本記事は、長嶋修氏の著書『グレートリセット後の世界をどう生きるか』(小学館)の中から一部を抜粋・編集しています。
無から有を生む銀行
現行金融システムは、本質的価値がホントのところはあるようなないようなゴールドを裏付けとして始まりました。しかしその裏付けもなくなる中、慣性の法則で動いている、といったお話をしてきましたが、ここからは金融システムの本質的な欠陥というか、限界についてお話しします。経済金融が苦手な方でも実は超カンタンですので大丈夫です。
「国の借金○○○○兆円! 国民1人あたりの借金○○○万円」みたいなニュースを見ませんか? あれは何の意味もない、というか事実を大きく誤認させるアナウンスと言っていいでしょう。
そもそも現行システムは「誰かが借金をしてくれることで、誰かの資産ができる」といった構造になっています。金融システムがゼロからスタートすることを想像してください。誰も経済活動を始めておらず、お金がどこにも生まれていない状態です。この状態から、はたしてどうやってお金が世に生まれ出るのでしょうか。
まずはAさんが銀行に100万円の借金をします。するとAさんの通帳に100万円が振り込まれますが、物理的に現物の1万円札が100枚Aさんの口座にやってくるわけではなく、Aさんの口座に100万円という数字が記帳されるだけです。なんか無から有を生む錬金術のようですね。そうです。金融機関というのはこの錬金術を持っていて、何もないところからお金を生み出せることになっているのです。
この時Aさんは「100万円の負債と100万円の資産」を持った状態です。Aさんはこの100万円をBさんが提供する商品を買うために使います。Bさんの通帳に100万円の資産ができます。これでAさんの負債と資産が分かれました。Bさんは20万円を残し、80万円を使ってCさんのサービスやDさんの財を80万円分購入します。
こうして資産はどんどん世の中を巡ります。一方で大元のAさんは、100万円に利息をつけて借金を返済しなければなりません。お金を稼ぐ必要がありますので、自分が用意した商品を売ってお金を受け取ります。そのAさんの商品を買ってお金を払った人は、どこかからお金を受け取っており、それは何らかの財やサービスを売ったか、はたまた労働の対価かもしれません。こうして100万円がぐるぐると市場を駆け巡るわけですが、この時ポイントとなるのは次の2つです。
誰かの借金が誰かの資産に
まず、「誰かが借金したところからお金の流通がスタートする」ということ。
誰も借金しないのにこの世にお金が生まれることは、原理的にあり得ないわけです。したがって「誰かが借金してくれるほど、誰かの資産が増える」といった構図になっています。これが現行金融システムの、根本的な原理です。
企業や家計が銀行からお金を借りているという体裁が取られているものの、実際には何もないところからお金が生み出されるという信用創造が行われているわけです。先のニュースに当てはめて言えば「国が借金してくれればくれるほど、家計や企業の資産が増える」ということになるわけです。
金回りの仕組みにおける登場人物は「政府」「企業」「家計」の3つしかありませんから、三者の資産と負債を合計すると、ぴったりゼロになります。
つまり現在は「政府がたくさん借金してくれるほど、企業や家計の資産が増える」といった構図になっているわけです。だから本当は「国が借金している」わけではなく、政府が借金をしており、その主な借金先は日本銀行。そしてその日銀は、日本国債の53.2パーセント(2024年3月現在)を保有しています。国債というのは要するに「借用証書」のようなもので、日銀はその借用証書を担保としてお金を発行するというわけです。
政府が借用証書としての国債発行することで次々とお金を生み出し、日銀と銀行がやり取りをしてお金と債務が生み出され、そこから企業や家計が経済活動を行い、両者に資産と負債が計上される中、企業や家計は資産が大幅に超過、その分は政府が借金を被るといった構図になっているのです。
したがって
「日本の債務は断トツのトップでGDPの2倍超え!」「国の借金が大変だ!」
という事態の実情は
「借金は国ではなく、政府がしている」
「政府の借金から始めないと、市場にカネが回らない」
ということなのです。そして「政府の借金」を語る際には、同時に「企業」「家計」の資産も論じないと意味がないのです。この三者のそれぞれの資産と負債を足し合わせると、日本は全体で約480兆円の「資産超過」となっています。ということは日本以外のどこかの国が「債務超過」となっており、世界中の資産と負債を足し合わせるとゼロになります。世界の中で日本は借金大国どころか、むしろ「資産大国」なのです。
とはいえ、資産がいくらあってもお金が回らず滞り、流通しなければ経済は機能しません。1990年バブル崩壊以降、日本政府は金融引き締めや緊縮財政、消費増税など次々とカネが滞る政策を打ち出します。その結果は見ての通りで、日本は世界で断トツに経済成長しない国となり、国民の賃金は全く上がらなくなり、長いデフレに苦しみ「失われた30年」を経験します。政府が金を出さなくなったため企業や家計の需要が喚起されず、消費も投資もされなくなった結果です。
金利という無限膨張システム
ポイントの2つ目は「この仕組みには、金利がついて回る」ということです。
誰かが借金した場合、そこには必ず金利がついて回ります。ということは、常に経済が成長していないと、どこかで破綻します。そりゃそうですよね。借金で生み出された金に利息を付け続ける必要があるわけですから。
つまり現行金融システムはその構造上「永遠に膨張し続けることが宿命づけられている」と言っていいでしょう。つまり世界の借金・資産の双方の、プラスマイナスのベクトルが無限に膨張する前提となっているわけです。
これは根本的なシステムの欠陥だと私は考えています。なぜなら「宇宙の仕組みに反するから」です。宇宙の仕組みなどと言うと何を荒唐無稽なことを言っているのだと思われるかもしれませんが、冒頭にも触れたように、筆者はこの世に存在するものは全て、宇宙の仕組み、摂理の中にあると考えています。ありとあらゆる生きとし生けるものの命に始まりと終わりがあるように、この世界は循環構造・円環構造になっています。スタジオジブリの映画『千と千尋の神隠し』のキャラクター「カオナシ」がどんどん大きくなっていった後、最後に破綻する姿は、現行金融システムの行く末を暗示しているようです。
慣れ親しんだ、あるのがあたり前だと思っていた現行金融システムも、宇宙の法則上、未来永劫に持続可能ではないわけで、いつしか新システムへの改変時期がやってきます。その移行が、旧システムから新システムへと徐々に、段階的にスイッチしていくのか。それともある日、旧システムが突然シャットダウンし、一気に新システムに切り替わるのか。
「マイルドシナリオ」「ドラスティックシナリオ」の双方が考えられますが、そこがどうなるかはまだわかりません。
すでに米ドルを支えてきた「オイルダラー体制」は終了しています。1974年6月8日にアメリカとサウジアラビアの間で締結された軍事・経済協定は、2024年6月8日までの50年間効力を持つものでした。その中身はカンタンに言えば「石油をドル建てで販売する」というものです。
この協定は50年の時を経て、更新されずに終了しました。サウジアラビアは今後、石油を米ドルのみで販売するのではなく、中国人民元、ユーロ、円を含む複数の通貨で販売することになります。ひとつの時代の終わりです。ドルを支える「はしご」の完全消失です。
2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドオンライン等で連載中。NHKドラマ「正直不動産」の監修を一部担当。業界・政策提言や社会問題全般にも言及する。YouTubeチャンネル(長嶋修の「日本と世界を読む」)を運営し、不動産投資・政治・経済・金融全般についての情報発信をするYouTuberとしても活動中。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
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