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三為契約とは、「第三者のためにする契約」の略語で、主にワンルームマンションの売買などで利用される契約形態です。
本コラムでは、三為契約の概要や、メリット・デメリット、三為業者の見分け方を詳しく紹介します。三為契約は合法的な手続きではありますが、注意すべきポイントも多いため、しっかりと基本的な知識を確認しましょう。
三為契約とは?
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三為契約(さんためけいやく)とは、「第三者のためにする契約」の略語です。三為契約はあらゆる契約で利用することが可能ですが、実務上、不動産取引以外ではほとんど用いられていません。
一般的な不動産売買は売主と買主の二者間で行われますが、三為契約では売主、買主、三為業者の三者が関与します。不動産仲介取引の場合においては仲介業者が得られる仲介手数料にあらかじめ上限が設定されている一方で、三為契約における売買利益には決められた上限がありません。また、中間登記を省略し販売コストを削減できることから不動産業者にとってのメリットが大きい取引形態です。
中間省略登記とは?
不動産取引において三為契約が用いられる理由として、中間省略登記ができるという点が挙げられます。
通常、不動産の所有権移転登記は売買のたび(所有権者が変わるたび)に行われるため、本来であれば、「売主から不動産業者」「不動産業者から買主」の2つの不動産売買契約に基づいて取引がされる場合、2段階の移転登記が必要になります。
しかし三為契約では、「売主から買主」に直接所有権を移転させることができ、1段階での登記が可能になります。このように、中間の所有権移転登記を省いて売主から買主に直接登記することを、「中間省略登記」と呼びます。
宅地建物取引業法では、不動産の所有者等を明確にして取引の安全を図るため、他人が所有する不動産の売買契約は原則として禁止されています。そのため、本来であれば中間省略登記は禁止となります。
しかし、法務省通知より「第三者のためにする契約(三為契約)」と「買主の地位の譲渡」による契約であれば、例外として中間省略は認められます(平成19年1月12日法務省民二第52号民事第二課長通知)。これは、三為契約の場合には、実質的に、不動産の所有権は売主から買主に直接移転しており、三為業者が所有者となった実体がない(そもそも三為業者は所有権を取得していない)からと解釈されています。
一度禁止されたはずの中間省略登記が、三為契約においては許されるということで、三為契約による中間省略登記のことを特に「新・中間省略登記」と呼ぶこともあります。
三為契約は違法?三為契約の法的根拠
三為契約は民法537条に定められた契約形態であり、違法なものではありません。区分所有のワンルームマンションなどでは、近年は不動産仲介で取引されるケースも多く見られますが、三為契約も多く利用されています。
もともと、民法や宅地建物取引業法(宅建業法)では、以下のような前提ルールが定められています。
民法・宅建業法が定める基本ルール
・契約の効力は、当事者間にのみ生じる
・他人が所有する不動産を売買することはできない
通常、契約の効力は、当事者間にのみ生じます。不動産売買の場合には、不動産売買契約の効果として、売主には目的物(不動産)を引き渡す義務が、買主には対価(代金)を支払う義務が生じ、契約外の第三者には法的な権利義務は生じません。
また、宅建業法により、他人が所有する不動産の売買は禁止されているため、売り手は第三者が所有している不動産を売却することはできません。
これらの基本的なルールの例外として設けられたのが、三為契約です。
三為契約による例外
・売主・買主とは別に、「三為業者(不動産業者)」が間に入る
・「三為業者」は不動産の所有者ではないが、買主との間で売買契約を結ぶ
三為契約では、売主と買主以外の第三者に権利義務を生じさせること、および他人が所有する不動産の売買をすることが認められており、前述した基本ルールの例外的な規定となっています。
(第三者のためにする契約)
第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
(第三者の権利の確定)
第五百三十八条 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
2 前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、同条第一項の契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。
出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)
三為取引の流れ
三為契約による不動産の取引は複雑なため、以下の図を用いて解説します。
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①はじめに、売主と三為業者(不動産業者)が、「第三者のためにする不動産売買契約」を締結します(三為契約)。
②次に、三為業者と買主が、売主の所有する不動産について売買契約を締結します(他人物売買契約)。
③他人物売買契約に基づき、買主が三為業者に対し、売買代金を支払います。このときの代金は、三為契約における売買代金に、10%程度上乗せした額となることが一般的です。三為業者は、ここから売主に対して売買代金を支払います。
④最後に、売主から買主への所有権移転登記を行います(新・中間省略登記)。
