これまでの事業変遷について
—— 創業から現在に至るまでの編成、そして現在の事業についてお話しいただけますか。
株式会社アダストリア 代表取締役社長・木村 治氏(以下、社名・氏名略) 1953年に水戸で創業したカジュアルファッション専門店チェーンです。私は社長に就任してから現在4期目になります。私が入社した頃は、アメカジのカジュアルチェーンをスタートし始めた時期で、店舗も10店舗ほどしかない小さな会社でした。
事業環境は時代ごとに大きく変わってきており、これまでに4度、事業モデルを変えてきました。1回目は1973年、紳士服からメンズカジュアルショップへの変革です。2回目は1982年で、チェーンオペレーションを導入しました。3回目のチェンジは1997年頃、OEM・ODM型の生産を開始し、ストアブランドの展開を始めます。この頃に、当社の代表的なブランドでもあるローリーズファームも誕生しました。4回目のチェンジは2010年頃で、垂直統合型のSPA体制になり、商品の企画から生産、販売までを一貫して行うようになり、バリューチェーン体制が出来上がりました。現在は、5回目の事業モデルチェンジについて社内で議論しています。
—— 現在、企画から生産販売までを垂直で一括して行っているとのことですが、自社生産は他社と比べて珍しい体制なのでしょうか?
木村 当時、ほとんどの会社は商社を利用していましたが、自社生産を始めていたところもありました。しかし、現在も自社生産を行っている会社は数えるほどしかないですね。しかし、自社生産SPAは商品に強みを持たせたり、他社とは異なるデザインを提供できるという利点があります。特に私たちのようなマルチブランド戦略を取っている会社においては、商社を介すると同じような商品が並びやすくなるという弱点があります。自社生産でブランドごとのデザインが可能になるのは大きなメリットです。
自社事業の強みについて
—— 自社事業の強みについてお聞かせいただけますか?
木村 当社の特色はマルチブランド、マルチカテゴリーにあります。現在、当社では実店舗を持つブランドだけでも30以上を展開しています。さらに、子会社のBUZZWITはEC専門で実店舗を持っていませんが、こちらも30以上のブランドを展開しています。
当社の主力ブランドとしては、グローバルワーク、ニコアンド、スタディオクリップ、ローリーズファームなどがあります。これらの4ブランドだけで1300億円以上の売上があり、我々の事業全体を支えるベースとなっています。加えて、生活雑貨や服飾雑貨を扱うラコレなども急成長しています。
今年の7月からは、トゥデイズスペシャルとジョージズという2つの上質なライフスタイルブランドをM&Aしました。ファッションを軸にしつつ、アパレル以外にも食や住環境、健康、学びといったライフスタイル全般に関わる事業を展開しています。
飲食事業では、子会社の株式会社ゼットンが約100億円の売上を上げており、アロハテーブルなどのレストランを展開しています。また、公園事業では、千葉県にある葛西臨海公園を手掛けており、レストランやバーベキュー場の運営を行っています。地域と協力して芝生を設置し、手ブラでピクニックができるセットを提供するなどした結果、公園全体が活性化し、以前は決して治安が良いとは言えなかった場所が、今ではファミリーが集まる公園になりました。
—— バーベキュー場の運営などでは、雑貨事業とのシナジーもあるのでしょうか?
木村 例えば、ニコアンドのオリジナルアウトドアブランド「シティクリーク」の椅子などをレンタルしています。今後もさらにシナジーが出てくると思います。
—— 御社ではB2B事業も手掛けていると伺いましたが、具体的にはどのような内容ですか?
木村 B2B事業では、GMSの平場改革を行っており、ファウンドグッドというブランドをプロデュースしています。また、ユニフォーム事業として、各社の飲食店やさまざまな企業のユニフォームを手掛けています。他にも空間プロデュースも行うなど、B2B事業は非常に広がっています。
—— 業績も好調のようですね。
木村 昨年は創立70周年を迎え、過去最高の売り上げと利益を達成しました。コロナ禍を経て、業績は非常に好調で、将来への手応えを感じています。
ぶつかった壁やその乗り越え方
—— 木村様は一度独立されてから戻ってこられたとのことですが、どのような経緯があったのでしょうか?
木村 私は当社へ入社後、実は一度退社しているんです。30代で独立してブランドを立ち上げ、6年ほど経営を経験しました。当時は会社がSPA体制に進む中で、クリエイティブな面での自由さや、より高単価な商品への挑戦など、自分のやりたいことを追求したかったという想いがありました。創業や経営の大変さや厳しさを経験できたのは、非常に貴重でした。自分でブランドを立ち上げ、さまざまな挑戦をした経験が、今の経営に大きな影響を与えています。
—— 御社に戻られてから困難だと感じたことはありましたか?
木村 やはりコロナ禍が一番の壁でしたね。会社の全店舗が一時的に閉鎖されるという未曾有の状況に直面しました。当時、副社長として会長と毎日、キャッシュの確保や取引先への支払いについて話し合いました。オーナー系企業ならではの迅速な判断を目の前で見られたのは非常に勉強になりましたね。
—— コロナ禍では、具体的にどのような施策を講じられたのでしょうか?
