家族信託とは?基本的な仕組みやメリット・デメリットと費用を解説
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家族信託とは、高齢者などが自身の資産である金銭や不動産の管理を信頼できる家族に委ねる資産管理の方法を指します。

特に最近では、認知症の発症リスクに備えて家族信託を利用するケースが増えています。

本記事では、家族信託の基本的な仕組みやメリット・デメリット、注意点などについて解説します。

この記事でわかること
  • 家族信託とは所有する金銭や不動産などを信頼できる家族に託し管理・処分を任せること
  • 委託者が高齢で判断能力が低下しても家族が資産を適切に管理することができる
  • 家族信託を進めるには弁護士、司法書士、税理士などにまずは相談をする

目次

  1. 家族信託とは?基本をわかりやすく解説
  2. 家族信託が役立つケース
  3. 家族信託のメリット
  4. 家族信託のデメリット
  5. 家族信託を利用する際の注意点
  6. 家族信託の手続きの流れ
  7. 家族信託に関するよくある質問(FAQ)
  8. まとめ|家族信託の契約書は定期的に見直すことも重要

家族信託とは?基本をわかりやすく解説

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はじめに、家族信託の仕組みや関わる人などの基本知識を確認しましょう。

家族信託とは家族による資産管理の方法

家族信託とは、家族や親族間で交わす契約に基づく財産管理の方法です。

資産を持つ親などが特定の目的にしたがって所有する金銭や不動産などを信頼できる家族に託し、管理・処分を任せることができます。

たとえば、家族信託が設定する「特定の目的」としては、老後の生活に必要な資金の管理や給付などが挙げられます。

家族間とはいえ契約なので、本人の判断能力が十分あるうちに契約を結ぶことが重要です。

財産の管理・処分権限が限定される

ただし、家族信託の契約を締結した後でも、財産の管理を委託された家族が自由に預貯金を引き出したり、不動産を処分したりできるわけではありません

預貯金の場合、家族信託用の口座(信託口口座)に必要な金額を移したうえで、契約に定められた範囲内で利用することができます。

・信託口口座とは

信託口口座とは、信託銀行などが管理する特別な口座のことです。

主に以下のような特徴があります。

1.資産の管理や承継を目的とした口座で、委託者、受託者、受益者の三者が関わる仕組み
2.個人の資産を信託銀行などが預かり、専門的に運用・管理する
3.相続対策や資産運用、遺言の代替手段として利用されることが多い
4.通常の銀行口座とは異なり、資産の管理方法や目的が明確に定められている
5.相続税対策や財産の円滑な承継、資産の保護などに活用される

たとえば、親が子どもや孫のために資産を将来的に引き継ぐ際に、信託口口座を利用することで、より柔軟で効果的な資産管理が可能になります。

家族信託に関わるのは委託者・受託者・受益者

これから家族信託を利用される予定の方には、家族信託に関わる人たちの名称を覚えておくことをおすすめします。

これにより、家族信託の仕組みを理解しやすくなり、手続きもスムーズに進めることができます。

家族信託を構成するのは以下の方です。

・委託者:財産を託す人
・受託者:財産の管理や処分をする人
・受益者:財産から利益を受ける人

一般的な家族信託では、委託者と受益者が同じ人になることもよくあります。

また、家族信託の対象となる財産を「信託財産」と呼びます

これも合わせて覚えておきましょう。

それぞれの家族に合わせて柔軟な契約ができる

家族信託が広く利用されている背景には、この仕組みが「個々の家族の事情に合わせて柔軟な契約ができること」が挙げられます。

たとえば、信託財産の対象を親が所有する「投資用マンション」にした場合、賃料を受け取る受益者を親とし、物件や入居者の管理の権限を受託者である子どもに設定することができます。

家族信託が役立つケース

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家族信託は、親の高齢による判断能力の低下や認知症への備え、また障害者の子どもの将来設計のために利用されることが多いです。