このように三為取引では、三為業者が売主・買主のそれぞれと売買契約を結んでいる点、および所有権移転登記が1回となっている点が特徴です。
三為契約と不動産仲介の違い
三為取引では、不動産の売主と買主との間に第三者が介入するという意味で、通常の不動産仲介業務と変わらないようにも思えます。しかし実際には法的な意義が大きく異なるため、しっかりと違いを理解することが重要です。
三為取引と不動産仲介との間には、①契約形態の違いと、②利益の得方の2点に大きな違いがあります。
三為取引 | 不動産仲介 | |
---|---|---|
契約形態 | 三為業者も売買契約の当事者となる。 売主との間では三為契約を、買主との間では他人物売買契約を結ぶ。 |
仲介業者は売買契約の当事者とはならない。 売主と買主の双方と仲介契約を結ぶ「両手仲介」と、片方とだけ結ぶ「片手仲介」の2パターンがある。 |
利益の得方 | 不動産の仕入価格と売却価格の差額(転売利益) | 仲介手数料(法律で上限が定められている) |
以下からは、それぞれの内容を詳しく解説します。
契約形態の違い・瑕疵担保責任の違い
三為契約では、三為業者は売買契約の当事者となり、売主および買主の双方と売買契約を結びます。
これに対し不動産仲介では、売買契約の当事者はあくまで売主と買主であって、不動産仲介業者は「媒介契約」という形で売主または買主、もしくはその双方と仲介契約を結びます。
このことは、目的物に瑕疵があった場合、誰に対して責任を追及できるかという点で重要となります(瑕疵担保責任といいます)。
例えば建物に不備があり補修が必要となった場合、三為取引では、買主は三為業者に対して補修を請求できます。なぜなら三為取引では、買主との関係では三為業者が「売主」となる以上、三為業者は売主としての責任を負うべきだからです。
これに対し不動産仲介の場合、買主は売主に対して補修を請求することとなり、不動産仲介業者に対して請求することはできません。不動産仲介業者は取引を「仲介」しただけであって、不動産の「売主」ではないからです。
三為契約において三為業者に瑕疵担保責任を追及できるのは「引渡し後2年以内」という縛りがありますが、不動産仲介の場合には売主の瑕疵担保責任が免責されていることがほとんどです。
利益の得方の違い
三為業者は売主からの仕入れ値と、買主への売値との差額で利益を得ます。
一方で不動産仲介において、不動産仲介業者は仲介手数料という形で利益を得ます。仲介手数料の上限は宅地建物取引業法で上限が定められており、これに反する仲介手数料の請求は禁止されています。仲介手数料の上限は下図の通りです。
契約金額(税別) | 仲介手数料の上限額 |
---|---|
200万円以下 | (契約金額 × 5%)+ 消費税10% |
200万円超 400万円以下 | (契約金額 × 4%+ 2万円)+消費税10% |
400万円超 | (契約金額 × 3%+ 6万円)+消費税10% |
しかし、三為取引は「仲介業」ではないため、この制限を受けません。一般的に、三為業者が得る差額利益は買主への売値の10%程度といわれています。
三為契約を利用する不動産業者のメリット
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三為契約の理解を深めるためには、なぜ不動産仲介ではなく三為契約が用いられるのか、不動産業者側の視点に立って考えることが重要です。以下からは、三為契約を利用する不動産業者のメリットを4点紹介します。
- 利益の上限がなく大きく儲けられる
- 仕入れコストを下げられる
- 在庫の保有リスクがない
- 売買にかかる諸費用を抑えられる
利益の上限がなく大きく儲けられる
不動産業者としては、一般的な不動産仲介を行う場合と比べて、三為取引によって仲介取引よりも大きな利益を得やすくなります。仲介取引では宅地建物取引業法によって厳格に手数料の上限が定められているのに対して、利益の上限がない三為契約は不動産業者にとって非常に魅力的です。
例えば、3,000万円の不動産を取引する場合における、不動産仲介と三為取引それぞれの場合の利益を計算すると次のようになります。
不動産仲介の場合 (3,000万円 × 3% + 6万円)+消費税10% = 105万6,000円 |
三為取引の場合(利益10%程度とする) 3,000万円 ×10%程度=300万円 |
仕入れコストを下げられる
通常、不動産業者が売主から不動産を仕入れて買主に販売する場合(自社物件)、不動産業者は仕入れ資金として売主に代金の全額を支払わなければなりません。
しかし三為契約の場合、三為業者は売主に手付金だけを支払い、残額の支払いは買主からの入金を待って支払うことができるため、業者で準備すべき金額が少なくて済みます。
そのため三為契約であれば、自社の資金力を超える高額な不動産を取り扱うことができるという点でメリットとなります。
在庫の保有リスクがない
不動産業者は在庫の売れ残りが起きると、特に仕入資金を金融機関からの借入で賄っている場合に会社全体のキャッシュフローが悪化する要因となります。
しかし、三為契約では、不動産の所有権は売主から買主に直接移転するため、三為業者自身が不動産を保有することはありません。そのため業者としては、在庫保有リスクを抱えることがないのです。
三為取引はいわば不動産の無在庫転売といえるでしょう。
売買にかかる諸費用を抑えられる
通常、不動産業者が売主から不動産を仕入れて買主に販売する場合、売主から不動産業者・不動産業者から買主へと、2段階の所有権移転登記が必要となります。そのため、2段階分の登記費用が発生します。