木村 まずは投資を止めずに事業を進める決断をしました。これは結果的に過去最高の売上と利益を達成する要因の一つとなりました。他の企業が給与を下げたり、投資を控えたりする中で、我々は給与を維持し、ボーナスも支給しました。中期経営計画をアップデートし、新しい計画を立てることで、スピーディな判断が可能になりました。
—— コロナ禍で行った投資や事業が、現在の業績にどのように影響していますか?
木村 自社ECサイト「and ST(アンドエスティ)(2024年10月23日よりサービス名称変更)」での取り組みが大きな影響を与えています。自社スタッフが商品紹介やコーディネートを画像や動画で投稿することで、SNSの新しい使い方が生まれました。これにより、ECサイトの集客力が向上し、今では全国4000人以上のスタッフが日々投稿を行うことで、顧客との接点を増やしています。
—— 自社ECサイトの立ち上げにおいて、特に注力されたことはありますか?
木村 現場のスタッフがインフルエンサー的な役割を果たすことで、社内の人材が育ちました。また、EC関連のスタッフやDXチームを積極的に採用し、ファッション業界の中でもトップクラスのメンバーを揃えています。これが我々の強みとなっています。
—— ネットでの販売がますます重要になっていますが、今後の展望はどのようにお考えですか?
木村 これからもネットでの販売は重要性を増していくと考えていますが、日本の社会構造を考えると、どこかで頭打ちが来るとも思っています。 僕らの強みは、EC化率が30%と高い点や1800万人を超える会員基盤です。また、ECだけではなく、「アンドエスティストア」というOMO型のリアル店舗を出店し、リアルとECを行き来させることができています。このようなECやOMOの強化と共に、グローバルも今まで以上に強化していかなくてはならないと考えています。
今後の経営・事業の展望
—— 今後の展望についてお聞かせいただけますか?
木村 新規事業についてですが、我々はバリューチェーンの強みを活かし、ブランドや組織を育成することに注力しています。その一環として、イトーヨーカ堂との協業で「ファウンドグッド」というブランドを立ち上げ、現在全国のイトーヨーカドー64店舗で展開しています。さらに、中国地方の広島にある株式会社イズミと協働し、衣料品売り場のリブランディングの取り組みとして、SHUCA(シュカ)を展開し、GMSの平場づくりを支援しています。
—— 他にもB2B事業として行っていることはありますか?
木村 店舗開発で培ったノウハウを活かし、オフィス空間などのデザインにも取り組んでいます。具体的には、商業施設の休憩室のプロデュースや、マンションの内装プロデュースを手掛けています。また、制服事業においては、JR九州のマリオットホテルの制服も制作しました。
制服事業では、既存の取引先よりもコストを抑えつつ、高品質な製品を提供できる点が強みです。素材の改良により、軽くて汚れにくく、速乾性のある制服を提案しています。この取り組みが評価され、取引先からの依頼が増加しています。最近では学校や他業界からの問い合わせも増えており、従来の制服が高価で、手入れに手間がかかるなため、我々の提案が喜ばれています。積極的な営業活動は行っていませんが、口コミを通じて関心が広がっています。
—— 既存事業の拡大についてもお聞かせください。
木村 主力ブランドであるグローバルワークは昨年度500億円を達成し、次は1000億円を目指しています。また、海外市場への拡大も進めています。
—— M&Aについてはどのように進めていますか?
木村 M&Aはアンドエスティを中心に進めており、専門チームが動いています。今年6月には、飲食業のゼットン社を100%子会社化し、7月には先程お話したライフスタイルブランドのトゥデイズスペシャルとジョージズもM&Aしました。今後も、当社とのシナジーが期待できる企業を対象に、さらなる大規模なM&Aも視野に入れています。
—— 今後の業界の変容に対する木村様の見解をお聞かせください。
木村 現在、業界全体で世代交代が進んでおり、大規模な再編が起こると考えています。その中で、当社は業界のリーディングカンパニーを目指し、引き続きさまざまな取り組みを行っていきます。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— ZUU onlineユーザーへメッセージをお願いします。
木村 他の企業とは少し異なる強みを持っていると自負しています。特に、我々はファッション領域から飲食、住まいといった分野まで広がりを持ちながら成長してきました。この点が、他の企業にはないマルチブランドの強みだと考えています。
また、社風として新しいものにチャレンジできる環境が整っています。オーナー系の企業でありながら、新規事業への投資も積極的に行っています。さらに、日経が調査したデータでは社員の幸福度も高く評価されています。社員がやりがいを持って働ける環境や、やりたいことを実現できる環境を整えている結果だと考えています。
—— 企業としての目標もお聞きしたいです。今後の展望はどのようにお考えですか?
木村 まずは、5000億円の売上、そして、10年後を見据え、1兆円企業を目指すビジョンを描いています。企業価値を高めながら、時価総額を増加させていくことが私たちの目標です。
※2024年9月2日取材
- 氏名
- 木村 治(きむら おさむ)
- 社名
- 株式会社アダストリア
- 役職
- 代表取締役社長