この記事は2025年4月25日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「企業の業況は堅調も、トランプ関税による下振れ圧力に要警戒」を一部編集し、転載したものです。


企業の業況は堅調も、トランプ関税による下振れ圧力に要警戒
(画像=oka/stock.adobe.com)

(日本銀行「全国企業短期経済観測調査」)

本稿では「短観(3月調査)」から、最近の国内の企業マインドの動向を取り上げる。具体的には、業況が「良い」と回答した企業の割合から「悪い」の割合を引いた業況判断DIを軸に「需要超過」から「供給超過」を引いた内外製商品需給判断DI、販売価格が「上昇」から「下落」を引いた販売価格判断DIについても確認していく。これらの推移を、全規模・全産業ベースのデータから概観する(図表)。

今年の3月調査では、企業の景況感を表す業況判断DIが15%ポイントとなり、前回の昨年12月調査から横ばいだった。業況判断DIがプラス2桁台の高水準で推移するのは、7四半期連続となる。企業全体で見た景況感は、堅調さを維持しているといえよう。

内外製商品需給判断DIはマイナス12%ポイントとなった。統計の性質上、数値がマイナスとなる傾向があり、ここ最近のマイナス幅が過去と比べて大きいわけではないが、明確な改善は見られない。これまで、業況判断DIと内外製商品需給判断DIはおおむね連動して推移していたが、最近は両者の乖離が広がっている。足元の企業景況感の堅調は、製商品の需要増加が主因ではないと考えられる。

販売価格判断DIは、前回調査から1ポイント上昇の29%ポイントと上昇傾向が続いた。高止まりする輸入コストに加え、国内での人件費や輸送費の上昇など、企業は引き続き強いコスト上昇圧力に直面する。

だが、こうした中でも、企業は収益確保に向けた価格転嫁を継続していると示唆される。つまり、外部環境の不確実性が高まった3月調査で業況判断DIが高水準を維持したのは、価格転嫁による収益確保の動きの影響が大きかったとみられる。

一方、国内企業の先行きは、強い下振れに警戒が必要だ。3月調査における先行き判断DIは、業況判断が10%ポイントと2桁台を維持、販売価格判断は35%ポイントと一段と上昇する見通しとなり、当面の企業マインドの堅調継続を示唆している。しかし、3月調査の回収基準日である3月12日の時点で、約7割の調査票が回収され、米国の関税政策の影響が各判断DIに十分に織り込まれていない可能性がある。

3月調査の回答期間後の4月2日に、影響が広範囲に及ぶ相互関税の詳細が発表された。関税措置を巡る状況は極めて流動的になっており、企業の外部環境の不確実性は一段と高まっている。次回の6月調査では、先行き判断DIが示すような企業マインドの堅調が続かず、大幅に悪化するリスクに留意する必要がある。

企業の業況は堅調も、トランプ関税による下振れ圧力に要警戒
(画像=きんざいOnline)

SBI新生銀行 グループ経営企画部 金融調査室 シニアエコノミスト/森 翔太郎
週刊金融財政事情 2025年4月29日号