これまでの事業変遷について
—— 創業に至るまでのきっかけについて教えていただけますか?
成田屋株式会社 代表取締役社長・成田 敦氏(以下、社名・氏名略) 大学生時代、たまたま仲が良かった友人が皆、創業経営者の息子だったんです。私は高校まで野球一筋で、プロ野球選手になることを夢見ていました。しかし、甲子園に出場して他の選手たちを間近に見て、自分の限界を感じました。それで野球をやめる決心をし、両親にその旨を伝えました。
その後、母親に「お前は友達がいないから、友達を作るために大学へ行け」と言われ、付属からそのまま進学しました。そこで友人たちと出会い、彼らの親と話す機会を得たんですよね。彼らの生き生きとした姿に感銘を受け、将来的に経営者になろうと思ったんです。
—— それからのキャリアはどうでしたか?
成田 大学卒業後は広告会社や商社、自動車販売業、IT企業など、22歳から35歳までさまざまな業界で営業を経験しました。そしてその後ご縁があり、足場工事関連会社の社長を務めることになりました。その時、この業界で自分の事業を始められるんじゃないかと思うようになったんです。
—— その後、独立を決意されたのですね。
成田 はい。その後も別の会社で新規事業の立ち上げに挑戦しましたが、会社員という立場でしたたが、独立するタイミングをずっと考えていたような時期でした。42歳の時、東日本大震災が起こり、このタイミングで独立しなければ一生できないと思い、決意が固まりました。震災の翌日から起業に向けて行動し始め、翌月の末には会社に退職の意向を伝え、その年の6月から自らのお金で創業経営者として事業をスタートさせました。
—— どのように事業を展開されたのですか?
成田 最初は宮城県仙台市で足場資材の販売を行い、数年して売上が10億円に達した時からようやく資金調達の目処も立ち、信頼のおける仲間と共に足場工事業を展開する事が出来ました。現在は販売事業から事業領域を拡大し、資材レンタル事業、そして大規模修繕工事も手がけることが出来るようになりました。創業14年間で10拠点を展開しましたが、半分近くの4拠点はこの短い期間で撤退を余儀なくされ、その時から人材の見極めがとても重要だと学びました。
推進力やリーダーシップを持った人材でなければ、新規事業を軌道に乗せる事は不可能なので、採用時、そして採用教育、リーダー教育がとても重要と考え、それを重点的に進めています。
自社事業の強みについて
—— 御社の強み、他社と比べた優位性について、社長が考える点を教えていただけますか。
成田 当社は基本理念として「信頼、信用、自由、責任」を掲げています。ビジョンは「人が生行く場所の進化・再生をみんなと共に!」、ミッションは「くさび足場から場の生まれ変わりを創造する」としています。
それまでは、会社のビジョンやミッションは私自身が決めて発信していましたが、今の新しい基本理念、ビジョン、ミッション、社員の価値観と現在の幹部と共に作り上げたものです。
建設業界は現場があるため、日々の業務に追われがちですが、弊社では理念経営や価値観経営を大切にしています。昔から、理念経営や価値観経営を目指していましたが、最初は社員に全く伝わりませんでした。しかし、経営理念を作り直し、今では管理職から一般職の社員にも徐々に伝わり浸透するようになってきました。
また、当社では社員研修に最も力を入れています。最近では、アドラー心理学やゲシュタル心理学のスキル、ノウハウを活かし、社長、幹部、管理職各々が社員一人ひとりと丁寧に時間をかけて接しています。その継続的な活動が上司と部下との関係性が着実に良くなり、離職率の低い状態がここ数年続いています。こんなに良好な人間関係の会社は他にはないと感じられるほど、一人ひとりが成長を遂げており、その事が一番大きな強みです。
—— 社員同士の人間関係が良好なのは素晴らしいですね。
成田 建設業界では、技術的な面も重要ですが、それ以上にお客様との信頼関係や社員同士の関係性が非常に重要です。弊社では、社員同士やお客様との関係性を大切にしています。それも弊社の大きな強みだと思っています。
ぶつかった壁やその乗り越え方
—— 困難な状況をどう乗り越えてきたか、その具体的な方法についてお聞かせください。
成田 会社を経営していく中で、特に7年目から9年目にかけて、リーダー層や管理職層が次々と退職するという状況がありました。これは非常に大きな危機でした。
—— それをどう乗り越えたのですか?