しかし三為契約では新・中間省略登記により1回の登記で済むため、登記費用を抑えられます。
また、三為契約では不動産業者が対象物件を保有しないため、仕入れにかかる借入金利や、固定資産税・譲渡所得税・住民税などの税負担といった諸費用も生じません。
三為契約の注意点
三為契約は不動産業者にとってメリットの大きい取引である一方で、売主・買主にとってはリスクもあるため、十分に注意が必要です。以下からは、三為契約を用いる際の注意点を3つ解説します。
- 適正な価格で取引できるとは限らない
- 不動産投資ローンなどを受けられないことがある
- 本人確認を徹底する
適正な価格で取引できるとは限らない
三為業者は、売主からの仕入れ価格と、買主への販売価格との差額で利益を得ています。そのため、「安く買い、高く売る」ことでより利益が大きくなります。
すなわち、売主は物件を安く買われてしまう可能性があり、買主は適正価格よりも高額で購入してしまうリスクがあります。売主は三為業者の販売価格を、買主は三為業者の仕入れ価格を把握できないため、適正価格の把握が困難となります。
このことから、三為契約で不動産を売買する場合には、売主・買主のいずれも、不動産情報サイトなどを見るなどして相場観を養い、適正な取引価格をしっかりと把握しておく必要があります。
不動産投資ローンなどを受けられないことがある
三為契約は民法・宅建業法の例外ルールを用いた取引であり、客観的にみて取引の流れ・適正価格の把握が難しいという特徴があります。このことから、三為取引では金融機関から不動産投資ローンなどを受けられないこともあります。
特に、女性専用シェアハウスをめぐる投資詐欺事件、「かぼちゃの馬車事件」で三為契約が悪用されたことから、金融機関における三為契約のイメージが悪くなり、一層審査が厳しくなりました。
取引相手の素性を見極めるのが難しい
三為契約では、売主と買主はそれぞれ三為業者とのみ連絡を行い、互いに顔を合わせる機会がありません。そのため、取引相手に疑義があるかどうか、見極めが難しいというデメリットがあります。
例えば売主または買主が制限行為能力者(認知症で判断能力が低下している場合や、未成年である場合)であるとき、売買が成立した後であっても、取引自体が無効・取り消しとなる可能性があります。
そのため三為契約を用いる場合には、弁護士・司法書士に十分な本人確認を行ってもらうなど、慎重な手続きが必要です。
三為契約・業者の見分け方
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以下からは、三為契約や三為業者を見分ける方法を解説します。いずれも専門的な知識が必要となるため、状況に応じて弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのもおすすめです。
売買契約書の特記事項を確認する
三為契約の場合、契約書の中に特記事項として必ず三為契約である旨の記載があります。
例えば、「(不動産業者名)は、(売主)が代金を完済するまでの間に所有権の移転先を指定する。(売主)は(不動産業者名)が指定する者に、所有権を直接移転する。」といった内容です。
そのため、不動産取引の際には必ず契約内容を確認し、疑義や不安がある場合には弁護士や司法書士など専門家に確認してもらうことをおすすめします。
登記簿の所有権者を確認する
登記簿上に記載されている物件の所有者名を調べることで、三為業者かどうかを見極めることも可能です。
不動産業者が物件を仕入れて所有権を取得し、自社物件として販売する場合には、所有者名は不動産業者となっています。一方で三為契約の場合、三為業者は所有権を取得しないため、売主の名義のままとなっているのです。
不動産の登記簿は、一般社団法人民亊法務協会が運営する「登記情報提供サービス」から誰でもオンラインで閲覧することができます。
三為契約にはメリットも
三為契約は合法なものであり、「安く仕入れて高く売る」ことは商売の基本ともいえるもので、必ずしも悪いものではありません。
また、売主・買主の双方に以下のようなメリットがあるため、あえて三為契約を選んで取引する人もいます。
売り手のメリット | ・仲介手数料がかからない ・買主からの瑕疵担保責任から解放される |
---|---|
買い手のメリット | ・仲介手数料がかからない ・三為業者への瑕疵担保責任を追及できる ・三為業者からローン(金融機関)を紹介してもらえる ・フルローン・オーバーローンを組みやすい |
特にワンルームマンション投資など、比較的手持ち資金が少ない状況で行う不動産投資の場合、ローンの借入先が見つからなかったり、フルローン・オーバーローンを組めなかったりするような状況も多く起こります。
この点、三為業者の多くは金融機関と提携しており、「頭金なしフルローン」などのパッケージでローンを紹介してもらえるため、手持ち資金がなくても不動産投資にチャレンジしやすいというメリットが挙げられます。
また、言うまでもなくローンの契約内容や返済計画には十分な注意が必要ですが、三為業者から提携先の金融機関を紹介してもらうことで、個人で金融機関を開拓するよりも低い金利を利用出来る場合もあります。
本コラムで紹介したように、三為契約には特有のリスクやデメリットもあるため、特に不動産投資初心者など取引価格の相場観を掴めていない場合には、あまりおすすめできません。
三為契約を利用する場合には、メリットとデメリット・リスクを比較し、十分に注意して取引を行うようにしましょう。
(提供:manabu不動産投資 )
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