本記事は、長嶋修氏の著書『グレートリセット後の世界をどう生きるか』(小学館)の中から一部を抜粋・編集しています。

お金,価値
(画像=lovelyday12 / stock.adobe.com)

お金そのものに価値はない

私たちが依存している現行の金融システムは、そもそもその制度設計からして全く持続可能ではありません。

そんなこと言われても「何のこっちゃ」と思うかもしれませんが、この章ではその理由をわかりやすくご説明します。とはいえ本書は金融の専門書ではありませんので、こまごまとしたロジックは省いて、本質的なエッセンスだけをお話ししたいと思います。本当のところ、経済とか金融というものは、そんなに難しいことではないどころか、実は超カンタンなのです。経済紙を読むと、何やら小難しい、呪文のようなことが書いてありますけれども。

まず、そもそもお金とは何でしょうか。

結論を言えばただの「ツール」であり、それ以上でも以下でもありません。現代社会では何をするにもお金が必要であり、生きていくにはお金が必要であるという観念から、いかにもお金そのものに価値があるかのような誤解というか錯覚を私たちは起こしがちですが、お金そのものには、実は全く価値はありません。

それでも一定以上のステイタスを持つのは、そこに「交換価値」があるためです。

「交換価値」とはカンタンな話で、1万円を差し出せば、1万円相当の財やサービスと交換してもらえるわけです。コンビニでおにぎりがほしければ150円くらい出せば交換してもらえます。

つまりお金の本質的な価値とは、一定のお金を差し出せば、その額にふさわしい財やサービスと交換してもらえるとみんなが信じていること。つまりは信用があることが、価値なのです。

ではその「信用」の根拠はどこにあるのでしょうか。

実はこの「信用の根拠」は、どこにもありません。強いて挙げれば「みんなが信じているから信じられる」という、ある種のトートロジーのような世界なのです。

「トートロジー」とは、同じ言葉を繰り返したり、言葉は異なっていても同じ意味の内容を繰り返している修辞技法の一種です。

例を挙げると次のような感じです。

「無関心とは、関心がないことである」
「お昼に食べるランチ」
「未成年の小学生」

脱線しましたが、お伝えしたかったのは、お金そのものに本質的な価値はない、ということです。

ゴールドにはなぜ価値がある?

ではなぜ本質的には価値のないお金が、今のようなステイタスを築くようになったのでしょうか。かつては形式的な価値があったのに、ある時はしごを外され、価値を失ったにもかかわらず、その本質的な意味に皆が気づかなかったからなのです。

お金の話は、その成り立ちをさかのぼればきりがないので、近年に限れば、現行金融システムは1944年、つまり80年ほど前のブレトンウッズ会議で決まっています。日本が第二次世界大戦の敗戦を迎える前年に、すでに金融システムの話し合いが行われていたことにも驚きますが、この時、次のような国際合意が取り決められました。

「ドルを世界の基軸通貨とする」
「ドルの裏付けとして、金(ゴールド)1オンス=35ドルとする」

要は、お金の価値をゴールドに紐づけることによってその価値を担保したわけです。一定のお金を持っていれば、いつでもゴールドと交換できる、というわけです。

この時日本円は「1ドル=360円の固定相場」というように、各国通貨の価値がドルに紐づけられ、そのドルの価値はゴールドに紐づけられ、ということになったわけです。

しかしそもそもゴールドに、なぜ価値があるのでしょうか。

「1オンス35ドル」といった基準も、要は「エイヤッ!」と根拠なく決めた基準であり、さらに言うと「そもそもゴールドにはなぜ価値があるのか」ということは、あまり掘り下げられることはありません。

ゴールドの価値の源泉については「古来から人々に重用されてきたから」とか「希少資源だから」「腐食や錆など変質しないから」とか、もっともらしい理由が語られますが、これも結局は「みんなが価値があると思っているから価値がある」といったトートロジーで価値が担保されているだけだと、私は考えています。

はたまた古代のシュメール神話では「アヌンナキという宇宙人が、自分たちの星を守るために必要なゴールドが枯渇したため、地球まで取りに来た」といった記述がありますが、それが価値の源泉なのでしょうか。いずれにしても、ゴールドの価値の源泉は昨日今日に生まれたわけではありません。

