市街化調整区域は、比較的低コストで不動産を購入できるという点から不動産投資でも注目されることがあります。しかし、実際には「市街化調整区域は買わないほうがいい」と評価されることが多いです。
本コラムでは、市街化調整区域の意義や、不動産投資における考え方、メリット・デメリットを紹介し、本当に「買わない方がいい」のかどうか検証します。また、市街化調整区域の調べ方も解説します。
市街化調整区域とは?
都市の健全な発展や自然環境の保護などを目的として、都市計画法に基づいて都道府県知事や国土交通大臣が指定した区域を都市計画区域といいます。
都市計画区域は、下記のイラストのように、市街化区域、農地や緑地を保護することが重視される市街化調整区域、市街化区域でも市街化調整区域でもない非線引き区域に分かれます。
このうち市街化調整区域は、都市計画法では「市街化を抑制すべき区域」として法的に定義されており、無秩序な市街地の拡大を防ぎ、自然環境を保護し、バランスのとれた発展を目指すために設けられた区域となっています。この区域では、将来にわたって計画的な市街化を抑制することが基本方針とされているため、宅地造成や建物の開発行為は原則として制限されています。
具体的には、住宅や店舗、工場などの建築物の建設や、土地の区画形質の変更といった開発行為が厳しく制限され、農地や山林などの自然環境を保全することが求められています。また、道路や上下水道、公園といった都市インフラの整備も原則として行われません。これは、新たな市街地の形成を抑制し、既存の市街化区域内での都市機能の集約を図るためです。
このように、市街化調整区域は都市の無秩序な拡大を防ぎ、農地や自然環境を保全するという重要な役割を担っています。ただし、既存の集落の生活環境の維持や、地域の実情に応じた必要最小限の開発については、一定の条件のもとで許可される場合もあります。
すでに市街地を形成している区域、またはおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域である市街化区域とは反対の性質をもっています。
市街化区域の特徴やメリット・デメリット、不動産投資における考え方については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
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市街化調整区域は買わない方がいい?
市街化調整区域の土地や建物を購入する際は、慎重な判断が必要です。特に不動産投資の観点からみると、市街化調整区域の物件はあまりおすすめできません。なぜなら、この区域では開発が制限されているため、将来的な区画整理や再開発による資産価値の上昇が期待できにくいからです。
また、賃貸物件として運用する場合も、人口減少が進みやすい地域特性から、安定した収益を確保することが困難になります。さらに、融資を利用して投資用の不動産を購入する場合、金融機関では市街化調整区域の物件に対して慎重な姿勢を示すことが多いため、資金調達の面でも大きな課題があります。
しかし、自己使用目的での購入を考えている場合は、また違った観点からの判断が可能です。例えば、都会の喧騒を離れてゆったりと暮らしたい、広い敷地で家庭菜園を楽しみたい、古民家をリノベーションして理想の住まいを作りたいといった生活スタイルを望む人にとっては、市街化調整区域の物件が魅力的な選択肢となる可能性があります。
このように、市街化調整区域の不動産購入を検討する際は、投資目的なのか自己使用目的なのか、目的によって判断が異なります。目的を明確にしたうえで、開発規制や建築制限といった市街化調整区域特有の制約を十分に理解し、将来的な土地利用の計画や資金計画を慎重に検討する必要があります。
不安な点がある場合は、不動産の専門家や行政機関に相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
市街化調整区域のメリット
市街化調整区域には制限が多い一方で、特定のメリットも存在します。購入や利用目的によっては、利点を十分に活用できる場合があります。以下では、費用、住環境、税金という観点から、市街化調整区域のメリットを詳しく解説します。
- 費用が安い
- 日当たり・騒音などの住環境が良い
- 低密度な土地利用
- 税金が安い
費用が安い
市街化調整区域の大きなメリットのひとつは、土地や建物の価格が比較的安価である点です。これは、この区域が法律によって開発や建築が制限されており、市街化区域と比べて不動産市場での需要が低いことが主な理由です。
実際、同じ地域内でも市街化区域と市街化調整区域では、土地の価格に大きな差が生じることが一般的です。特に都市部に近い市街化調整区域では、周辺の市街化区域と比較して、数分の一程度の価格で購入できる場合もあります。
このため、予算が限られている場合でも、広い土地や建物を手に入れることができる可能性が高くなります。
日当たり・騒音などの住環境が良い
市街化調整区域では、周囲に高層建築物が建てられる心配が少なく、日当たりの良い住環境を長期的に確保しやすいという特徴があります。また、開発が制限されているため、自然環境が豊かで、交通量も比較的少ないことから、騒音や排ガスの心配も少なくなります。
周辺に農地や緑地が多く残されているため、季節の移ろいを感じながら、のどかな田園風景を楽しむこともできます。
低密度な土地利用
市街化調整区域では、土地利用自体に制限が課されるため、市街化区域と比較して建物や住宅の密集度が低くなります。さらに、人口密度が低いため、プライバシーが保たれやすく、ゆとりのある暮らしを実現できる可能性があります。
税金が安い
市街化調整区域では、土地の評価額自体が低く設定されているため、固定資産税が比較的低くなります。
さらに、市街化調整区域では都市計画税が課税されないことも大きな特徴です。都市計画税は、道路や下水道などの都市基盤整備のための費用として課される税金ですが、市街化調整区域ではこれらの整備が原則として行われないため、この税負担がありません。
このため、市街化区域の土地と比べると、年間の税負担が大幅に少なくなることが期待できます。土地を所有し続ける際の経済的な負担が軽減されることは、長期的な視点で見ても大きなメリットとなります。
市街化調整区域のデメリット
