兄弟姉妹間で不動産を贈与することもあります。
たとえば、兄が相続で取得した不動産をその後、弟に贈るようなケースです。
贈与をおこなった場合には、4種類の税金(贈与税、不動産取得税、登録免許税、印紙税)がかかる可能性があります。
本記事ではその詳細や、兄弟間の贈与の注意点や方法を解説します。
- 兄弟(姉妹)間で不動産を贈与した際にかかる税金は、贈与税、不動産取得税、登録免許税、印紙税
- 不動産の贈与だと基礎控除の節税効果が少ないのが注意点
- 兄弟間でも相場よりも安い価格で取引すると、贈与したとみなされる
目次
贈与とは?兄弟(姉妹)間の不動産の贈与で発生する税金は?
はじめに、贈与の定義を確認したうえで、兄弟(姉妹)間の不動産の贈与でかかる税金について確認しましょう。
贈与はあげる側ともらう側の意思が合致して成立する
贈与とは、ある人が自身の財産を無償で他の人に譲渡することを指します。
一般的な贈与では、財産をあげる側(贈与者)が財産を無償で与える意思を示し、財産をもらう側(受贈者)がそれを了承した場合に贈与が成立します。
これを兄弟のケースに当てはめると、兄が弟に対して所有する不動産を無償で贈りたいと伝え、それを弟が了承した場合に贈与が成立します。
ただし、以下のような場合は、兄弟間の贈与は成立しません。
・兄が贈与の意思を示さない
・弟が贈与を了承しない
兄弟間の不動産の贈与でかかる税金は4種類
兄弟間で不動産を贈与した場合、土地や建物を無償で取得することはできますが、以下の4種類の税金がかかります。
・贈与税
・不動産取得税
・登録免許税
・印紙税
ただし、贈与税は贈与財産の合計額が年間110万円以下であれば課税されません。
たとえば、地価の安い地域の土地を兄弟間で贈与した場合、その評価額が110万円以下であれば贈与税がかからない可能性があります。
また、贈与は兄弟間の口約束でも成立する「諾成(だくせい)」契約です。
諾成契約とは、当事者間の意思表示の合致だけで成立する契約です。
契約が成立するための書面や物の引き渡しといった特別な形式や行為を必要とせず、互いの合意があれば成立します。
贈与契約書を交わさない場合、印紙税はかかりません。
受贈者に一定の債務を負わせる負担付贈与もある
先述のとおり、贈与は、贈与者が財産を無償で与える意思を表示し、受贈者がそれを了承した場合に成立します。
ただし、贈与にはいくつかの種類があり、「負担付贈与」の場合は受贈者に一定の義務を負わせる契約となります。
負担付贈与の一例として、たとえば、兄が通院するときに弟に介助してもらうことを条件に不動産を譲るという内容が挙げられます。
もし、受贈者である弟が介助の義務を履行しない場合、兄は贈与契約を解除し、不動産の返還を求めることができます。
兄弟(姉妹)間の不動産の贈与でかかる税金を詳しく解説
贈与されることが多い財産には、現金・預貯金、有価証券、不動産(例:土地や家屋)などがあります。
これらの財産を贈与する際には、贈与税の対象となります。
兄弟間で不動産を贈与する場合、贈与税に加えて、不動産取得税、登録免許税、印紙税などもかかります。
これらの税金の詳細を確認してみましょう。
1.贈与税
兄弟間で不動産を贈与した際にかかる税金の1つ目は贈与税です。
贈与税は、個人から贈与によって財産を取得した際に課される税金です。
贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」がありますが、兄弟間の贈与で使えるのは暦年課税だけです。
理由は、相続時精算課税は特定贈与者(60歳以上の父母または祖父母など)のみが対象だからです。
兄弟間の贈与で使う暦年課税は、1年間(その年の1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた財産の合計額が基礎控除の110万円以下であれば贈与税がかからない方法です。
ただし、兄弟間で不動産の贈与がおこなわれる場合、土地や建物は高額であることが多いため、贈与を受けた財産額が110万円を超えることが大半ではないでしょうか。
