鉄鋼を主軸に事業を拡大してきた佐藤商事株式会社は2024年、グループ会社であったエヌケーテックの株式の大部分を高洋電機へ譲渡し、カーブアウトした。一時は清算も検討されたエヌケーテックだったが、M&Aという形で新たな道を歩み始めた。今回のM&Aの背景には、佐藤商事のどのような思いがあったのか。佐藤商事の代表取締役 専務執行役員 浦野 正美氏、統括部長 兼 経営管理部 部長 阿久津 勝広氏に聞いた。※文中敬称略
―御社の事業内容や特徴、強みについて教えてください。
浦野:佐藤商事は、業界では独立系鉄鋼商社と呼ばれています。
独立系であるからこそ、鉄鋼部門、非鉄部門、電子部門、機械部門、ライフ部門、営業開発部門の6つのセグメントで事業を展開しています。鉄鋼部門が売上の約6割を占めていますが、自動車関係、建機・農機など幅広いユーザーを抱えています。 近年では、EV化に伴い、非鉄関係の需要も高まっています。
コロナ禍で鉄鋼需要が低迷しましたが、非鉄や電子産業が補完しあい、自社で加工メーカーを持っていることで、連結1000人規模ということもあり、部門ごとの連携が取りやすいことが強みです。
―清算という選択肢もあった中で、M&Aによる譲渡を選択された理由を教えてください。
浦野:理由は明確で、子会社であるエヌケーテックの従業員の雇用を守りたかったからです。日々汗水たらして働いている従業員が、私にとっては大事な存在です。
佐藤商事としては、2年間再建を頑張りましたが、それぞれの得意分野を生かしながら経営していくことが、社員にとっても幸福だと考えました。清算も一時は考えましたが、ストライクさんにも尽力いただき、カーブアウトによるM&Aという良い機会に恵まれました。
譲渡先には、会社を継続的に発展させてくれることを重視しました。譲渡先となった高洋電機の高祖社長には、経営に対する熱量が高く、従業員に対する思いやりを感じることができました。エヌケーテックを成長させてくれると確信しました。また、エヌケーテックを引き継ぐ畠社長とお会いした際、誠実な対応にも感銘を受けました。
―赤字が続いていた事業部門であっても譲渡先が見つかったということは、その事業に潜在的な価値を譲渡先が見出したということでしょうか?
浦野:価値観は人それぞれ違うと思います。佐藤商事から見たエヌケーテックは、過去の変遷から、経営に関して少し距離感がありました。業界が変わっていく中で、当社も価値観を生み出そうとしましたが、ノウハウが不足していました。
しかし、高洋電機さんは、エヌケーテックの新しい強みを見つけようとしています。それぞれの会社の特性を活かすことで、価値観は変わると思います。技術力のある高洋電機さんに仲間入りさせていただき、良かったと思っています。潜在的な価値は一つではないというのが私の考えです。
―M&Aによってどのようなメリットがありましたか?
阿久津:高洋電機さんは難削材の加工を得意としていますが、当社も同時期に井上マテリアルという難削材を扱う会社を持分適用会社にしました。半導体製造装置向けにハステロイやインコネル等のニッケル合金の加工を手掛けている会社です。

当社は、エヌケーテックの株式を一部まだ持っているため、また、エヌケーテックを譲受した高洋電機が得意とする領域なので、シナジーが期待できます。佐藤商事としては、これからもシナジーを大切にしていきたいと考えています。