この記事は2025年3月19日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.272『大阪オフィスエリアにおける産業集積の推計』」を一部編集し、転載したものです。

目次
この記事の概要
• 大阪オフィスエリアの産業構成を経済センサスから把握
• 近年の成長産業は人材紹介や情報通信、専門サービスであり、東京オフィス市場と共通
• 大阪と東京のオフィス市場を比較すると、一層特色ある産業集積の形成も期待される
大阪オフィスエリアの産業構成を経済センサスから把握
本稿では、大阪オフィス市場における各エリアの特徴を産業集積の面から理解するために、総務省・経済産業省「経済センサス‐活動調査」に基づく産業別の従業者数構成や直近約10年間の変化を確認する<1><2>。
図表1(右)は直近2021年時点における各エリアの産業構成を表すが、エリアによって相応に差が見られる。例えば、梅田エリアやなんばエリアでは小売業や飲食店等の比率が他エリアに比べて高い一方、堂島・中之島エリアや新大阪エリア、OBPエリアは情報サービス業等、淀屋橋・本町エリアは金融業,保険業、南森町エリアや天満橋・谷町エリアは専門・技術サービス業等の比率が相対的に高い、といった特徴が見受けられる。

1:賃貸ビルで働く従業者に限らない点に留意を要する。
2:東京オフィス市場におけるエリア別の産業集積の特徴については、2023年11月20日付レポート「経済センサスに見る東京オフィスエリアの産業集積」を参照されたい。
各エリアにおける相対的な産業集積を考察
大阪オフィス市場の中で相対的に見た際、他エリアと比べてどの産業が多い(構成比が相対的に高い)傾向にあるかを調べるため、産業特化係数が高い産業を抽出した(図表2)。以下、オフィス仲介現場の声も踏まえ、各エリアにおける産業集積を考察する。

梅田エリアは、大阪駅や梅田駅に近い交通アクセスの良さから、業種問わず引き合いの強いエリアである。他エリアに比べ、人材紹介など職業紹介・労働者派遣業の集積が目立つ<3>。
3:2021年以降の動向、特に2024年の梅田エリアにおける新築ビルの大量供給の影響は反映されていない。
堂島・中之島エリアには、情報通信業(情報サービス業とインターネット付随サービス業)が相対的に多い傾向にある。
淀屋橋・本町エリアは、御堂筋沿いを中心に銀行や生命保険・損害保険会社が立地するなど、銀行業や保険業の集積が特徴的である。一方、近年は人材確保を目的に多様な業種が移転してくる事例も見られる。
北浜・堺筋本町エリアには、アパレル商社が集積しており、繊維・衣服等卸売業の特化係数が目立って高い。
心斎橋・なんばエリアは、アパレル関連などの小売店や飲食店の集積が高く、オフィスワーカー以外の従業者も多いとみられる。
肥後橋・四ツ橋エリアは、建築材料、鉱物・金属材料等卸売業と設備工事業の特化係数が比較的高く、ゼネコンや建築資材関連の企業が多い傾向にある。
新大阪エリアでは、新幹線のアクセスが良いことや駐車場を確保しやすいこともあり、飲食料品関連の企業が多く、小売・卸を含めた産業集積が特徴的である。
南森町エリアには、新聞社やテレビ局が近隣に立地することから、取引先を含めてメディア関連の産業集積が目立つ。通販・Eコマースなど無店舗小売業の集積もみられる他、法律事務所など専門サービス業の構成比も大阪オフィス市場の中で最も高い。
天満橋・谷町エリアは、設計事務所(技術サービス業)や税理士事務所(専門サービス業)といった専門・技術サービス業が多い傾向にある。一方、オフィスから住宅への転換も一部進んでいる。
OBPエリアは、生命保険会社の本社が立地することから他エリアに比べて保険業の構成比が高い。また、機械器具卸売業や情報サービス業の産業集積もみられる。
近年の成長産業は人材紹介や情報通信、専門サービスであり、東京オフィス市場と共通している
なお、大阪オフィス市場において、2016年(平成28年調査)から2021年の5年間に従業者数の増加が目立った業種は、職業紹介・労働者派遣業、情報サービス業、専門サービス業、インターネット附随サービス業などで、この傾向は東京オフィス市場と共通している。これらの業種を、雇用が拡大しているという意味で成長産業と捉えると、近年の成長産業は梅田やOBPエリアに集積する傾向がうかがえる(図表2の色塗り箇所参照)。
オフィスストックが拡大したエリアで従業者数が増加している
2012年(平成24年調査)から2021年の約10年間における従業者数の増減率をエリアごとに見ると、堂島・中之島(+31%)、梅田(+22%)などのエリアで従業者数が大きく増加している(図表3)。

産業別には、職業紹介・労働者派遣業を含む「その他サービス業」、情報サービス業やインターネット附随サービス業を含む「情報通信業」の寄与が目立つ。
これらのエリアで従業者数が大きく増えた背景には、オフィスストックの拡大がある。三鬼商事の地区分類<4>によると、堂島・中之島を含む梅田地区<5>のオフィスストックは2010年~2024年に約16万坪増加しており、大阪オフィス市場のストック増加は梅田や堂島・中之島に集中している(図表4)。

4:図表4、5の「地区」分類は、図表1、2、3、6における「エリア」分類とは対象地域が異なる点に留意。
5:本稿のエリア分類では、概ね梅田エリアと堂島・中之島エリアを合わせた地域に相当する。
オフィスストックが拡大している地区は、オフィス賃料の上昇率も高い
梅田エリアや堂島・中之島エリアは、再開発を梃子に成長産業である人材紹介や情報通信関連の企業を呼び込んだとみられる。成長産業の取り込みは、オフィス賃料の上昇要因ともなり、梅田地区の平均賃料は2014年8月の底値から2024年末にかけて+16%上昇している(図表5)。
また、梅田地区ほどではないがオフィスストックが拡大している新大阪地区も、オフィス賃料が底値から+15%上昇した。働く人が増え、にぎわいが増すことで、エリアの魅力が高まり、オフィス賃料にもプラスの効果があるものと考えられる。

大阪と東京のオフィス市場を比較すると、一層特色ある産業集積の形成も期待される
大阪オフィス市場の各エリアの産業構成が、東京のどのオフィスエリアと似ているかを機械的に評価したところ、例えば梅田エリアの産業構成が最も近いのは西新宿エリアで、次いで池袋、新宿エリアが近いとの結果となった<6>(図表6)。職業紹介・労働者派遣業の産業集積が見られる点や、小売業や飲食店が多いなど商業性の強いエリアである点が共通していると言える。
図表6を見ると、神田、浜松町・芝、東日本橋、上野が多くのエリアで共通して挙がっている。これは、大阪オフィス市場におけるエリアごとの産業集積が比較的似通っていることを示唆しよう。
逆に、大阪オフィス市場のどのエリアとも産業構成が近くないのは、丸の内・大手町や虎ノ門、六本木・麻布などであった。これらは東京の代表的なオフィスエリアであるが、類似した産業集積を持つエリアが大阪オフィス市場には見られないとも解釈できる。
大阪オフィス市場の産業構成はエリアによって相応に差が見られるものの、一層特色ある産業集積が形成されることも期待される。

6:各エリアの産業構成比を確率分布とみなし、確率分布間の類似度を測る尺度であるJSダイバージェンスによって評価した。