家族信託は役立つケースを紹介します。

1.家族が高齢になったとき

家族信託が利用されることが多いのは、親が高齢になり、判断能力の低下のリスクがある場合です。

前述のとおり、家族信託はご本人の判断能力があるうちに契約を結ぶのが前提です。

たとえば、親が元気なうちに家族信託を契約し、判断力が低下した時点で効力が生じるよう設定しておくといった契約の方法があります。

2.家族の認知症に備えるとき

将来の認知症リスクに備えて、家族信託を交わすことが増えています。

厚生労働省が2022年におこなった調査によると、65歳以上の高齢者の12.3%が認知症であり、15.5%が軽度の認知症と診断されています。

高齢者の約8人に1人が認知症という時代において、家族信託を活用して認知症に備えることは非常に重要です。

3.家族に障害者がいるとき

障害の子がいる場合、親が亡くなったり、親が認知症になったりすると、適切なサポートができなくなるおそれがあります。

それに備えて、家族信託が利用されることもあります。

家族信託のメリット

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次に、家族信託のメリットについて確認していきましょう。

家族信託には以下のメリットがあります。

1.口座の凍結リスクがなくなる

通常、預金口座の名義人が亡くなると口座が凍結されます。

それにより、葬儀などに必要な費用を引き出せない、支払いが出来ないといった問題が発生することがあります。

一方で、家族信託を利用して財産管理をおこなっている場合、委託者(親など)が亡くなった際にも、受託者(子どもなど)はその権限で預貯金から必要な金額を引き出すことが可能です。

ただし、これを実行するためには、信託口口座を開設したり、委託者が必要な権限をあらかじめ受託者に与えておく必要があります。

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2.相続トラブルのリスクを軽減できる

家族信託には、遺言書と同様の機能を持つというメリットがあります。

家族信託の契約書で財産の相続内容が決められている場合、委託者が亡くなった際には、その契約書に基づいて遺産の分配がおこなわれます。

このため、遺産分割協議を省略することができます。

家族信託による相続は、私文書の契約書でも可能です。

しかし、トラブルのリスクを軽減するという観点からは、家族信託の契約書を公正証書として作成する方が望ましいでしょう。

家族信託の契約書に財産の配分内容が記載されている場合、遺言書が存在していても、家族信託が優先されます。

作成時期に関係なく、家族信託が原則として優先されることになります。

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3.不動産を適切に管理できる

自宅や投資用マンションなどの不動産は、所有者が認知症になったり、判断能力が低下したりすると、適切な管理や修繕ができなくなるリスクがあります。

たとえば、投資用マンションの場合、このような状況に落ちると、空室率が上昇して収支が悪化するおそれがあります。

家族信託であらかじめ受託者に不動産管理の権限を与えておくことで、委託者の判断能力が低下した場合でも、安定的な管理が可能です。

4.共有不動産のリスクを回避できる

家族間で不動産を共有している場合、共有者の一方の判断能力が低下すると、管理や処分が難しくなる可能性があります。

たとえば、親子で不動産を共有している場合、親が認知症になってしまうと、不動産の処分が困難になることがあります。

家族信託を利用してあらかじめ子どもに権限を与えておくことで、親の判断能力が低下したり、親が亡くなったりした場合でも、適切な管理や処分をおこなうことができます。

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5.成年後見制度よりも裁量が大きい

家族信託と似た制度には「成年後見制度」があります。

しかし、この制度には以下のような制約があるため家族信託に比べて使い勝手が悪い面があります。

・家庭裁判所への報告義務がある
・資産の積極的な活用がしにくい
・生前贈与や相続税対策がしにくい

家族信託の場合、委託者の判断能力に問題がないうちは、本人の意思で資産の管理、処分、活用などを自由におこなうことができます

また、受託者に財産管理が移行した後も、契約の範囲内で、資産の活用や相続税対策が可能です。

6.破産や差し押さえの影響を受けない

家族信託の対象の財産は、委託者または受託者が破産・差し押さえの対象となっても処分されません(倒産隔離機能)。

ただし、この機能を悪用することは、禁じられています。

家族信託のデメリット

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家族信託には、前述のようなメリットがある一方でデメリットも存在します。