贈与額が110万円を超える場合、受贈者は財産を取得した翌年の2月1日から3月15日までの間に所轄の税務署に対して申告し、納税をおこなう必要があります。
・贈与税の計算方法
贈与税の計算方法は、贈与財産(今回の場合、不動産)の価格から基礎控除の110万円を差し引き、残りの課税価格に贈与税の税率を掛けるという流れです。
計算式にすると以下のようになります。
1.不動産の価額−基礎控除110万円=基礎控除後の課税価格
2.基礎控除後の課税価格×贈与税の税率-控除額=贈与税
計算式2の中の「贈与税の税率と控除額」は、計算式1で割り出した「基礎控除後の課税価格」によって変わります。
最低の税率は10%で、最高の税率は55%です。詳しくは下記の「贈与税の速算表」をご参照ください。
一般贈与財産用(一般税率)の速算表
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
補足すると、速算表には以下の2種類があり、本記事のテーマが兄弟間の贈与のため、「一般贈与財産用(一般税率)」を紹介しています。
速算表の種類 | 使用例 |
---|---|
一般贈与財産用 (一般税率) |
・兄弟間の贈与 ・夫婦間の贈与 ・子が未成年の場合の親子間の贈与 など |
特例贈与財産用 (特例税率) |
・父母から18歳以上の子への贈与 ・祖父母から18歳以上の孫への贈与 |
一般税率よりも、特例税率の方が税率や控除額が有利になります(ただし、課税価格によっては同じ条件です)。
2.不動産取得税
兄弟間で不動産を贈与した際にかかる税金の2つ目は不動産取得税です。
不動産取得税は、不動産を取得した際に、取得した側(今回の場合は、財産をもらった受贈者)に課される税金です。
ここでいう「不動産の取得」とは、お金を払っている(例:売買)、お金を払っていない(例:贈与)に関係なく、不動産を取得することを指します。
そのため、贈与など無償で不動産を取得した場合も不動産取得税の対象となります。
不動産取得税の対象となる不動産には、以下のようなものがあります。
土地/家屋 | 種類 |
---|---|
土地 | 田、畑、宅地、山林、原野など |
家屋(建物) | 住宅、店舗、工場、倉庫など |
これらの不動産を兄弟から贈与された場合は、不動産取得税を速やかに申告し納税しましょう。
納税先は贈与された不動産が所在する都道府県になります。
通常、申告を行なわなくても、不動産の登記手続きが完了してから約4〜6ヵ月を目安に、都道府県から納税通知書が届きます。
・不動産取得税の計算方法
不動産取得税の計算方法は、不動産の評価額(固定資産税課税台帳に登録された評価額)に、あらかじめ決まった税率を掛けます。
計算式にすると、以下のようになります。
不動産取得税=不動産の評価額×税率4%(土地や住宅は3%)
補足をすると、不動産取得税の税率は4%と決まっていますが、取得したのが土地や住宅の場合、軽減税率が適用されて3%になります。
3.登録免許税
兄弟間で不動産を贈与した際にかかる税金の3つ目は登録免許税です。
登録免許税は、以下のものを登記・登録・認可などをした際に、登記や登録などを受ける人(今回の場合は、財産をもらう受贈者)に課せられる税金です。
不動産
船舶
航空機
会社 など
・登録免許税の計算方法
登録免許税の計算方法は、不動産の評価額(固定資産税課税台帳に登録された評価額)に、あらかじめ決まった税率を掛けます。
税率は、登記などをする対象が何か(例:不動産や法人など)、内容は何か(例:売買や相続、贈与など)で異なりますが、土地や建物の贈与の場合は2%です。計算式にすると、以下のようになります。
登録免許税=不動産の評価額×税率2%
補足としては、不動産の登記を司法書士に依頼した際は、司法書士の報酬もかかります。
兄弟間で不動産を贈与したときの費用をリストアップする場合は、司法書士の報酬も忘れないようにしましょう。