市街化調整区域には特定のメリットがある一方で、利用目的によっては多くのデメリットが発生します。特に投資目的での不動産購入や活用を考える場合、以下に紹介する制限や課題を十分に理解しておくことが重要です。
- 資産価値が上がる可能性が低い
- 不動産投資用ローンが通りにくい
- 売却や賃貸経営が難しい
- 新築や建替えが制限される
- 補助金や優遇措置の対象になりにくい
- インフラが整っていないことがある
資産価値が上がる可能性が低い
市街化調整区域の物件は、将来的な資産価値の上昇を期待することが難しいという特徴があります。
そもそも市街化調整区域は、法律により市街化を抑制すべき区域として指定されているため、開発の対象となることはほとんど想定されていません。そのため、周辺地域で新たな商業施設やオフィスビルが建設されたり、都市基盤が整備されたりする可能性は非常に低くなります。
また、人口減少が進む地域では、需要の低下に伴って資産価値が徐々に下がっていく場合も少なくありません。
このように、不動産投資の観点からみると、市街化調整区域内の物件について将来的な値上がり益を期待することは難しく、購入を検討する際は慎重な判断が必要となります。
不動産投資用ローンが通りにくい
市街化調整区域の物件において融資を利用して購入する場合は、融資可能な物件であるかも重要になります。金融機関では市街化調整区域にある物件に対して慎重な姿勢を示すことが多く、不動産投資用ローンの融資を受けられない可能性があります。
これは、賃貸経営などの投資目的での収益性が見込みにくく、将来的な資産価値の低下リスクが高いことに加え、不動産に抵当権を設定しても十分な担保とならない可能性があるからです。
一般的な住宅ローンと比べても、審査基準が厳しく設定されることが多く、資金調達の面で大きな障壁となることがあります。
売却や賃貸経営が難しい
市街化調整区域の物件は、売却や賃貸経営が難しい傾向にあります。
まず、この区域では建築制限があるため、購入希望者や賃借人となる対象者が限定されてしまいます。また、一般的に市街化調整区域は都市部から離れていることが多く、交通の利便性も低かったり生活に必要なインフラが不足していたりと、需要自体が市街化区域と比べて著しく少なくなります。そのため、物件を売却しようとしても買い手が見つかりにくく、売却までに期間を要することも珍しくありません。
賃貸経営においても、同様に入居者を見つけることが困難で、仮に入居者が見つかったとしても、市街化区域と比べて家賃相場が低くなるので賃貸収入が思ったように得られないこともあります。
このような状況により、将来的な資産活用の選択肢が限られてしまうことは、市街化調整区域の物件を所有する上で考慮すべき重要なデメリットとなっています。
新築や建替えが制限される
市街化調整区域における大きなデメリットのひとつとして、建築に関する厳しい制限が挙げられます。この区域では新築や建替えを行う際、一般の市街化区域とは異なり、自治体への開発許可申請が必要となります。
この申請では、建築計画が法律で定められた基準に適合しているかどうかが厳密に審査されます。例えば、農家の分家住宅や既存集落の維持のための住宅など、限られた用途でしか建築が認められないケースが一般的です。また、申請から許可が下りるまでに時間がかかることも想定しておく必要があります。
ただし、地域や自治体によって許可基準は異なっており、一定の条件を満たせば建築が可能となることもあります。そのため、建築を検討する際は、事前に該当地域の自治体に相談し、具体的に建築可能な範囲を確認することが重要です。
補助金や優遇措置の対象になりづらい
市街化調整区域は、国や自治体が発展を推進するエリアではないため、補助金や税制上の優遇措置の対象外となる可能性があります。
市街化区域では、住宅建築やリフォームに対して補助金が出る場合がありますが、調整区域ではこれらの制度を利用できないことがあります。その結果、土地自体は安く購入できたとしても、建築費用やライフライン整備のための追加コストが発生し、トータルコストが高くなる場合もあります。
このように、初期費用や維持費用の面でも、市街化区域と比べて不利な状況に置かれやすい点に注意が必要です。
インフラが整っていないことがある
市街化調整区域では、生活に必要なインフラが十分に整備されていない場合が多くみられます。上下水道や道路などの基本的なライフラインが未整備であったり、整備されていても老朽化が進んでいたりすることがあります。
また、日常生活に欠かせない駅やバス停、スーパーマーケット、医療機関などの生活インフラまでの距離が遠く、車がなければ生活が困難な地域も少なくありません。特に高齢者や子育て世帯にとっては、この点が大きな生活上の課題となることがあります。
市街化調整区域の調べ方
市街化調整区域に該当する土地を確認するには、正確な情報の収集が欠かせません。
最も信頼性の高い方法として、対象地域の建築局や都市計画課に直接問い合わせることが挙げられます。これらの機関は都市計画に関する最新情報を管理しており、特定の土地が市街化区域に含まれているかどうかを迅速に確認できます。具体的な住所を伝えることで、用途地域や建築制限に関する詳細な情報も得られるほか、建築計画や土地利用に関するアドバイスを受けることも可能です。
また、多くの自治体が公開している都市計画マップを利用することで、市街化区域や市街化調整区域の区分を地図上で簡単に確認できます。これらのマップはインターネット上で閲覧できる場合が多く、土地ごとの用途地域や建築規制の情報も併せて提供されていることから、不動産投資にも活用されています。
東京都新宿区の場合、『新宿区みんなのGIS』にて、住所または地図から都市計画情報を確認できます。Googleなどの検索エンジンで「(自治体名)都市計画マップ」と検索することで、対象エリアのマップを確認してみましょう。
ただし、公開されているマップには最新の変更や詳細な制約が反映されていない場合があるため、最終的には自治体に直接確認する必要があります。都市計画に関する正確な情報は、不動産購入や投資の重要な判断材料となるため、時間をかけて慎重に調べることをおすすめします。
(提供:manabu不動産投資 )
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