる可能性があります。ですので、長期的な視点で私たちを見守っていただけると幸いです。

さらに、私たちは単なる投資対象ではなく、新しい薬を作り出すことで人類の健康に貢献することを目指しています。この志に共感し、評価していただける投資家や富裕層の方々から、長期的なご支援をいただけることを心より感謝しております。今後とも、引き続き弊社へのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

氏名
三宅 洋(みやけ ひろし)
社名
Chordia Therapeutics 株式会社
役職
代表取締役

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