報酬額は事務所や内容によって異なりますが、5〜10万円程度が目安です。
4.印紙税
兄弟間で不動産を贈与した際にかかる税金の4つ目は、贈与契約書に貼り付ける印紙税です。
ただし、金額は200円と少額ですので負担になることはありません。
印紙税額は売買や相続、贈与などの契約内容によって異なります。
たとえば、不動産の売買の場合、1億円を超え5億円以下の契約だと、印紙税額は10万円になります。
一方、兄弟間で不動産を贈与する場合は、贈与契約書に契約金額が記されないのが普通です。
なぜなら、贈与とは自身の財産を無償で相手に与える契約だからです。
契約金額の記載がない場合、印紙税額は200円です。
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兄弟姉妹間で不動産を遺贈した場合は相続税の対象
不動産を親族などに譲る方法には、贈与のほかに遺贈や相続があります。
兄弟間で不動産をやり取りする際は、贈与・遺贈・相続の違いを認識したうえで、最善の方法を選ぶことをおすすめします。
これらの違いについては、以下のとおりです。
財産を譲る方法 | 課税される税金 | 内容 |
---|---|---|
贈与 | 贈与税 | ・財産を無償で相手に与える契約 ・暦年課税の場合、年間110万円を超える財産に課税される |
遺贈 | 相続税 | ・被相続人(亡くなった方)の遺言に則り、法定相続人やそれ以外の人に財産を譲る |
相続 | 相続税 | ・法定相続人(配偶者や子など)が財産を引き継ぐ |
補足としては、相続では常に法定相続人である配偶者や、第1順位の子(直系卑属)が優先して財産を引き継げます。
配偶者や子がいない場合は孫、さらに孫がいなければ第2順位の父母や祖父母など(直系尊属)が財産を引き継ぎます。
兄弟姉妹は第3順位であり、第1順位と第2順位にあたる人が誰もいないときのみ相続人となれます。
これを踏まえると、兄弟間で不動産を譲りたい場合、贈与者に第1順位と第2順位にあたる人がいるなら、贈与または遺贈を選択するのがよいという考え方もできます。
【法定相続人】
配偶者:必ず相続人になる
第1順位:被相続人の子ども・孫(直系卑属)
第2順位:父母・祖父母(直系尊属)
第3順位:兄弟姉妹・甥姪
兄弟姉妹間で不動産を贈与した際の注意点
ここまでの内容で、兄弟間で贈与する場合の概要についてはご理解いただけたと思います。
実際に兄弟間で不動産を贈与する場合には、以下の注意点があります。
1.不動産の贈与だと基礎控除の節税効果が少ない
先述のように、兄弟間の贈与では相続時精算課税を使えないため、暦年課税による贈与となります。
暦年課税は贈与財産の合計額から、年間110万円(基礎控除)を差し引いて贈与税を計算する方法です。
しかし、贈与する対象が不動産になると、課税価格が高額になることもあるため、基礎控除110万円の節税効果が小さいといえます。
たとえば、贈与財産が3,000万円の場合、基礎控除を差し引いても課税価格が2,890万円もあります。
対策としては、基礎控除110万円の範囲内で、持分贈与を毎年おこなっていく方法があります。
ただし、この方法を選択すると毎年、以下のような手間と費用が生じます。
・毎年、不動産を評価する手間がかかる(=税理士報酬が増える)
・毎年、所有権移転登記をする手間がかかる(=司法書士報酬が増える)
このデメリットを踏まえたうえで、一括で贈与するか、持分贈与にするかを判断しましょう。
2.贈与税などを兄弟が負担すると贈与税が再度発生する
兄弟間で不動産を贈与する際には、贈与税が発生します。
この贈与税を申告し、納税する義務を負うのは受贈者です。
それにも関わらず、たとえば、贈与者である兄が受贈者である弟が納税すべき贈与税を肩代わりすると、この金額に対して贈与税がかかります。
理由は、肩代わりしたお金を兄から弟に贈与したと見なされるからです。
このようなことが起きないよう、受贈者が必ず贈与税を納めることが重要です。
3.適正価格で売買するのが最善ということもある
