本記事は、村井 一雄氏の著書『僕らは、なにを武器に働けばいいのだろうか?』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

未来のピンチを救うお守りを手に入れる方法
「プロ」として身につけたい力は、「協働力」です。
会社において、いろいろな人とともに働いていく、チームで助け合っていくという意思の力です。
「情けは人のためならず」という言葉があります。
この言葉の意味を履き違えている人が少なくありません。
どんな風に間違えているかというと、「情けをかけたら、その人のためにならないよ」と、そんな風に勘違いしている人が結構いるのです。
「情けは人のためならず」とは、そんな意味ではありません。
ちなみに、この言葉を発したのは誰だか知っていますか?
以前の5,000円札に描かれていて、ユネスコの前身である「国際知的協力委員会」を設立するなど、日本と外国の文化を仲立ちする太平洋の架け橋になりたいという思いの下、数々の功績を遺した新渡戸稲造です。
その真意はとても深いようですが、わかりやすく訳すと、「人に情けをかけることは自分自身のためであって自己満足にすぎないことだけど、情けをかけられたほうは、いつまでも忘れないでいて、やがてなんらかの形で恩返しするものだ」という教えです。
決して見返りを期待しているわけではありませんが、ビジネスシーンでは、この「情け」が欠かせない、そう私は思っています。
例えば、職場で窮地に陥っている同僚がいたとします。
顔は青ざめ、家にも帰れないでいるそんな状況に立たされていることは、傍目にもわかるほど。
ただ、それに助け舟を出すのは危険。
累が我が身にも及びそう。
「それはあなたの仕事、私には関係ない」
確かに担当者でなければ、そう思っても構わないのかもしれません。
手を差し伸べたばかりに自分も残業しなければならない羽目にあうかもしれませんし、責任を問われる事態だってあるかもしれないのです。
しかし、仕事をしていれば、あなたも、大きなトラブルにいつか巻き込まれるかもしれないのです。
自分は完璧でも、クライアントの都合によることもあります。
もし自分がそんな孤立無援の状況に立たされたら、と考えてみてください。
きっと、手を差し伸べてくれた人がいたら頼もしく思えるはずです。
そして、いつか恩返ししなければと思うに違いありません。
だからこそ、自分だけでなく、周りを見て、辛そうな同僚、先輩がいたら、自分の仕事に余裕があるなしにかかわらず「なにか手伝うことありませんか?」と声をかけてあげてほしいのです。
そうすることで、チーム全体がうまく活動するようになり、大きな成果が生まれるはずです。
まさに、情けは人のためならず。
この精神は、会社という組織では、日常的に生かされる教えなのです。
情けをかけられると、感謝の気持ちが芽生え、それからは困った人を見かけたら積極的に声がけしようと思えるような人間性を育むのです。
もちろん、これは組織内のことに限りません。
クライアントのことを思い、アドバイスやサービスを提供したことが、やがて巡り巡って、別の顧客を紹介してくれたり、別の建物を建てる計画があるときに、「また御社に設備設計を頼みたい」と声をかけてくれたりなど、徳を積めば自分に返ってくるものなのです。
会社経営者の立場で付け加えると、もし社員が自己犠牲を払って仕事に打ち込んでくれているとしたら、それを会社が見逃すことはなく、やがて必ず会社から評価をしなければなりません。
そして、会社がより発展するために、社員が自己犠牲を払わなくてもいいように、経営者は経営を整えていく必要があります。
「情けは人のためならず」
とてもいい言葉であり、わが身を律する言葉です。
仕事ができる人がやっている意外なクセとは
「プロ」と周りから認められる人材になるために必要な「クセ」について説明します。
そのクセは、疑心暗鬼になること。なんだか、ちょっといやな感じのする言葉ですが、あなたの成長速度を上げてくれる、非常に大切なものです。
簡単にいえば、何事も「疑うクセ」をつけましょうということです。
これまで相談する必要性を述べてきましたが、先輩や上司に相談して指導を受ける際に、勘違いしないでほしいポイントがあります。
先輩や上司の教えを鵜呑みにせず疑問を持つことです。
疑問を持たずに漠然と聞いていたのでは、真の理解に至らないからです。
先輩のアドバイスを受け、その場でわかった気がしても、いざ仕事を進めようとすると、まったく理解していなかったと気づくことが少なくありません。
つまり、人間、わかろうとするときには、大抵1つや2つの疑問を抱いて当たり前なのです。
「あそこのお店、おいしいよ」と言われたら、「なに料理」「量は多い?」といった会話、皆さんしませんか?
仕事の現場でも同じです。
今まで知らなかったことを教わるときには絶対に、「なぜ」「どうして」という疑問を持つはずで、そうした疑問に答えてもらうことで、より理解が増すはずです。
未知の世界に疑問がないということは少ないかもしれませんが、もし、疑問が浮かばないときでも、疑心暗鬼のクセを発動させて、本当に正しいのか、先輩の言葉を復唱してみてもいいでしょう。
「つまり、こうこう、こういう手順で進めればいいわけですね?」
と先輩の言葉を繰り返すのです。
それに対して先輩が付け加える言葉には、思わぬヒントが隠れているはずなので、ぜひお試しください。
また、クライアントの意見だろうと疑ってください。
クライアントの担当者自身が、勘違いしたり、意図を間違っていたりする可能性もあるからです。
仕事を進めていく最中に、クライアントが言っていることだとうまくいかないということが出てきたときは、「クライアントが言っていることだから正しいはず」と思考停止するのではなく、相談すべきです。
そこで、「確かにこれだとうまくいかないよね」とクライアントが納得すれば、よりよいものができたことで、あなたへの信頼はかなり上昇するはずです。
また、あなたのもちかけた疑問から、さらなる発見が生まれることも考えられます。
たとえ、クライアントが間違っていてそれを押し通したとしても、相談をした事実がリスクヘッジにつながるはずです。
設備設計の現場で見かける、疑うクセがない人がよく言う言葉があります。
「もらった参考図通りに図面を描いたのに、なにがいけないんですか?」
クライアントから渡される参考図に間違いが含まれていることは少なくありません。
「参考図を確認しましたが、私はこう思い、このように図面を仕上げました」とフィードバックしたらどうでしょう。
図面をチェックする先輩や上司も、その図面の問題点が明確になり、さらに、あなたの知識レベルがわかるので指導しやすくなるはずです。

1976年生まれ。京都府出身。
未経験で設備設計の世界に入り、28歳で独立。
その後、2016年に会社の名称を株式会社中之島設計に変更。
「気付かれない設備」をモットーに、ホテルや学校、駅、庁舎、商業施設などの設備設計を請け負っている。
また、中途採用が当たり前で、高齢化が進む業界の中で、業界の未来のために、未経験者の新卒を1から育てることをはじめ、教育体制の充実や人事制度の策定などにも力を入れている。
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