この記事は2025年6月3日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:社会保障の負担による財政危機の思い込みが国民生活を困窮化してしまいました」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

■ 社会保障費は、高齢化に比例的に増加していることが確認され、等比級数的な増加というのは思い込みにすぎませんでした。

■ 社会保障費(GDP%)の伸び率は、65-75歳比率と、75歳以上比率で説明でき、高齢化に比例的に増加しているにすぎないことが分かっています。

■ 問題なのは、高齢者比率にまったく変化がなかったと仮定した場合、社会保障費は定数のマイナス分の0.5%(GDP比)、毎年、恒常的に削減される緊縮となってしまっていることです。

■ 社会保険料の引き下げや減税で、国民生活を支えられるはずです。社会保障費の等比級数的な増加や、年金財政は深刻な状態にあるという思い込みによって、国民負担率が過度に引き上げられ、経済低迷が続いてきました。

社会保障費は、高齢化に比例的に増加していることが確認され、等比級数的な増加というのは思い込みにすぎませんでした。社会保障費(GDP%)の伸び率は、65-75歳比率と、75歳以上比率で説明でき、高齢化に比例的に増加しているにすぎないことが分かっています。高齢化が更に進行する将来的にも、伸び率は安定しています。名目GDPを拡大させつづければ、社会保障は経済の大きな負担にはなりません。過剰な危機感で国民負担率を上げ、成長が鈍化すれば、より危機に迫ります。

確かに、後期高齢者の増加は、社会保障の伸び率に対して、より若い高齢者より二倍程度の押し上げの力となります。しかし、それは比例的なもので、実際の予算の推移もその通りとなっています。問題なのは、高齢者比率にまったく変化がなかったと仮定した場合、社会保障費は定数のマイナス分の0.5%(GDP比)、毎年、恒常的に削減される緊縮となってしまっていることです。

基礎年金の国庫負担分が小さすぎるなどして、高齢化に対応した額が十分に支払われていないことになります。または、社会保障費の経済と国庫の負担は着実に減少していることになります。将来の更なる高齢化を考慮しても、GDP比0.2%程度の社会保障費の増加が恒常的に足りない試算です。

間違った前提による過度な危機感が社会保障費を削減し、医療・福祉などの社会保障を支えるインフラが打撃を受け、年金不足で国民生活にも大きな負担になってしまいました。社会保険料の引き下げや減税で、国民生活を支えられるはずです。社会保障費の等比級数的な増加や、年金財政は深刻な状態にあるという思い込みによって、国民負担率が過度に引き上げられ、経済低迷が続いてきました。

社会保障関係費(%GDP、前年度差)=-0.46 +0.57 65~75歳比率(%、前年度比、1Yラグ)+1.06 75歳以上比率(%、前年度比、1Yラグ)+0.66経済ショックダミー(2009年度に1,2010~2011年度に0.5、2020年度に1) + 0.24 アップダミー-0.25ダウンダミー;R2=0.95

図:高齢化による社会保障費の増加は比例的で等比級数的にはなっていません

図:高齢化による社会保障費の増加は比例的で等比級数的にはなっていません
(出所:財務省、内閣府、総務省、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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