本記事は、野田和裕氏の著書『人生を全力で生き抜くためのデスマインド』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

年を取ったあなたを支えてくれるものは、お金より思い出
健康寿命を過ぎ、だんだん身体が思うように動かなくなり、行動できなくなったとき。あなたの心の支えになるのは、「思い出」でしょう。子どもの頃、学生時代、そして大人になって結婚をして、子どもを育てて……。そんな日常の中にあったさまざまな思い出が、あなたの日々を支えてくれます。
テレビを見ていても、「あ、昔、私もここに行ったことがある。あのときに一緒に行った友達は今、どうしているかな?」とか「あれ? あの場所はこんな風だったっけ? 昔はもっと何もない野原だったのになあ」など、同じものを見ても、自分が経験しているものは自分ごととして見ることができます。そう、思い出は経験によってつくられるのです。
特に、長い間やりたかったことができたとき、行きたかったところに行けたとき、人はその一瞬一瞬を後々まで鮮やかに思い出すことができます。
私は、「思い出を作るなら、できるだけ早くした方がいい。やりたいことが見つかったら、ちょっと無理してでも、一瞬でも早くやった方がいい」と考えています。
それはなぜかと言うと、2つ理由があります。
まずは、「思い出投資」は後々まで成長し続ける、息の長い投資になるからです。
例えば、私が20歳で思い切ってニューヨークに1年間留学したとしましょう。そのときにかかったお金が200万円だとします。ニューヨーク滞在中の1年間は、私にとってかけがえのない毎日になるでしょう。見るもの聞くものすべてが新しく、「ここで頑張って勉強するぞ!」と心から思えるでしょう。出会った教授、学友との刺激的な授業や他愛のない会話、スーパーでの買い物すらが、1つ1つキラキラと輝いて見えるでしょう。そして何より、この留学を成し遂げた自分を誇らしく思うことでしょう。
1年間の留学が終わって日本に帰って来ても、その思い出はずっと私の心の中に焼き付いていることでしょう。それが20歳のときだったとして、私がいわゆる平均寿命まで生きたなら、何年間その思い出を楽しめると思いますか?
60年です。60年間、ずっと楽しめるのです。留学にかかった費用は200万円でしたね。でもそれを60年間楽しめたら、1年で33,000円になります。1か月2,800円弱です。たったそれだけで、60年間ずっと心の中で楽しめる思い出ができるのです。さらに60年間にわたって「自分はできる。だって誰も知らないニューヨークで1年間頑張れたんだから」という自信を作ってくれるのです。
もう自分の力で外国に行くことができない80歳になったら、「あのとき、ちょっと無理をしてでもニューヨークに行っておいてよかった」と必ず思うでしょう。だって80歳になった方が200万円の札束を見つめていても、何も思い出がないからです。
こんな風に、若い頃に作った思い出は、おつまみの「するめイカ」のように、体験したときからその後の長い人生の間じゅうずっと、味わって楽しむことができます。
理由の2つ目は、思い出がたくさんある人は、他の人の重荷になりにくいからです。
年を取っていくということは、周囲にいた友達や家族、兄弟姉妹と次々にお別れをする、という悲しい一面もあります。そんなときに自分を支えてくれるのは、やはり思い出です。
小さなことでも、何かいつもとは違うことをした思い出。これが私たちを支えます。
人間の脳はすぐに「慣れ」に安住しがちです。だから、昨日とは違うはずの毎日に違いを見つけ出すことが苦手です。何かちょっとした「違うこと」をした日に、新しく思い出が脳に刻まれるのです。こういう「思い出せるシーン」が記憶の中にたくさんある人は、寂しいときでも自分の中で思い出を楽しむことができます。最高の思い出を懐古する、という状態を作ることができるのです。
でも思い出がほとんどなかったら? いくらお金が預金通帳の中にたくさんあっても、人は自分の寂しさをどうやって埋めたらいいのかわかりません。そうすると自然と、家族や子どもなどに「構ってほしい」という信号を出してしまうのです。
もちろん、信号を出すこと自体は悪くありません。ひたすら我慢をしているより、周りも何かできることがあるかもしれないからです。実際、信号を出すことができずに鬱々と過ごす人が増えているので、現在うつ病の投薬治療を受けている人の30%以上が65歳以上、という衝撃的な数字が出ているのです。
そうは言っても、家族や周囲の人があなたの寂しさを的確に察知し、いつもちょうどよく埋めることは現実的にできるでしょうか? 難しいと思いませんか? 最初の数回はできるかもしれません。けれども周囲もそれなりにやるべきことを持ち、忙しい毎日を送っています。そこにあなたが「寂しい、寂しい」と寄りかかってきたら? 正直なところ、あなたのそういう振る舞いや存在自体を「重たいなあ」と思う日は遠くありません。
あなたは周囲の人に「重たいなあ」と思われながら、支えてもらいたいですか? それとも、自分の中に「ワクワクする経験をした」という思い出をたくさん持って、自分で自分を支えられる人になりたいですか?
死を見つめて、今この瞬間を全力で生きるという姿勢を持って挑戦を続けていくと、自然と思い出も作ることができ、ずっと充実した人生を歩めるのではないでしょうか。

1974年福島県生まれ。東京基督教大学神学部卒業。祖父は、甲子園出場で有名な聖光学院高等学校の創設者。祖父の代よりキリスト教の精神に則った教育・福祉関連事業 (全国40事業所、従業員数1000人)を展開する実業家一族に育ち、幼少の頃からキリスト教精神を学ぶ。
2006年、31歳でキリスト教に特化した葬儀会社を創業。これまでに延べ4000人の葬儀をサポートし、創業20年目を迎える。現在、鎌倉・京都・大阪・東京の4オフィスまで事業を拡大し、日本最大のキリスト教葬儀社となっている。
セミナー実績は、日本全国のキリスト教系の団体500ヶ所で開催、延べ1万人が参加し、わかりやすい内容で定評がある。キリスト教系メディアでの取材も多く、クリスチャン経営者として国内で高い知名度を誇るひとりである。 著書に『ビジネスで勝ち抜くための聖書思考』(ぱる出版)がある。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
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