成田 実は、6年ほど前から自分自身のカウンセリングを受け始めたんです。その中で、自分の幼少期のトラウマや、親との関係性や解釈がとても影響していることがわかりました。さらに自分自身の性格の事を良く知る為に診療内科でいろいろな検査を受けた結果、合理性や段取り、生産性など、特に時間やお金に対して、とても重きを置いている事を理解しました。 自分以外の事にあまりに興味がなく、自分の価値観を他人に伝えずにいたことが、社員とのコミュニケーションの欠如を招いていたんです。社員が辞めていく理由もそこにありました。そこで、自分自身がどんな人間なのかを理解し、その事も社員に伝えた上でコミュニケーションを取るようになりました。
—— 具体的にはどのようにコミュニケーションを改善したのですか?
成田 以前は、すべてロジックだけで人と接していました。しかし、相手の行動は論理だけでコントロールできないことを理解し、私自身のありのままで接するようになりました。喜びや感謝の気持ちを素直に表現するようにし、社員らに「ありがとう」と言うことも出来るようになりました。
同時に、我慢を美徳とするのではなく、嫌なことは嫌だと正直に言うようにもなりました。自分の感情を素直に表現し、表出することで、社員も同じように振る舞えるようになり、結果的に会社全体が活性化しました。本当の意味での「言論の自由」が社内に生まれ始めたように思います。
以前は、自分は優秀だと思い込んでいた時期もありましたが、実際はそうではないと気づいたんです。自分も普通の人間だと。そこから、今までは全てトップダウンでやってきたところを社員に相談し、彼らの意見を尊重し、事業を進めるようになりました。
今後の経営・事業の展望
—— 今後の経営事業の展望について、特にM&AやIPO、新規事業の着想などがありましたら教えてください。
成田 M&Aに関しては、特に建設や工事業界での展開を考えています。ただ、重要なのは一緒にやっていく会社が敵対的にならないかが重要です。いかに私自身が仲間と感じられ、その会社の中が居心地がいいかどうかです。単にお金を儲けるためだけの会社は求めてなく、そこにいる社員の一人ひとりが、この「場」にいることを嫌だなと思わないような環境であり、それを作る事が大切です。自分自身が常に自己一致できる状態であることが最も重要ですね。
実は最近、ある案件で、売上10億円くらいの解体業の会社がありました。最初は14社がその会社を買うために手を挙げましたが、最終4社までに残りオーナー面談で「絶対に私に売った方がいい」と伝えましたが、最終2社に絞られ購入金額の意思表示で高い金額で提示された関西の会社さんに優先交渉が決まってしまいました。実は会社を経営していく中で、細かく戦略を練っても、うまくいかないことって実は多いんです。過去にも必要に応じて事業承継したことがありますが、お金を主軸として画策めいた事で物事を進めると大体うまくいかないものです。自分が心地よいか、自己一致しているかの感覚を信じることの方が、よほど重要ですね。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— 最後に、ZUU onlineユーザーへ一言お願いできますか?
成田 私自身も経験して思いますが、経営者やビジネスマンが自己分析や自己理解することは非常に重要です。自己理解を深めるために、心理カウンセリングを受けることをとても強くお勧めします。
また、日本の社会や企業文化では、真面目で従順な社員が非常に多く、社長や上司に対して意見を言うことが少ないと思います。周りも「それは失礼だ」と言ってしまうことの方が多い。しかし、本来は仕事をしていく中で、上司部下の関係であっても、社長、社員の関係であっても全ての人間は対等な関係であるべきです。大切なのは、オープンなコミュニケーションであること、包み隠さず思った事を言える関係性を社内でも人間関係の中でも築く事。会社の中で、いろいろな人間関係の中で、もっと自由に意見を交換できる環境作りをすることがとても大切だと思っています。だって、社長だろうが、幹部だろうが、上司だろうが、社員みんなが自分自身の優越性を追求する場。それが会社なんですから!!
- 氏名
- 成田 敦(なりた あつし)
- 社名
- 成田屋株式会社
- 役職
- 代表取締役