しかし、ゴールドもやがて価値を大きく毀損する時代がやってくるでしょう。それ以前に金融システムの改変時期が迫っており、その際には一時的にゴールドの価値が大きく上昇する場面があるのかもしれません。

ドルは下落し続けている

お金の話に戻ります。

さて、ドルの価値を「エイヤッ!」と決めてスタートした世界の金融システムでしたが、その後世界の経済のパイが思いのほか大きくなると同時に、基軸通貨ドルを持つアメリカ経済がベトナム戦争などで疲弊し、ドル基軸体制の維持が厳しくなってきました。

ブレトンウッズ会議からわずか27年後の1971年、アメリカは「ゴールドとドルの兌換(交換)を停止する」と発表したのです。つまりこの時にドルの、ひいては世界中のお金の価値の裏付けはなくなったわけです。

それでももうこの時には世界の経済は回っており、いわば「慣性の法則」が働いたとでも言うか、「みんながドルを信用しているから自分も信用する」といったトートロジーによって金融システムが保たれることになります。この事件は、当時のアメリカ大統領名を付けて「ニクソンショック」と呼ばれています。

裏付けのないお金であっても、世界の金融システムが何となく回ることが確認されたこの時、お金は単独で価値を持つようになったのです。要はゴールドという親から離れたお金の独り立ちですね。

2年後の1973年には現行の変動相場制となるわけですが、ここからお金の中における、ドルの相対的価値の下落が始まります。ドル円に限らず、世界の主要通貨とドルの長期的な価値の変遷は、1973年以降、約50年間は「ドル価値下落の歴史」なのです。

円とスイスフランが世界経済を支えている「そうは言っても、昨今は強烈な円安ドル高じゃないか」という声が聞こえてきそうです。

たしかに本稿執筆時点の為替は1ドル145円(2024年8月21日)と、直近のトレンドから円安に振れていますが、これは何も「ドルが強いから」とか「円が弱いから」ということではありません。「日米に金利差があるから」です。

近年の世界経済は強烈なインフレに見舞われ、とりわけアメリカにおいては2022年6月には9.1パーセントのインフレとなるなど、火消しのために順次、金利を上げてきました。金利が上がれば景気を冷やす、ひいてはインフレを抑制する効果があるからです。

その間日本はずっと「マイナス金利」政策を続けたため、日米金利差がドンドン開きます。こうなると「円キャリートレード」が発生しがちです。

「円キャリートレード」とはカンタンに言えば「円で資金調達したマネーをドルに換えて資産運用や事業投資を行うこと」を指しますが、これは何も外国人投資家のみならず、国内企業も同様の資産運用を行っているどころか、事業投資にも充てています。

これは、利益を追求する事業会社としてはある意味当然の行動とも言えます。「低金利で資金調達し、高金利で運用する」のは儲けの鉄則にほかならないからです。

ということは、実は次のようなことが言えるのではないでしょうか。金利差をつけることで円が売られ、ドルが買われているわけですから、この構図は大きく見ると「ドルを、円が支えてあげている構図」にほかなりません。グローバルに見ると「低利の円とスイスフランがドルを支え、世界経済を支えている」と言っても差し支えないと思います。

このスタイルは到底持続可能ではありませんので、どこかの段階で基軸通貨のドルが崩壊するか、崩壊させたくないのなら何らかのドラスティックな方策を打ち出すしかないでしょう。その時期はもうそう遠くなく、執筆時点では2026年あたりと想定しておきたいと思います。

『グレートリセット後の世界をどう生きるか』より引用
長嶋 修
不動産デベロッパーで支店長として幅広く不動産売買業務全般を経験後、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、不動産の達人 株式会社さくら事務所を設立、現会長。以降、様々な活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。

2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドオンライン等で連載中。NHKドラマ「正直不動産」の監修を一部担当。業界・政策提言や社会問題全般にも言及する。YouTubeチャンネル(長嶋修の「日本と世界を読む」)を運営し、不動産投資・政治・経済・金融全般についての情報発信をするYouTuberとしても活動中。

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