兄弟間で不動産の所有権を移動させる方法は、遺贈・贈与・売買などがあります。
遺贈や贈与を選択した場合、兄弟の死後に配偶者や子から遺留分侵害額請求をされるなどの相続トラブルに発展する可能性があります。
そのため、状況によっては、相続トラブルを回避するために、兄弟間で不動産を売買するのが最善ということもあります。
売買を選択する場合、適正価格で取引することが大切なポイントです。
兄弟間だからといって相場よりも安い価格で取引すると、贈与したとみなされるリスクがあります。
兄弟姉妹間で不動産を贈与する方法
実際に、兄弟間で不動産を贈与するまでの3つのステップを確認しましょう。
1.相手方の同意を得る
先述のとおり、贈与は、贈与者が財産を無償で与える意思を示し、受贈者がそれを了承した場合に成立します。
兄弟間のやりとりであれば、意思を明確に伝えなくてもよいだろうという考え方はトラブルのもとです。
贈与者と受贈者がお互いに言葉や文書で「財産を無償で渡す」「財産を無償で受け取る」という意思表示をすることが重要です。
2.不動産の評価額の確認や贈与税の計算をおこなう
贈与は無償の契約のため、兄弟間でのお金のやり取りは発生しません。
ただし、受贈者側に税金(不動産取得税、登録免許税、印紙税など)や司法書士の報酬などの負担が生じます。
不動産取得税や登録免許税の計算方法は、不動産の評価額にあらかじめ決まった税率をかけるというものでした。
後々、「税金の負担が重すぎるので贈与を取り消したい」ということが起こらないよう、税額を計算したうえで贈与をするかどうかを検討することをおすすめします。
特に、都市部の土地など、高額の不動産を兄弟間で贈与する場合は要注意です。
3.贈与契約書を取り交わす
贈与は、お互いの意思が合致していれば口頭のやり取りだけでも成立する「諾成契約」です。
兄弟間の贈与の場合、「信頼関係があるから、口約束でもよい」という考えになる人もいるかもしれませんが、贈与契約書を作成することをおすすめします。
理由は、現在は兄弟間の仲が良くても、将来的にその状況が変わる可能性もあるからです。
そのときに、兄弟から「不動産を贈与した覚えはない」と言われるようなトラブルが起こる可能性もあります。
兄弟間の贈与でも契約書を交わし、不動産を登記することが重要です。
また、贈与者と受贈者の合意によって贈与契約書を交わすことで、どちらか一方からの贈与の取り消しができなくなるというメリットもあります(これに対して、口答による贈与は、一方の意思で撤回することができます)。
兄弟間で贈与契約書を取り交わすまでの流れは以下のとおりです。
1. 兄弟間で贈与の内容を決める
2. 上記の内容に沿って贈与契約書を作成する(2通作成)
3. 贈与契約書に双方が署名する
4. 贈与契約書を双方で保管する
贈与契約書の形式に法的な決まりはありませんが、以下の項目を網羅しておくと贈与の内容が明確になります。
・贈与契約を締結した年月日
・財産に関する情報
・贈与方法
・贈与者と受贈者の氏名や住所 など
たとえば、兄弟間で不動産を贈与する場合の「財産に関する情報」は、所在地・地積・地目などになります。
加えて、贈与契約書に「贈与後に速やかに所有権移転登記手続きをおこなうこと」や、「登記費用は受贈者が負担すること」などを記載しておくとトラブル防止に役立ちます。
まとめ
ここでお話してきたように、兄弟間で不動産の贈与をおこなった場合、以下の税金がかかります。
・贈与税
・不動産取得税
・登録免許税
・印紙税
そのため、兄弟から不動産の贈与の打診があった場合も「タダで不動産がもらえる」と喜ぶのではなく、これらの税金を計算したうえで贈与を受けるべきかどうかを判断することが重要です。
逆に、兄弟姉妹に対して不動産を贈与する側も、税金の支払いが相手方の負担にならないかを考慮したうえで慎重に意思を示す必要があります。
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(提供:ACNコラム)