この記事は2025年1月31日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「景気停滞のドイツ経済、25年GDP成長率も0.4%程度か」を一部編集し、転載したものです。


景気停滞のドイツ経済、25年GDP成長率も0.4%程度か
(画像=weyo/stock.adobe.com)

ドイツ経済がさえない。ドイツの2024年GDP成長率は前年比0.2%減で、2年連続のマイナス成長となった。ドイツ経済は、特に中国に向けた輸出で稼いできたため、頼みの中国景気の停滞がマイナス成長の背景にある。また、製造業はロシアからの安価な天然ガスに依存してきたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格上昇もドイツにとって大きな痛手となっている。

さらに、気候変動対策が企業にコスト増を強いたことも、ドイツ景気に悪影響を及ぼしている。これについては、欧州中央銀行(ECB)元総裁のマリオ・ドラギ氏が24年9月に公表した通称「ドラギレポート」で指摘したことでも知られている。

そうしたなか、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は24年10月、国内で少なくとも三つの工場を閉鎖する方針であることを明らかにした。VWと労働組合の交渉により、結果的に工場閉鎖こそ回避したものの、3万5,000人の人員を削減することについては合意された。

ドイツの新規受注と生産を見ると、コロナ禍期を除いても、明らかに悪化の傾向を強めている(図表)。Ifo景況感指数も同様の動きを見せているが、Ifo景況感指数と鉱工業生産との関連性の高さを考えると、景気回復のメドは立っていない。

ドイツの景気低迷で、政治も混迷を極めている。オラフ・ショルツ首相は、財政出動で景気を回復過程に乗せるために、財政再建を重んじ「債務ブレーキ」の緩和に与しないクリスティアン・リントナー財務相を解任した。一方、ショルツ首相は24年12月の信任投票で反対多数で否決され、今年2月の解散総選挙を待つ状態にある。

債務ブレーキとは、ドイツ憲法が求める、政府債務の年間赤字をGDPの0.35%未満に抑え、州の赤字をゼロに制限する財政規律である。債務ブレーキでは、景気の調整は実施するものの、政治が弱くなっても債務膨張を防げる仕組みとなっている。仮にこれを緩和すると、ドイツが守り抜いてきた健全財政にネガティブな影響をもたらしかねない。

とはいえ、景気がこれほど落ち込み、国民の不満がたまるなか、財政再建よりも財政出動による景気回復を標榜する政治家が増えるのはどこの国でも同じである。そのため、債務ブレーキを今後適度に緩和することは、十分想定される。

しかし、増大する防衛費や社会保障費、環境政策コストを捻出しつつ債務ブレーキの制約を受け、かつ、GDP(国内総生産)成長率を押し上げていくことは不可能に近い。つまり、現在のドイツ政権は「トリレンマ」に陥っているわけだ。

こうしたドイツの厳しい状況が継続するため、当社ではドイツのGDP成長率について、25年は0.4%増、26年は0.6%増と予想する。ドイツでは長らく投資が進んでいないことや、技術革新・イノベーションが生まれてこなかったことなどの構造的問題も踏まえれば、さらに下押しされてもおかしくない。

景気停滞のドイツ経済、25年GDP成長率も0.4%程度か
(画像=きんざいOnline)

BNPパリバ証券 チーフクレジットストラテジスト/中空 麻奈
週刊金融財政事情 2025年2月4日号