米国で大型買収を連発
損害保険業界では東京海上HD、MS&ADインシュアランスグループ(傘下に三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)、SOMPOホールディングス(傘下に損害保険ジャパン)がメガ3損保と呼ばれ、国内シェアの9割を握る。
しかし、人口減や高齢化で国内市場は成熟化が著しい。主力の自動車保険が自動車保有台数の減少という逆風にさらされ、地震や台風などの自然災害の増加よる収支悪化のリスクも高まっている。
こうした中、各社がアクセルを踏み込んできたのがM&Aをテコとする海外事業。国内にあっては非保険事業の拡大による収益源の多様化だ。
海外M&Aは3メガ損保体制ができ上がる2010年代前後から活発化した。なかでも抜きんでたのが東京海上HDで、米国で大型M&Aを連発してきた。
米保険大手のHCCインシュアランスを9400億円の巨費を投じて買収したのは2015年。生損保を問わず、日本の保険会社として今も過去最大だ。
米国ではこれ以前にも2008年にフィラデルフィアを5000億円、2013年にデルファイを2050億円で買収し、着々と足場を固めてきた。2020年にはピュアグループを3250億円で傘下に収めた。欧州では2008年に買収した英保険グループのキルンを主軸に事業を展開している。
新興市場でも布石を打ってきた。2018年にタイ損保大手のセイフティを買収したほか、南アフリカの損保大手ホラードに22.5%を出資して経営に参画した。さらに2021年にはブラジルに現地金融グループと設立した合弁損保を開業した。
国内で初の本格的M&A
翻って、国内ではこれといったM&Aは見当たらず、今回のID&Eが本格的な買収案件の第一弾とみて差し支えない。
非保険事業で先行していているのがSOMPOホールディングス。2015年にワタミから買収した介護子会社などを統合して設立した「SOMPOケア」は現在、介護業界2位に成長し、グループのヘルスケア事業の柱を担う。今夏にはコンビニジム「チョコザップ」を展開するRIZAPグループに約300億円を出資して話題を集めた。
注目される政策保有株売却
メガ3損保といえば、政策保有株の売却に注目が集まる。企業向け保険料の事前調整問題で取引先の政策保有株を持つことがなれ合いにつながっているとして、金融庁が売却を急ぐよう求めているからだ。
政策保有株は東京海上HD3.5兆円、MS&AD3.6兆円、SOMPO1.8兆円(2024年3月末、時価ベース)。東京海上HDは2030年3月までにゼロとする方針で、足元の2024年度は6000億円の売却を予定している。
売却資金は自社株買いなどを通じた株主還元のほか、M&Aを含めた成長投資の原資となる。拡大が続く海外保険市場の取り込みと並行し、保険の「事前事後」をキーワードとした第2、第3の買収案件も出番をうかがうことになりそうだ。
◎東京海上HDの主な沿革
年 | 出来事 |
2002 | 東京海上火災保険と日動火災海上保険が統合し、ミレアホールディングスを発足 |
2006 | 日新火災海上保険が合流 |
〃 | シンガポールの保険グループ、アジア・ジェネラル・ホールディングスを買収 |
2008 | 東京海上ホールディングスに社名変更 |
〃 | 英国保険グループのキルンを買収 |
〃 | 米損保フィラデルフィア・コンソリデイテッドを買収 |
2011 | 米ハワイの損保FICOHを買収 |
2012 | 米保険大手(生・損保)のデルファイ・ファイナンシャル・グループを買収 |
2015 | 米保険大手のHCCインシュアランスを買収 |
2018 | 欧州の再保険子会社2社(トウキョウ・ミレニアム・リーなど)を売却 |
〃 | タイの損保大手、セイフティを買収 |
〃 | 南アフリカの損保大手、ホラードに22.5%出資 |
2020 | 富裕層向け米保険のピュアグループを買収 |
2021 | ブラジルで合弁損保会社を開業 |
2022 | 台湾の新安東京海上に追加出資して子会社化 |
〃 | カナダに設立した損保子会社が開業 |
2024 | 11月、ID&Eホールディングスの買収を発表 |
文:M&A Online