その内容を十分に理解したうえで契約を結ぶことが重要です。

1.身上監護権が適用できない

家族信託は、金銭や不動産などの財産管理を家族に委ねる契約です。

そのため、身上監護権は含まれていません。

身上監護権とは、判断能力のない本人に代わって、生活などに関する重要な手続きをおこなう権利を指します。

具体的には以下のような手続きが対象となります

・住居の契約
・介護施設などの入退所手続き
・医療や入院に関する契約や手続き など

ただし、家族信託には身上監護権が含まれていなくても、これらの手続きは一般的に家族がおこなうため、現実的には大きな問題が生じることはほとんどありません。

2.専門家の報酬などの費用がかかる

家族信託にかかる費用はケースバイケースですが、一例としては以下のような諸費用が発生することがあります。

・専門家の報酬
・公正証書の作成費用
・不動産登記に関わる費用、登録免許税 など

また、費用の目安について、家族信託普及協会では以下のように示しています。

不動産を含む場合:信託財産額(固定資産税評価額+金銭)の1.5〜2%
現金のみの場合:おおよそ20万円〜40万円

引用:一般社団法人 家族信託普及協会 家族信託とは?

たとえば、費用が信託財産の1.5%である場合、不動産や金融資産などの資産総額が1億円なら、費用は150万円となります。

いずれにしても家族信託の契約には、まとまった費用が発生するため、依頼する専門家などに支払う費用を事前に確認することが重要です。

場合によっては、複数の専門家の費用を比較することも必要になるでしょう。

家族信託を利用する際の注意点

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家族信託は、財産管理や相続対策として有効な手段ですが、適切に設定・運用しないとトラブルが発生する可能性があります。

以下に、家族信託のトラブル対策について解説します。

1.公正証書で契約したほうが安全

家族信託の契約方法については、公正証書で契約しておくのが無難です。

公正証書とは、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書を指します。

公正証書には法的に強い証拠力があるため、トラブルのリスクを軽減できます

また、実務面では、信託口口座を開設する際に、金融機関から公正証書の提出を求められることもあるため、公正証書による契約をおすすめします。

2.受託者以外の家族の理解を深める

受託者以外の家族に相談せずに家族信託を契約したことで、家族仲が悪くなってしまうケースもあります。

たとえば、家族信託の契約に基づき委託者が所有する不動産の名義を変更した場合、他の家族から「そんな話は聞いていない!」とクレームが入る可能性もあります。

このようなトラブルが起きないよう、家族間のコミュニケーションを大切にし、信託の目的や内容について理解を深めることが重要です。

誤解や不満が生じないよう、透明性を意識しましょう。

3.必要に応じて関係者がチェックする

家族信託のリスクとして、受託者(親を見守る子どもなど)が信託財産を私的に利用する可能性があります。

このリスクを回避するには、他の家族が家族信託の運用状況を定期的にチェックすることが重要です。

具体的には、受託者には信託法で帳簿作成の義務が課せられているため、他の家族がその内容を定期的にチェックする方法があります。

また、他の家族が予備的受託者として関わる方法もあります。

家族信託の手続きの流れ

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家族信託は、財産を委託する側と受託する側の双方にとって重要な契約です。

そのため、契約を結ぶ際には、手続きの流れをしっかりと把握して進めることが重要です。

家族信託の手続きは、公正証書で契約を結ぶ場合、次の3つのステップに分かれます。

1.家族信託の契約内容を決める

家族信託の手続きを進める際、最初におこなうべきことは契約内容を決めることです。

具体的には、以下のテーマを整理する必要があります。

・家族信託の目的はなにか
・家族信託の対象とする財産は何か
・誰に財産の管理をお願いするのか など

家族信託は、委託者と受託者の信頼関係に基づいて成立するものです。

そのため、家族信託を締結するのかどうかについては、お互いにしっかりと話し合う必要があります。

不安がある場合は、初めの段階から弁護士、行政書士、税理士などの専門家の助言を受けながら進めるのが良いでしょう。

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2.公正証書にする

家族信託の契約は、必ずしも公正証書にする必要はありません。

しかし、家族信託を安心して運用するためには、公正証書の作成をおすすめします。

公正証書を作成する一般的な流れは、事前に予約した日時に公証役場を訪れ、公証人に内容を確認してもらいながら作成するというものです。

その過程では、公証人による法的なチェックや内容の読み聞かせがおこなわれます。

最後に、公証人と当事者(または代理人)が署名押印すると、公正証書が完成します。

その後、原本は公証役場に20年間保管されます。

なお、公正証書を作成する当日、公証役場の受付で本人確認の書類が必要になります。

以下のうち、いずれかを必ず持参してください(当事者本人〈個人〉が作成する場合)。

1.印鑑登録証明書と実印
2.運転免許証と認印
3.マイナンバーカードと認印
4.住民基本台帳カード(写真付き)と認印
5.パスポート、身体障害者手帳または在留カードと認印

出典:日本公証人連合会 公証事務

3. 家族信託用の口座開設などの手続きをおこなう

家族信託の契約手続きが完了したら、預貯金や不動産などの名義を受託者名義に変更することが重要です。

注意点として、信託口口座にはいくつかの制約があります。

たとえば、「口座を開設できる金融機関が限られている」や「一定の預かり残高がないと口座を開設できない」といったものです。

一例として、三井住友信託銀行では、「預かり残高が3,000万円以上」の人のみが信託口口座を開設することができます。

参照:三井住友信託銀行 民事信託サポート(2024年12月3日時点)

このように、家族信託の信託口口座は通常の預金口座の開設とは条件が異なるため、事前に専門家や金融機関に問い合わせてから手続きを進めることをおすすめします。

家族信託に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、家族信託に関するよくある質問を紹介します。

Q.家族信託とは何ですか?

家族信託とは、所有する財産の管理や処分を信頼できる家族に託す方法です。

たとえば、高齢の親とその子どもが家族信託の契約を結んだ場合、親が高齢や病気などによって判断能力が低下したときに、本人の金銭や不動産を子どもが適切に管理・処分できます

Q.家族信託はどこに頼むべき?

家族信託を進めるにあたっては、弁護士や司法書士などの専門家に相談するのが良いでしょう。

また、公正証書の作成については、公証役場への申し込みが必要です。

まとめ|家族信託の契約書は定期的に見直すことも重要

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家族信託の契約書には、目的、対象の財産、受託者の権限と義務、受益者の権利などを明確に記載する必要があります。

曖昧な表現はトラブルの原因となるため、具体的かつ詳細に記載することが重要です。

家族信託は家族間の契約ですが、適切な設定や運用において法律・税務などの知識が必要です。

そのため、信託契約を進める際は、弁護士、司法書士、税理士、信託専門のコンサルタントなどのアドバイスを受けながら進めるのが望ましいです。

また、家族の状況や法律が変わることがあるので、信託契約は定期的に見直し、必要に応じて修正することが大切です。

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本間貴志
本間貴志(著者)
金融・不動産ライター。ビジネス書/実用書制作のプロ集団、アスラン編集スタジオの社員ライターを経て2016年に事務所を設立。これまでに著名人、起業家、エグゼクティブ層など800名以上のインタビュー実績がある。保有資格は、賃貸不動産経営管理士、WEBライティング実務士、SEO検定1級など。

(提供:ACNコラム